F1サスペンション機構について(10)

text & illustration by tw (2021/12/29水 〜 2022/ 2/05土)



(上図) 昨(2021)年だったか、メルセデスが公開したリヤ サスペンション内部ユニットのCGから起こした筆者によるスケッチ。
前方から観たF1リヤサスの概念図だ。
これは詳細な形状をコピーした物ではないが、リンク機構の設計の意図は皆様へお伝えできると思う。
ただしこれは、筆者は最新(2021年当時)の設計とは思えない。もう古い物だから公開したのではないだろうか?

ロッカーに差し込んである「全くねじられない中空管」の内部にはトーションバー スプリングがあり、左右のホイールのバネとなっている。
「全くねじられない中空管」は、上側にある「ライド ハイト コントローラー」を精密に作動させる為だけにある。

筆者が勝手に「ライド ハイト コントローラー」と命名してしまっているが、そういう手品みたいな車高の操作をしていた。(*下にテキストで記す。)
これはおそらく「流体ダンパー」と呼ばれていた物で、中に流体、液体や気体(おそらく圧力の高いガス)が入っていて、動き方を操作していた。(様々に計算された緻密なバルブとかが在ったのだろう。)

エンジンのクランクシャフトの最低高は、確かレギュで規定されていたので、「ピッチ ダンパー」は干渉しない様に、小径である必要があった。

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2021年のトルコGPでのメルセデスの、リヤを映すオンボード映像のあれは、ほとんど手品だった!
それは、メルセデスのマシンが低中速コーナーから立ち上がり、少しだけストレート区間を走行すると、「急にリヤの車高がギュッ!と下がった(!!)」
通常、ストレートで車速の増加と共にダウンフォースは増加するが、あれはいきなり急に下がっており、まるで動力源を備えているかの様だった。ただしそれは禁止されている。
何か特別な機構を仕込んでいない限り、あんなに急な金属スプリングの縮み方は考えられないのではないか?

メルセデスがあの様にストレート区間でリヤの地上高を大きく低下させていた狙いの意味は、
空力的にセンターディフューザーをストール(気流の失速、剥離)し、車体の空気抵抗の内の誘導抵抗を軽減させ、
ストレート走行時のドラッグ(空気抵抗)を軽減し、車体のストレート速度を大きく向上させていた。

ストールさせるとそのエリアの後方でウエイク(空気の塊)を引きづったまま走行し(それに打ち勝つ動力源はパワーユニットだけだ)、それは空気抵抗となるが、
しかしF1マシンの様に巨大な空力ダウンフォースを発生させる車輌では、ダウンフォースは基本的に誘導抵抗があるから発生するのであって、
気流をストールさせてダウンフォースを消失させてしまえば、その巨大な誘導抵抗が減少し、空気抵抗が減少するのだ。

近年、他のチームでも同じ様なシステムはトライされていたみたいだが、今(2021)年のメルセデスのそれは非常に効果が高く、
筆者のF1ファン歴は32年程だが、あれだけストレートで他マシンと速度差のあるマシンは観た事がないかもしれない!

1994年の途中からレギュで、グランドエフェクトを抑制する目的で、車体底面の決められた区間にスキッドブロックという板(横幅300mm)の装着が義務付けられている。
これは板の上下の厚みが10mmあり、レース後に1mm以上摩耗で削れていたら規則違反となるレギュであった。
現在のレギュ記述は筆者はよく知らないが、現在は部分的に、金属製の擦り板の装着が許可されている様だ。

センターディフューザーを空力的にストールさせるには、ストレート区間でリヤの地上高は路面ギリギリまで低い方が良いだろうから、
(つまり、もう空気が流れないくらいに路面と車体底面との隙間を狭くしたい。空気は粘性があるので、要は摩擦力が働いて、狭過ぎる箇所で空気は流れる事ができないのだ。)
擦っても構わないと解釈できる擦り板を、もう平気で路面に当ててしまっていて、今(2021)年のマシンはよく火花を飛び散らせながら走っていた。
リヤサスのストローク上限のコントロールは、構造的にロッカーをギヤボックスの壁へ当てて止めるか、
恐らく3つか4つあるダンパーにパッカーを備えて、任意の値で止めていたのではないかと筆者は想像しているが、いかんせんプルロッドだから構造的に外から全く観えなかった。

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