F1フロントウイング翼端板の形状について。

text & illustration by tw (2021.10.25月)

過去、1980年代から1990年代にかけてF1GPに登場したマシンで、フロントウイングの翼端板の形状が空力的に特徴的な物がいくつかあった。
簡単に云うと、翼端板を横から見て「三角形」ではなく「M字型」であり、
その空力デザインを施した人物は、ロリー バーンとアドリアン ニューウェイである。両者とも空力の天才で、何度もF1のチャンピオンシップを獲得している。

下のスケッチは、昔(80〜90年代)のF1マシンのフロントセクションを上から見た図だが、
今回のページでそれ以降では、前輪前端の赤い点線より後方へはボディワークが許可されない事を条件に話を進める。
それは、空力的に複雑なボルテックス ジェネレーター等を考慮せずに、シンプルに、翼端板の空力効果について言及したいからだ。




(下図) 今(2021年)でも、下位フォーミュラの車輌でよく見かけるフロントウイング翼端板の形状だ。



しかし、空力的に、ウイング上面の圧力分布をイメージすると以下の図の様になる筈だ。
これは筆者がCFDで試したものではないが、空力学的に思考して、大まかにこの様な圧力の分布となっていると考えられる。
赤い空間が高圧域だ。



この圧力分布となっていると仮定した上で、上の図でスケッチした翼端板を装着すると...、



この様に、ウイング上側の気流が翼端板の上縁から外へ、すぐにこぼれてしまう。
こんな状態で走行すれば (下位フォーミュラでは、ずっと永らく してしまっているが)、
空力的にフロントの挙動がちょろちょろと不安定に動作してしまいそうに思えるが...。



そこで(上図)、ロリー バーンとアドリアン ニューウェイがデザインしたタイプの翼端板を装着すれば、当時の彼等の意図を見てとれる。
これはまず、フロントウイング先端に作用する圧力差による挙動変化を穏やかにする効果があるのは間違いない。
そして、フラップの区間で敢えて気流を外側へこぼし、それは前輪の回転が巻き起こす乱流へと合流し、後方のサイドポンツーンの方へと向かう。

ここで重要なのは、フロントウイング下面は路面との吸着作用(グランドエフェクト)で空力効率が高いが (つまり少ない空気抵抗で大きなダウンフォースが得られる)、
ウイング上面は、ほぼ無限長の大気へ作用しているだけなので、圧力を増しても空力効率が悪く、空気抵抗ばかり増えてしまい、それほどダウンフォースは増さないという事だ。

つまり、もしフロントのダウンフォースを、更に欲しければ、フロントのフラップをより立ててしまえば良く、それでフロントウイング下面と路面との更なる吸着効果が得られる。
フラップ上面の高圧流は外側へ流してしまえば、上面の空気抵抗はあまり増加しないのだ。
こぼれた気流が前輪へぶつかるという声も聞こえそうだが、翼端板の内側へのカーブへ沿って巻き込んで後方へ流れるので大丈夫である。



上図は正面から見た「三角形」の翼端板の例。
フロントウイング前端エリアで翼端板が低く、フロントウイング上面の高圧流が外側へこぼれてしまう。
こぼれた先に、前もってそこに空気が存在していて、その空気が追い出され、結果、低圧のフロントウイング下面が外側の空気を吸い込んでしまう事を助長する。これは空力効率を悪化させる。
よって筆者は、比較的 狭いフロントウイング幅のフォーミュラカーでは、M字型の翼端板の方が空力的に優れていると考えている。

(このページの最新更新日:2021.10.25月)
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