マクラーレン MP4-27   text & illustration by tw  (2012. 2.01水〜)

2011年 2月01日(水)、マクラーレンは2012年用マシン「MP4-27」を発表した。
「MP4-27」の写真は、F1通信 等を参照。 以下、概観から筆者の私見を記す。


ノーズ先端の高さは昨年よりもやや低くなった様子。これは単純に考えると、
今季からエンジン排気流のディフューザー吹きつけが規定で禁止された事から、
ディフューザーが“車体底面から吸い出せる気流量”が減少している可能性はあるだろう。

もしそう云う事であれば、昨年よりも車体底面で発生するダウンフォースは低下している事になるが、
一概に吸い出し量をノーズ先端高だけで決定付けられるものではないので、
あくまでも、その可能性がある(結構その可能性が高そうな)、と云う空力デザインの見方のポイントの一つである。

ノーズからフロントウイングへの支柱はマクラーレンはここ数年、正面から見て穏やかなRを描いている。
剛性面ではこれが一番良い形だし、空力面でもノーズへの支柱接続部分での境界層発生を軽減できる筈で、
21年前の1991年にジョン・バーナードが開発リーダーであったベネトン・チームで、
アッという間にハイノーズ・吊り下げ式フロントウイングのデザインを“完成させてしまった”感を今でも思い起こさせられる。



フロントウイング・フラップは昨年から同じ考え方で、
上から見てフラップ中央から左右へ後退するRを描き、中央では積極的にダンフォースを発生させ、
内側と外側では気流を左右へ別けるデザインだ。
各チームそれぞれ、このエリアで、内側では意図的に縦(斜めかも?)の、やや大きめの渦を作っている様で、
その渦巻き方具合で、その後方の流れ方を制御している筈だ。

ただし、渦を作る以上はそのエネルギー源が要る訳で、それはつまり空気抵抗だが、
空力デザイナーが意図して渦を、対価を支払ってでも作っているならば、それだけ空力性能に寄与するアイテムだという事だ。


フロントウイングの翼端板は、あまり気流を外側へと跳ね飛ばすデザインとはなっていない。
ワイド・フロントウイング規定となって4年目になるので、開発コンセプトが新しい領域まで進んでいそうだ。

この翼端板は縦のスリットが2本切られており、上から断面として見れば“3エレメント”となっている。
これは翼端板の内側の境界層の成長=気流の剥離を軽減する手だが、
路面と車体との角度変化で起きる空力変動をある程度制御する効能も、もしかしたら在るかもしれない。

(このページのここまので最終更新日:2012. 2.01水 Pm11:09


MP4-27のフロントサスのプッシュロッドは、アップライト側の取り付け位置が高めに見える。
こういったリンク機構は接続が90度付近が最も作動性が良いので、
本来ならプッシュロッドの取り付け方は、アップライト側では低く、モノコック側では高くしたい筈で、
過去にトヨタ等のマシンでは、プッシュロッドがロワアームを貫通させてアップライト側の取り付け位置を低めていた。


 角度が浅いと作動し辛い。


 角度が立っている方が作動し易い。


では何故MP4-27のフロント・プッシュロッドの角度が浅いかと考えると、筆者は2つの事が頭をよぎる。
1つ目は、プッシュロッドがロワアームに接続されている可能性。これは設計が簡単で制約が少なく、力学面の設定自由度も高い。

2つ目は、操舵時に意図的にサスを強制ストロークさせる設計面からの妥協による可能性。
それはキングピン(=上下アームのアップライト側取り付け地点を直線で結んだ仮想線)から、
プッシュロッド取り付け位置をあえて遠ざける事で、ステアリングの操舵で左右の車高を可変させる手法だ。

これは意図してコーナリング中に、車体を内側へロールさせたり、 逆に、“コーナリング中にロールさせられる力”を、いなす様にして意図的に外側へロールさせる事もできる。

このアイディアは十数年以上前からある物だが、とてもドライバーの腕力では操舵不可能で、
パワーアシスト・ステアリングが必須となる事から、パワートレインの燃費は悪化するデメリットはある。
この機構とする場合は、各パーツの設計に色々と制約が生じてしまう為、プッシュロッドの角度は諦めざるをえない場合もあるだろう。

余談だが、何故この操舵による可変ロール機構が可変空力装置として禁止されないのか疑問に残る。

トレール量と、ストローク時のキャンバー変化が決まる。






キャスター角とトレール量が決まる。

(このページのここまでの最終更新日:2012. 2.02木 Pm 2:28


MP4-27のサイドポッド「上面」は前から見て、昨年に採用したL字型ではなく、浅めの角度で内側へ傾斜する、ノーマルなデザインとなった(様だ)。

2009年シーズンから、サイドポッドと周辺の複雑で多様なデバイスを禁止すべく、“端(角)の部分は 75mm 以上のRをつけなければならない”と規定された。
この規定下では、上面を段差つきとするデザインは大きな制約を受け、最も困難なのは「段差を後部で連結させる形状」とする事だ。
なので筆者は昨年にマクラーレンが段差つきサイドポッドとしてきた事は予想外であった。

そして今年からノーマルな平面サイドポッドへ戻してきた理由は、チーム関係者がコメントした様に、排気管エンドの規制強化が本当のところなのだろう。
昨年の“L字ポッド”も完全に理想的な形状ではなく、規制上、サイドポッド側面を急激に低めるデザインとせざるをえなかった。
もしその形状のまま、今季の規定に合わせたエンジン排気とすれば、空力上、都合が悪そうだ。
何故なら、サイドポッド上面・側面とも強く絞り込み、フロア上に“大きな空間”を作り出したい所に、
高速のエンジン排気を流してもミスマッチだろうし、最悪な場合は、サイドポッド上部の気流を引っ張ってリフトを誘発してしまう事だ。

(このページのここまでの最終更新日:2012. 2.02木 Pm 9:23


その他諸々
普通サイドポッドの前部の表面はサイドインパクトの衝撃吸収構造を兼ねるが、
MP4-27のその部分の上面は、カウルが交換可能となっている。
これは(右図)ラジエーター排熱の一部を前方排気にするオプションがあるのかもしれない。

ラジエーター本体は例年同様、前後方向に強く傾斜している。
サイドポッド側面下部のアンダーカットを深くするには必然的にこういった置き方となるだろう。


(*イラストは2010年のもの)


そのサイドポッドのアンダーカットから最大幅まで広がってコークパネル開始となる地点は、レッドブル等よりも前方にある様だ。
これは車体底面で発生するダウンフォースの中心位置と密接に関連しており、
低圧の車体底面が、横から外気を吸い込んでしまう事の防御を、どの地点で最大に設定してあるかを推測できる。



コークパネル後端はギヤボックス側面には張り付いておらず、その隙間からラジエーターを通過した熱気を少量排出している。
当然このスペースではラジエーターエアを全て排出するとは考え難いので、
レッドブル様に大砲型の排出口が、ギアボックス上方に設けられると予測できる。
特に、その辺りエリアはカウルの切れ線が写真から確認でき、取替え可能となっている。

尚、ギアボックス上方にあるオイルクーラーのエアインテークは、昨年のインダクションポッド2段型ではなくなった。



前後輪ともにブレーキダクトのエリアには空力パーツが確認できるが、FIAはアップライトフラップを禁止の方向ではなかったのだろうか?



リヤの衝撃吸収構造は、昨年まで上面がストレート形状だったが、
ようやくトレンドに乗って、リヤ下段ウイングの下側を潜り抜けるデザインとされた。

これと共にリヤの下段ウイング(ビーム・ウイングとも呼ばれる)は、規定内の中央 150mm 幅で、上下逆V字型となっており、
筆者が多用する手法と同じ様な形となっている。

注目の排気管だが、テスト走行が始まるまで本当の位置と角度は分からないかもしれない。

尚、発表によれば、バッテリーはGSユアサ製との事だ。

(このページの最新更新日:2012. 2.02木 Pm11:36

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