ビークル・ダイナミクス入門
「オーバーステア・ニュートラルステア・アンダーテスア」

text & illustration by tw
Web公開日: 2012. 5.20日
スマホ用に再編集: 2019. 9.04水

レーシングマシンにおける、理想のマシン セッティングとは何か?
今回のテーマは、「ビークル ダイナミクス」(=車輌運動力学)の考察だ。

まず最初は、車体とタイヤの純粋な力学関係を明らかにする為に、空力ダウンフォースを撤去したマシン状態から考察を始めてゆこう。

図の は、車体の重心位置を示す。







停車状態では、タイヤには地球の重力で車重の垂直荷重がかかっている。
上図には、前後重心位置だけが異なる3種類のマシンを用意した。
3台とも車輌自体は同一で、バラストを積む位置で重心が異なると考えよう。

このページでは、装着するタイヤは4輪全て同じグリップ力を持った物と仮定する。
例えば、後輪にもフロント用タイヤを着用させた様なマシンであると捉えよう。

そしてマシンは、性能の限界速度でコーナリングをし続ける状態とする。

ドライビングのテクニックで、マシンの前後荷重移動は可能だが、それはここでは行わず、
車速は一定のまま、円形のサーキットを旋回している状態としよう。

その場合、上図に示した、重心が前寄りの車と、中央にある車と、後ろ寄りの車、
どれがオーバーステアで、どれがニュートラルステアで、どれがアンダーテスアだろうか?

とりあえず、ここでは4輪全てが同じグリップ力で、空力ダウンフォースも無い状態なので、
重心がホイールベース(=前輪車軸と後輪車軸との長さの事)の中央にある車がニュートラルステアである事は間違いないだろう。

しかし、重心が前寄りの車と、後ろ寄りな車とでは、果たして……?







コーナリングで発生する遠心力(=横G)は、車体の重心へ作用する。そしてコーナリング中、タイヤはグリップ力で横Gに耐えている。
重心が前寄りの車では、地球の(縦方向の)重力で前輪の荷重が大きいが、同時に、横Gもフロントへ強く掛かるのだ。
この時、前輪は横Gにグリップの限界まで耐えているが、後輪は横方向へのグリップにまだ余裕を残している。
車重は同じままだが、車速が高い程に横Gは強くなってゆくので、高速になる程アンダーステアが強くなってゆく。
重心が後ろ寄りの車では、これと逆の事が起きている。



次は、空力ダウンフォースを加味したレーシングマシンの状態を考えよう。







上図の3車は、車体前後重心位置をホイールベースの中間とし、
空力ダウンフォースの発生中心位置だけを前寄り、中間、後ろ寄りと設定したマシンだ。

車速が低速域では、3車、上から順に、弱オーバー、ニュートラル、弱アンダーとなるが、
空力ダウンフォースの発生量は、おおまかに云うと車速の二乗で増加する為、
高速域では、3車、上から順に、強オーバー、ニュートラル、強アンダーとなる。

オーバーステアの車では、ステアリングの操舵角に応じて前輪が強くグリップするが、
代わりに後輪が常に横滑りし易くなってしまう。
これでは後輪のグリップ力をフルに発揮したコーナリングとは出来ない。

そしてブレーキング時の不安定さや、
トラクション(=駆動輪が路面にグリップして加速できる力)の不足につながる。

アンダーステアの車ではこれらと逆の特性となるが、
しかしその場合は前輪のグリップ性能をフルに発揮したコーナリングとは出来ない。

4つのタイヤがある車では、4輪全てのグリップ力をフルに発揮した状態(ニュートラルステア)が、
最速ヘ最も近い車輌特性と云えるだろう。

結局、レーシングマシンのセットアップの基本理念とは、そのマシンとドライバーにとって、
全てのコーナーの入口、中間、出口で、ニュートラルステアとなる様にする事なのだと筆者は考える。

(このページの最終更新日: 2019. 9.05木)
[ Site TOP ]