F1サスペンション機構について(9)
text by tw (2021/12/27月)
F1GPは1993年限りでアクティブサスが禁止となり、1994年からパッシブサスとなった。
少なくとも1994年から1996年は、
燃料込みの車重がいくつで、その前後重心位置がどこで、最も速いコーナーでの空力ダウンフォース量とその前後発生位置はどこで、前後輪にどれだけ荷重が掛かっていて、
それをエンジニアが把握して、「垂直荷重を支えられる最も柔らかいバネがほぼ使用されていた」様に思える。
これは当時ベネトンに居たロス ブラウンか誰かが、雑誌のインタビューで同じ様な内容の話をコメントしていた気がする。
筆者は1996年頃の、当時最速のウイリアムズ ルノーの車載映像で、ニュルブルクリンクのバックストレートからのブレーキングでフロントのライドハイトがどう変化しているか、
何回もしつこく録画ビデオを観て、それを確認していた。フロントウイングの翼端板と前輪との上下位置の変化を観察したのだ。
それは、ストレートエンドでフルブレーキングした際に最も強烈に前方へ荷重移動しフロントの車高が最も低下した。
シケイン目掛けてフルブレーキングを続けているが、少しづつフロントの車高が上昇していった。車速の低下により空力ダウンフォースが減少し、垂直荷重が減少したからだ。
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今(2021)年のF1中継でオンボード映像で、各マシンのサスのストローク量を観ると、
空力ダウンフォース変動と車体の荷重移動では、フロントサスが動いているのを目視できない。ストロークしないのだ。
ただし縁石を通過する際と、コースオフした際にはフロントは少しストロークしている。機械的にどう制御してあるのだろう???
縁石通過時の急激な突き上げ時には、ダンパーのそれぞれ速度域に対して別個のバルブが反応して筒の中のオイルを柔らかく流し、サスのストロークを許可したのかもしれない。
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具体的にF1の連中が今シーズンやっていた事を綴ると、それはおそらく、
フロントにあまりに極めて硬いバネを使用し、フロントの地上高は常にほぼ固定で、例外的に縁石乗り上げ時とコース外だけで動く。
そしてリヤのバネレートは積極的にストロークさせる様に考えた柔らかい仕様で、
そのコースで最も速いコーナーを抜けたなら(つまり最も大きなダウンフォースが発生する区間だ)、
次のストレート走行時には、もう車体リヤの底面を路面へ当たる寸前でパッカー(最大ストローク制限部品)へ当てていたと考えれば辻褄が合いそうなものだが、
しかし、より速度の高い予選ではダウンフォースも強くなるから、車体底面を明らかに路面に当ててしまっていて、激しい火花が飛び散っていた。
ストローク制限パーツはパッカーではなくバンプラバー(パッカーより柔らかい素材)なのだろうか?
車速の上昇(空力ダウンフォース=垂直荷重の増加)により、フロントはバネが硬く車高が固定のままでリヤは下がる一方だから、
車体の迎角つまり、フロントウイング、車体底面、ディフューザー、リヤウイングの角度が、車速が上がる程に減少する。各ウイング角度が寝るのだ。
つまり、前後サスのバネを意図的にセットアップする事で、車速域によって車体のレーキ角(前傾角度)を変えているのだ。
これはもう純正なサスペンションとしての路面追従性なんか、とうに無視して、今のレギュ下で空力のトリックでタイム短縮するに特化してしまっているサーキットの攻略のやり方だ!
これにより、そのコーナー速度によって空力ダウンフォース発生前後位置は変わるので、ドライバーはそれを理解して運転しなければならない。
今のF1エンジニア達が、マシンをストレートでリヤの底面をギリギリまで路面へ近づけている理由は、
センターディフューザーを剥離(ストール)させる目的の様だ。これで空力の誘導抵抗が減少し、空気抵抗が減少する。
ストールさせるとウエイク(車体の後方で引っ張る空気の塊)が増大し空気抵抗が増す要素になるが、
それよりも、F1マシンが巨大なダウンフォースを発生させるにあたり、対価として非常に大きな誘導抵抗が発生しているので、その誘導抵抗を減少させると空気抵抗が大幅に削減できるのだ。
しかし2021年シーズンは、もっと上手が居た。
[10へ続く]
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