フォース インディア VJM03   text by tw (2010. 2.09火)


2010年 2月09日(火)、フォース インディアの2010年用マシン「VJM03」が公開された。
ドライバーは今季もエイドリアン・スーティルとヴィタントニオ・リウッツィが勤める。
「VJM03」の写真は、GPUpdate.net等を参照。以下、概観から筆者の私見を記す。


上から見てノーズ先端は左右へ丸くカーブし、幅は広い。これにより空力挙動が穏やかになると考えられる。
ノーズ先端の高さは、昨(2009)年とほぼ同じか、もしかするとほんの少しだけ低いかもしれない。

フロントウイングは他チーム同様、気流を前輪の外側へ跳ね飛ばそうという考え方で、
メイン・フラップの外側部分は斜めに倒れる角度とされ、且つ切り欠いてある。
これでフラップ上面の気流は外側へ向かう仕組みである。(この現象は筆者が風洞で確認済み。)

翼端板は(この部分は人によって表現が異なるかもしれないが)簡単に記してしまうと片方3枚、
左右で計6枚の構成となっており、気流を細かく制御している。

翼端板のエリアの左右幅が広めに占めてある事で、結果としてフロントウイングの幅は狭くなっているが、
今(2010)年から前輪の接地幅が狭くされたので特に問題は無いかと思われる。

前輪のブレーキダクトは、やや下向きに開口している。これはフロントウイングが跳ね上げる気流に対応させる為だ。



前から見て、フロントサスの上下アームは、車体側からホイール側へ極端に下がる角度で、
もはやこれでは、車体が前輪を取り付けられていればそれで良く、ロールセンターなどどうでもいいという感じだ。
それ程までに現在のF1では、ノーズ下の空間の気流を綺麗に流す事が空力性能の向上に寄与するのだろう。

フットボックス下側両端にあるディフレクターは、
フットボックス底面中央から下方へ生えているステー(上下逆さまのT字型)で支持されている。
しかしこの中央ステーは少し気流を阻害してしまっていると思う。

昨(2009)年のフォースインディアのマシンのコンセプトで特徴的だったのは、
フットボックスを高くして、フットボックス下の空間を大きくする事で空力性能を高めていた事だったが、
今季の「VJM03」のフットボックスの高さは、昨年と同じ位か、もしかするとほんの少し低くされたかもしれない。



アーパーアームのホイール内の取り付け位置は、なるべく高い所へ取り付けられており、
この事から、多くの他チーム同様、タイロッドはアッパーアームよりも少し下の高さに位置している。
しかしこれではキャスター角はどうなっているのだろう?
前輪のキャスター角は、操舵時にホイールの上下位置と角度の変動を起こす為、無視できない要素だと思う。

プッシュロッドの車体側取り付け位置は、モノコックの高い位置にあり、その部分の上面はやや膨らんでいる。
この事からピッチコントローラー(サードダンパー)は、立体ロッカーの下側にレイアウトされていると思われる。

このレイアウトは、プッシュロッドの角度が立つ事からサスの作動性が良好化し、
ロッカーの重量は増加してしまうが、サードダンパーをプル・ストローク式と出来る。
オイルダンパーの作動性としては、一般論で云えばプッシュ・ストローク式よりもプル・ストローク式の方が都合が良い。
プル・ストローク式ピッチコントローラーのメリットとデメリットについては、
2004年のウイリアムズのページ2004年のジャガーのページを参照。

モノコックの前後位置は、燃料タンク容量の増加に伴い、前輪寄りとなった。



昨(2009)年は、サイドポッド両端前方の縦のベーンと、サイドポッド両端上部が一体化していたが、
今季は別体とされ、ベーンの上端にはリヤビューミラーを取り付ける、現在主流のデザインとされた。
この縦のベーンは全体的に上下前後に湾曲したデザインとされている。

サイドポッドの手前では、モノコック側面上部に、水平の三角形フィンが前後続けて2枚づつ付けられている。
これは昨(2009)シーズン終盤のトヨタが使用していたアイデアで、サイドポッド上面へ向かう気流進路を制御している。

サイドポッド上面の前端は、異様に上下の厚みがつけられた。
これはかなりの空気抵抗とサイドポッド上面の揚力が発生してしまう筈なので筆者は非常に懐疑的だ。

上から見て、サイドポッド前端は車体内側から外側へかけて前進する角度がつけられている。
これによりサイドポッド上面へ流れる高圧は、車体内側(サイドプロテクターの方向)へ向かうだろう。

ラジエーター・インテークの開口部はかなり小さい。
これは今季もメルセデス・エンジンの冷却要求量が少ない事を意味し、空力の内部抵抗をかなり軽減している。
これは他エンジン搭載車と比べてかなりのアドバンテージとなる事は明らかだ。

サイドポッド前側の下部は深く奥へ絞り込まれているが、
その後方ではサイドポッド側面は規定のほぼ最大幅まで広がっており、この部分では側面の縦のラインも垂直だ。
これではサイドポッド側面とアンダーパネル下面の気流が混じり合ってしまうと思われ、気流進路が混乱するかもしれず、
サイドポッド側面下部は少し狭めたままの方が良いのではないかと筆者は考えている。

サイドポッド後半は、上面はどうやら昨(2009)年の様に大きくは落とし込んでいない様で、
代わりにコークボトルの幅を狭める方向でデザインされた様だ。
現段階の写真からではまだリヤエンドの形状が判らないので、このエリアについては何も言えない。



エンジン・エアインテークの下部は、ロープを通す穴を形成しており、
その後方のセパレーターは、昨(2009)年のマクラーレンの様に、何故か干渉抵抗の大きそうな縦のベーンが取り付けられている。

インダクションポッド側面には、昨(2009)年からのウイリアムズのアイデアを拝借したエア・インテークが開けられており、
そしてその後方のエンジンカウルのシャーク・フィン側面には排熱口が開けられている。
この2つが繋がっているのか、それとも別の通路で異なる物を冷却しているのかは現段階では不明。



リヤ・サスペンションはプッシュロッド式。
ロワアームはやや低くされ、上下アームの間隔は大きくなった。これでサスの剛性は上がるだろう。

リヤの上段メイン・ウイングは、
規定で逃れられる中央の75mm幅にスリットを切ってあるが、(これは間隙フラップ式とする為のアイデア)
現在の「VJM03」では、スリットの位置があまりにも前寄り過ぎると思う。
間隙フラップ式とする目的は、ウイング下流の剥離を抑制する為であり、
ウイングのダウンフォース発生中心位置辺りを間隙フラップ式としている意味が筆者は解せない。
筆者は昨(2009)年のレッドブルの様にフラップ部分にスリットを切った方が理に適っているかと思う。



このマシンで最も特徴的なエリアは、おそらくリヤエンドだ。
筆者はまだよく確認できる写真を入手できていないのだが、
現在入手してある写真では、リヤのロワ・ウイングが左右の部分しか観えないのだ。
「VJM03」のリヤエンド(特にディフューザー)はどういったデザインとなっているのか大変興味深く、
後日のテスト走行の写真が楽しみである。

(このページのここまでの最終更新日:2010. 2.09火 Pm 11:40


テスト走行の写真を入手できた。肝心のセンター・ディフューザー下面は、サイド・ディフューザーと同じ高さまで在り、
予測の通り、センター・ディフューザーは、縦に二重構造で、車体底面の気流を大量に吸い出している。
後ろから見て、ロワ・ウイングの手前でセンター・ディフューザーの跳ね上げがあり、大量の気流を吸い出している。
この形状が、現在のF1テクニカル・レギュレーションに合致しているか否かは筆者は判らない。

後ろから見て、リヤのアッパーアームの取り付け位置は高い。
アッパーアーム、ドライブ・シャフト、ロワアームの角度は水平に近い。
これではリヤのロールセンターは高くなるが、上下に距離がある分、リヤサスのアーム剛性は高い筈である。
これはサスペンションのジオメトリーよりも、強度と空力面の設計を重視した設計である。

よって他チーム同様、多層ディフューザーの効果を最大限に発揮させ様と云うデザイン・コンセプトである。

フォース インディア VJM03 スペック
ホイールベース
3500mm (あくまで公表値)
フロント トレッド
1480mm
リヤ トレッド
1420mm
全高
950mm
全長
4900mm (あくまで公表値)
全重量
620kg (ドライバー込み、燃料無し)
エンジン
メルセデス・べンツ社製 V8 2.4リットル
トランスミッション
マクラーレン製 7速 セミオートマチック
潤滑油
モービル1製品
スパークプラグ
NGK社製
クラッチ
APレーシング社 カーボン製
ホイール
BBS社製 鍛造 フォースインディア仕様
タイヤ
ブリヂストン・ポテンザ
ブレーキ・システム
APレーシング社製
ブレーキ材料
カーボン・インダストリー社製
ダンパー
ペンスキー社製

(このページのここまでの最終更新日2010. 2.12金


2010年「グランプリ特集 4月号」の37ページの写真で確認できた。
VJM03のリア・サスペンションのロワ後ろ側アームの車体取り付け位置は、ドライブシャフトより後方にある。
これは足回りの剛性を高める為である。そして、
トラックロッドは、ドライブシャフトよりも前側にレイアウトされている。
これは剛性面で劣る可能性はあるが、前後重心・空力効率では有利な設計である。

筆者の記憶が確かならば、過去にトヨタF1の実験用マシンがトラックロッドを前側にしていたと記憶しているが、
トヨタF1チームのF1実戦参戦以降、彼等はこの方式を採用しなかった様だ。

フォース・インディアは、上位チームで流行しているデバイスをただ取り上げるだけでなく、
リソースの限られたプライベーター・チームでも独自のアイデアを各部に投入している現状に筆者は好感を持ちたい。
尚、あるF1誌に拠れば、フォース・インディアの技術陣のトップの人材の何人かは、日本人である様だ。
何故こぞって各メディアがそれを伝えないのか筆者は理解に苦しむが、
日本人の技術能力がモーターレーシングの最高峰であるF1GPで成果を上げている(らしい)現状に筆者は喜びを覚えて居る。

(このページのここまでの最新更新日:2010. 3.29月

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