常時燃焼・ディフューザー吹きつけシステムについて   text by tw  (2010.11.25木)


レッドブルの2010年用マシン「RB6」は、排気ガス吹きつけディフューザー・システムを前提に開発された。
まず写真から観て判る事は、エンジンからの排気ガスは、コークパネル側面下部から排出され、
そして多段ディフューザーの内部へ吹きつけるデザインとなっている。
これにより、高速の排気ガスが多段ディフューザー内部の気流を加速させ、車体底面で発生させるダウンフォースを増加させていた。



ところで、90年代前半のF1では、排気ガスをディフューザー下面へ排出しているマシンを普通に見かけた。
これは高速の排気ガスでディフューザー下側の気流を加速させ、ダウンフォースを増していたが、
しかしスロットル開度によってダウンフォースが変動してしまう欠点があった。

レギュレーションが大幅に変更された1995年以降、各マシンの排気管エンドの場所は、
多くがサイドポッド出口のディフューザー上面となり、スロットル開度に対する空力面の影響は穏やな傾向となった様だ。

そして1998年 Rd.5 スペインGPからフェラーリが投入した「上方排気」(サイドポッド上面から排気)は、
時間とともに他チームも追随し、昨(2009)年まではほぼ標準的な手法となった。
これによって空力的に重要なリヤ・ロワ・ウイング下側の気流が、排気ガスの影響をあまり受けなくなった様で、更に空力安定性が増した。
(2000年のマクラーレン(アドリアン・ニューウェイ在籍)はセンター・ディフューザー内への排気。)



話を「RB6」へ戻すと、各メディアの記事によれば、RB6は「コース上のどの区間でも常時 燃焼、排気していた」らしい。
これはチーム関係者や、実際にコースサイドで音を聴いていた人にしか確証は得られないかもしれないが、
筆者が目にしてきた記事のいくつかから、その記事内容の信憑性はかなり高そうだ。

RB6の「常時燃焼・ディフューザー吹きつけシステム」は、おそらく以下の様なものであると思われる。
ブレーキ区間からコーナー入り口区間(=ダウンフォースが欲しい区間)で、ドライバーがスロットルを踏んでいない状態でも、
エンジンの燃料噴射と点火燃焼を常に継続する電子制御を行い、これにより排気管からは「常に」高速の排気ガスが噴き出され、
多段ディフューザー内部の気流を「常に」加速させた状態としてダウンフォースを増していた
様だ。

ここでまず疑問に思うところは、ブレーキング中にエンジンを燃焼させていれば駆動系が破損するのではないか?と云う事だが、
ここがこのシステムのポイントで、「燃焼させても、なるべくトルクにならないピストン位置で燃焼させている」らしい。
つまり、燃焼した高速ガスが排気管から噴き出していてくれれば、空力的にはOKな訳だ。
もしかするとクラッチも制御していたのかも知れないが、それについては筆者は情報を得ておらず不明。

このシステムが機能すれば、ダウンフォースの欲しいコースの低速区間でかなりのアドバンテージが見込める。



ただし、「常時燃焼システム」を使えば、当然、搭載燃料の必要量が増してしまう。
予選タイムアタックのみ使用するならば問題は無いが、決勝レースでも使用するのならば、
車体は燃料タンクを大きく設計せねばならず、そしてレース中、他車と比べ燃料搭載量が多い分、車重が増してしまう。
なので決勝レースでは、吹きつけディフューザーは恩恵を最も受けられる一部区間のみ使用するなど、
車体設計面と重量の弊害と、吹きつけによる空力面のメリットの損得勘定をしっかりと考慮した戦略的な車体設計でなくてはならない。

よって、このシステムの使用を前提に設計されたRB6は決勝レースでも吹きつけを使えたと思うが、
シーズンが始まってからこのシステムを知った他チームは、予選で常時吹きつけを可能と出来ても、
決勝レースではほとんど一時的にしか使えなかったのではと筆者は想像している。
何故なら、今(2010)年から、モノコック等のパーツが事前認可制となった事から、シーズン中の燃料タンク容量の変更は許可されなかった為だ。

来(2011)季からは多段ディフューザーが規定で禁止されるので、各チーム、どういった排気設計としてくるのか楽しみである。


(このページの最新更新日:2010.11.25金

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