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ハース VF-17   text & illustration by tw  (2017. 2.26日〜)

F1グランプリ参戦2年目のハースのニューマシン、「VF-17」がシェイクダウンを行った。
この新車の写真は、F1-Gate.com 等を参照。以下、車体の概観から筆者の私見を記す。



昨年のマシンではノーズ先端が低かったが、今年はトレンド通りにノーズ先端中央にコブを設け、規定内でその左右を高くした。
ノーズの下へ気流を多く入れると車体底面で発生するダウンフォースが増す事実は、1990年にハイノーズとしたティレル019で明らかとなった。

モノコック側面の中段の高さには、大きめのカナードを装着している。
そして、この下方に同じ様な面積のボーダープレートがある筈だ。
前者はフロントウイングは跳ね上げた気流進路を整え、後者は車体底面へ向かう気流進路を整える。

今年のテクニカルレギュレーションでは久々に大型のサイドディフレクターを装着でき、
これは車体下側へ気流を大きく転換させるので、ステッププレーンの高さにあるボーダープレートで水平にさせる働きが重要だ。

サイドポッドのエアインテークはトレンド通り小さめだが、このサイズは、搭載するフェラーリ製パワーユニットの仕様によって決められる。
サイドポッドはポッドウイングで囲んでいるが、その手前に今年のトレンドになりそうなS字ポッドウイングはまだ無い。
サイドポッド上面を、後方へ落とし込み始める位置は後部からで、90年代のF1マシンの様でクラシックなデザインだ。

新テクニカルレギュレーションによりリヤウイングが低くなった為、エンジンカウルにはコーナリング時の気流を整えるシャークフィンを装着している。
リアウイングステーは1本で、下流を重視したスワンネックに見える。

基本的に、ハースの様な小規模なチームは、テクニカルレギュレーションが大幅に変更される年は辛くなる。
しかもF1へ参戦したのが昨年度で、新規参戦しつつその翌年用に大きく異なるマシンを開発しなければならないのは大変だった筈だ。
なので今年は多くは期待できないかもしれない。
ただ、昨年のシャーシはメカニカルな仕付けが良く、今年もそれを上手くベースに出来ているならば、空力依存度が低いコースでは少し健闘するかもしれない。

VF-17は日本時間で今夜23時から正式に公開される予定だ。
ドライバーは、ロマン・グロージャンとケビン・マグヌッセンが勤める。

(このページのここまでの最終更新日:2017. 2.26日


(2017/ 2/27月 更新) F1通信に写真が追加された。

フロントウイング上面には、カスケード以外には縦のベーンが無く、まだ開発の余地があるだろう。
上から見た写真では、タイロッドの後退角から、ホイールベースはやや短めと推測できる。
発表時点ではフロントホイール内側のカバーとブレーキダクトが無いが、時間的に間に合わなかったのか?

モノコック側面の中段カナードもその下方のボーダープレートも前後に面積が広く、流速よりも気流変動の安定性を重視しているかもしれない。
サイドディフレクターの後半は前後2枚構成で、前輪が巻き起こす乱流を、積極的に外側へ跳ね飛ばそうという意図が見える。

サイドポッドのエアインテークはやや低い。冷却面では、位置が高い方が路面の熱の影響を受けない。
サイドポッド側面下部は、彼等も狭くするコンセプトを選択した。

アンダープレートの端は、完全に間隙フラップ状となっている部分があり、上面から下方へ気流を入れている。
これは新しいアイディアとアプローチで、ここは開発の跡が見て取れる。

サイドプロテクターとヘッドレストの間には溝が無く、この辺りは工夫や気流への配慮が見られないのが残念だ。
インダクションポッドのエアインテークは、フェラーリと同様で小さめとなっている。

後輪手前のアンダーパネルには、近年流行している湾曲したスリットが4つづつ切ってある。
リヤサスペンションのアッパーアームは幅が短めで、トレンドを追っている。

ディフューザーの両端はRがついており、気流の吸い出し量はやや少ないが、おそらく挙動変化に穏やかだろう。
リヤウイング翼端板下部のスリットは縦に長い切れ込みで、ややアグレッシグな方向かもしれない。

リヤクラッシャブルストラクチャーには、ピットイン時にジャッキで持ち上げる際に触れるステーが1本生えている。
これがなくてもジャッキアップできると思うが、ディフューザー後端にある、強度的に繊細なガーニーの破損を防止する意味もあるのかもしれない。



(2017/ 5/15更新)

上で述べた、アンダーパネルの両端が間隙フラップ状となっている空力デバイスについて、以下CGイラストで記述する。
まずは上面図の気流進路イメージから。黄色い部分がフラップ状のパーツだ。



この様にアンダーパネル上面の気流は、サイドポッド側面で絞られて流速が増す。
そして速い気流がフラップ状のパーツの下側へ噴き出す構造となっている。すると…、



次は正面図だ。
アンダーパネル下面は非常に低圧となっているので、従来のマシンでは外側から気流を吸い込んでしまい空力性能を損なっていた。
アンダーパネル下面の空気は、できるだけ前から後ろへ向けてストレートに流せると空力効率が良いのだ。
そこでVF-17は、上図の様な工夫を凝らす事で、アンダーパネル端にエアカーテンを生成し、従来外側から吸い込んでいた空気をある程度抑制している。

今シーズン、この空力の手法に先鞭をつけたのがハースで、現在ではトップチームもこれを追随している。まさにホットな開発領域だ。
現在のフラットボトム規定では、車体底面の端は50mm以下のRをつける事が許可されており、その条項を利用してこのフラップ状の形状を可能にしている。

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