フェラーリ F2007   text & illustration by tw  (2007. 3.30)



(ウイングが空中にある場合。)


(ウイングを路面へ近づけた場合。
 通路が狭くなり流速が増す事で、吸着効果が発生する。)

上図の、左の「空中にあるウイング」と比べて、右の「路面と近づけたウイング」は少し空気抵抗が増すが、
しかし、増した空気抵抗の割りに、とても大きなダウンフォースを発生させる事が出来る。
これを地上効果(グランド エフェクト)と呼ぶ。
この手法は、少ない空気抵抗でより大きなダウンフォースを得たい、現代レーシングカーの空力性能の基本である。

開かれた空間では、空気は音速以下の速度では圧縮される事は無い。
右のウイングは路面へ近い為、気流が通過する通路が狭いが、
速度が音速以下であれば、気流は圧縮される事は無く、流速が増して通過する。

ベルヌーイの定理上、流体は、速度を増すと圧力が下がる。
これがウイング下面や、レーシングカーの車体底面によるダウンフォース発生の原理である。



しかし車体が巨大なダウンフォースを発生できると、車体のコーナリング速度が非常に速くなってしまい、
安全性に問題が生じる。その為、テクニカル・レギュレーション(技術規定)にて、
ダウンフォース発生量を抑制する処置が裁定されている。

現在(2007年時点)のF1では、車体底面のダウンフォース発生量を抑制する目的で、
フラットボトム規定や、ステップドボトム規定、サイドディフューザーの高さの制限等が行われている。

下図に、フラットボトム規定とステップドボトム規定について記す。


簡単に述べると、車体底面は、
リファレンスプレーン(RP)とステッププレーン(SP)から成る。

RPの幅は、車体中心線から左右へ計測した時、
150mm以上、250mm以内の幅を持っていなければならない。

SPは、RPの上方50mmの高さになければならない。

そしてRPもSPも、底面はフラットでなければならない。
ただし、物理的に完全にフラットな構造物を製造する事は不可能な為、
垂直に +/- 5mmまでの公差が許されている。

(この技術規定の詳細は、「車体底面の空力について」のページを参照。)



しかし、2007年の開幕戦の終了後に、各メディアの記事から、
フェラーリとBMWザウバーが、走行時に車体底面を可変させているのではないかという疑惑が持ち上がった。
現時点(2007.3.30)で筆者はまだその真偽について判断は下せる情報量を持ってはいない。
しかし、もし車体底面を可変させているとしたならばという前提で、筆者のその予想図を下図に示す。

F1マシンの空力上、サイドポッドの下面は低圧となり、上面は高圧となる。
その為、アンダーパネルを上手く柔軟に設計・製造しておけば、
高速走行時には、アンダーパネルが下方へと吸い寄せられ、
車体底面を路面へ近づける事が可能となる。
この様にすれば、このページの最初で述べた通り、空力効率が向上する。

そして、あくまで風圧等の外的な力によって可変しているならば、
「車体はコンクリートで造られているのではない為、
 全てのパーツは外的な力によって可変してしまうのは仕方が無い。」
と云う事ができ、そしてその可変量を取り締まる規定が無いならば、
車体パーツを外的な力によって可変させていても合法と出来る可能性が有る。




尚、筆者は、2001年のF1開幕戦の写真で、フェラーリが車体底面を可変させている事を確信している。
その証拠写真は、「F1グランプリ特集」誌の、2001年4月号(VOL.142)の 96ページである。
この写真はフェラーリとマクラーレンが並走した様子を正面から撮影された物だが、
フェラーリのサイドポッド底面は、横へ水平では無い。
並走しているマクラーレン車と比べれば一目瞭然である。
そのフェラーリのステップドボトム側面は縦に50mmある様だが、
その横側から外側へ向けて、サイドポッド底面は下がっている。

そして、その次のレースである2001年マレーシアGP決勝を録画されている方は、映像を確認して頂きたい。
そのレースでは、2周目に雨でフェラーリ2台が続けてコースアウトし、
その2台はピットインし、フェラーリのバリチェロ車は左サイドディフレクターを取り外した。
そしてセーフティーカーが入っているスロー走行中の映像では、フェラーリのサイドポッド底面は横へ水平だが、
通常の走行時の、16周目に入った時のメイン・ストレートと、
30周目か31周目に入ったあたりのメインストレートで、
バリチェロ車のサイドポッド底面が水平で無い事が、正面映像で、僅かながら観る事が出来る。
これらの事から筆者は、2001年の時点でフェラーリは車体底面を可変させていたと確信している。



上でも述べた通り、あくまで外的な力=風圧でパーツが可変しているならば、
「車体はコンクリートで造られているのでは無い為、全ての部品が僅かに可変してしまうのは仕方が無い」
と云い、合法と出来る事は出来るかもしれない。

しかし、今(2007)年の記事、「駿足フェラーリは“床を動かしている”?」(2007, 3,24付) にて、

>フェラーリから某チームにエアロダイナミストが移籍した。
>彼は、「フェラーリでは、アクチュエーターを使って、積極的に動かしていた」のだと証言したという。

と書かれている。
もしこの記事の内容が事実で、アクチュエーター(=外的な力では無い)を使って車体底面を可動させているのであれば、
それは明らかなフラットボトム規定違反であると筆者は判断している。

(このページのここまでの最終更新日:2007. 3.30


(追加更新:2007/ 4/13金)

「F1速報」誌の2007年マレーシアGP号で、フェラーリF2007のモノコック下部のセパレーター前部の写真が掲載された。
そこには「銀色のシリンダー状の物」が備え付けられて有り、
これはシャドープレートを吊るす目的以外の装置としか考えられない。

よって、開幕戦の後にマクラーレンチームがFIAへ問い合わせた件は、
サイドポッド底面(ステッププレーン)の可変についてでは無く、
スキッドブロックが取り付けられるリファレンスプレーンの可変についてだったと思われる。

下に筆者の想像するフェラーリの概念図を記す。 この図では解り易くする為に、ホイールベースを短く描いた。








一般的にフラットボトムのフォーミュラーカーのライドハイト(=地上高)は、
フロントを低く、リヤは高くセッティングする。
その理由は、車体底面の気流をダウンフォースを発生させるにあたって都合の良い状態とする為である。

そしてライドハイトは、車体底面で効率良くダウンフォースを発生させる為に、可能な限り低くしたい。
しかしライドハイトが低過ぎると、車体底面に取り付けられたスキッドブロックが路面と接触し、削られてしまう。
F1の技術規定では、元々10mmの厚さがあるスキッドブロックは、レース後に9mm以上の厚さがなければならない。
その為、フロントのライドハイトは、スキッドブロックの先端が路面に接触しない程度まで低くセッティングされる。

しかし上図で示した様に、モノコック下部のシリンダーによる引き上げで、
スキッドブロックを前後方向へ湾曲させれば、よりいっそうライドハイトを低くする事が可能となり、
更にスキッドブロック底面が穏やかなウイング形状を描く事によって、ダウンフォースを発生させる事が出来る。
上図で示した支点は、この様なRを描くモノコック底面とする事で構わない。
そしてスキッドブロックがモノコック底面から剥がれない様に、ボルトによる固定は強固なものでなくてはならない。
こうした空力性能の向上のテクニックはあくまで筆者の想像だが、
確かな事は、2007年の開幕戦で、フェラーリF2007のモノコック下部には、
銀色のシリンダーの様な装置が備え付けられていたと云う事実である。

(このページの最新更新日:2007. 4.13

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