マクラーレン MP4/19 text & illustration by tw (2003.11.25〜)

1. 概観

2003年11月25にシェイクダウンされたマクラーレンの2004年用マシン「MP4-19」。
概観は MP4-18と大きくは変わらず、MP4-18"B"といった感じだが、
外から観ただけでは、マシン内部の設計が MP4-17D発展型なのか、MP4-18改良型なのかを判断する要素はなかなか見つけられない。
前者であれば信頼性面で慎重過ぎる戦略かも知れないし、後者であれば技術面で意欲的に攻めこんだ戦略と言えると思う。


2. ノーズをコンパクトにした理由


ウイングの発生するダウンフォース量は、「下面の負圧」と「上面の正圧」の合計量だ。
しかし MP4-17D以前のマシンでは、フロント・ウイング中央部分は上方にノーズが存在する為に正圧が大気に作用せず、
フロント・ウイング中央部分の上面はダウンフォースを発生させていなかったと考えられる。

マクラーレンがMP4-18から、ノーズを後退させた目的の一つは、
フロント・ウイング中央部分でも上面正圧のダウンフォースを獲得する為ではないだろうか。

ただ、パッケージ上仕方がないのかもしれないが、ノーズ下とフロント・ウイングとの空間が狭く、
この部分の内部干渉抵抗はやや大きいかもしれない。

MP4-18で驚かされたこの異様に小さなノーズコーンは、前後に短く、狭幅で、下方へ大きく降りる形状の為、
正面衝突時の衝撃吸収に不利な条件が揃っている。
この形状でクラッシュ・テストを満たす為に、一般サイズのノーズに比べて重量増となっているかもしれない。


3. フロント・ウイング


(上図・中央)
フロント・ウイングは「メイン・ウイング+フラップ2枚」の3枚構成にも関わらず、
フラップの後端は翼端板の後端に位置しており、この事からウイングの角度は寝ている事が判る。

(上図・右)
一般的なフロント・ウイングに比べてメイン・ウイングの幅は広く、翼端板下端のプレート外側は幅が狭い。

このフロント・ウイング形状に、大きくスラントしたノーズ下面とツインキールのフロント・サスの組み合わせで、
フロント・ウイングはあまり気流を上方へ跳ね上げずにダウンフォースを確保させる考え方なのだろう。

角度が寝ているにも関わらず3枚構成としている理由は、
前後長の長いウイングの境界層の成長を、間隙フラップとする事で抑える為かもしれない。

フロント・ウイングの特性と後流は、マシンの空力上の性格を決定する重要な要素の筈で、
空力エンジニア達は他車のフロント・ウイング形状から、そのマシンの空力的な性格をある程度想像する事ができるかもしれない。

グニャグニャと複雑に曲がっているフロント・ウイング形状の意味は、
ウイング両端の持ち上がりは、ウイング下へ横側から進入する翼端渦の制御と、気流変動の過度な影響を受けにくくする為、
そしてウイング中央が緩やかに持ち上がっているのは、スラント・ノーズ下面からツインキールの空間へ、
そしてディフレクター内側が吸い込む事となるフロント・ウイング下の気流を、安定した形で吸引させる為と考えられる。

MP4-19で真新しくなった箇所の一つは、フロント・ウイング翼端板の上側が、内側方向へ斜めに傾いている事。
これの意図については筆者は未だよく解らないが、
この形状はフロント・ウイング上面正圧が大気に作用する有効エリアを狭めてしまう事なので、
こうした形とした意味は、翼端板の外側や全体的な流れに対して意図があるものだと思われる。
現在筆者がこの形状から考える事は、翼端板の外側の気流を下方向へ向けて、
前輪の回転方向へ合流し易くさせているのではないかという事である。

1998年からマクラーレンはフロント・ウイング翼端板に厚さがあり、且つ上方向へレギュレーション一杯まで高く、
この部分だけ見ると単純に空気抵抗が大きそうに見えるが、
だからこそ、ここで何かアクションを起こそうとしているのではないかという事が窺える。
98年から一貫してフロント・ウイング翼端板は前輪の内側へカーブさせるタイプ
(ダウンフォース量が少なくなる代わりに前輪の空気抵抗を低減させる)である事からも、 前輪周辺の流れとフロント・ウイングの後流を考えているものだと思われる。

翼端板外側のフィンは、角度が水平に近く、
フロント・ウイング上面正圧で翼端板の上端から外へこぼれる気流の受け皿の役目と、
周辺の流れの制御の為のものであると思われる。

翼端板下面のプレートは、筆者はまだ形状をよく確認できていないが、
2003年に流行したトンネル状とはなっていない模様。
恐らく下面は水平で、上面は翼端板側に寄るにつれ厚さを増している。
翼端板内側のプレートは、前端から車体内側へ向けて後退角にカットされている。
これはフロント・ウイング下面負圧を路面に作用させるエリアを僅かでも増やそうとしている事などが想像できる。

筆者の予感だと、MP4-19のこの翼端板は今後試行錯誤がなされる気がする。



4. フットボックスの高さ

モノコック上面の高さは、モノコック下面を持ち上げた事から高め。
レギュレーション上、モノコック内のサイズは決められているので、路面とフットボックス下の空間を大きくとればモノコック上面は高くなる。

1990年代以降F1マシンが、フットボックス位置を高くして路面との空間を大きくする理由は、ほとんど空力の為だけで、
他のメリットは、フロント・サスのプッシュロッド角度を立てられてサスペンションの作動性が良くなる事くらいである。
フットボックスを高くするデメリットは、車体の重心が高くなる事と、ドライバーの姿勢の苦しさ、視界の悪さ等である。
それほどにフォーミュラーマシンでは空力が車輌性能の比率を占め、且つ空力的にノーズ下の気流の重要度が高い事が分かる。

一方、モノコック前端の高さと、正面衝突時の優劣についてはどうだろうか。
正面衝突時にインパクトを受ける部分の高さに、車体重心高とあまり違いがあると、
衝撃を上手く吸収し難くなる事(クラッシュ・テストの不利)が考えられる。
車体の重心高が低く、一方クラッシャブルストラクチャーが上部に位置すると、衝突時に車体は、
前部は上方へ持ち上がる方向に、後部は下方へ沈み込む方向へ力がかかると思われる。

しかしこの時、ノーズ・コーンが下向きの形状であれば、上記の力を上手く吸収できる可能性が考えられないだろうか?
これがMP4-18/19が短く細く下向きのノーズでクラッシュ・テストを通過できている理由の一つなのかもしれない。
但しMP4-18/19のノーズ下面は極端に下向きの為、上記の可能性が予想通りだとしても、
正面衝突時に下方へ折れる方向の不利な力は強くかかっていると思う。

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(このページの最新更新:2003.12.22
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