ヴァージン レーシング MVR-02   text by tw  (2011. 2. 7月)

昨(2010)年からF1GPへ参戦し、今季で2年目を迎えるマルシア・ヴァージン・レーシング・チーム。
テクニカル・ディレクターは引き続きニック・ワースである。

昨年も今季も、彼等は風洞を使わずに、CFD(コンピューター・フルード・ダイナミクス)のみを駆使してマシンの空力設計を行ったと云う。
確かに彼等の云う様に、それは非常に低コストの車体設計手段ではあるが、
現段階のCFDでは得られるデータが風洞と比べてあまりに少な過ぎるのではないかと云うのが筆者の推察である。
マシンを直線コースで、路面には凹凸が無く、横風も噴いていない条件ならば、現在のCFDでもだいぶ解析可能だとは思う。
しかし実際のマシンの走行では、それらの要素と、コーナリング時の外側への滑り量、その角度変化量、そのスピードの変異など、
あまりにも複雑な状況下での空力性能を発揮しなければならない。
果たして現在のCFDでそれらを計算できるのか筆者は大いに疑問であるし、実際のところ、未だ不可能であると考えている。

尚、契約の一環として今季のヴァージンはロシア国籍で参戦する。

そして2月7日、ヴァージン・レーシングは、英国ロンドンにあるBBCテレビジョン・センターで2011年用マシン「MVR-02」が公開された。
以下、概観から筆者の私見を記す。



フロントウイングは、翼端板の形状が細かく湾曲したりと凝っている。これはCFDが得意とする分野であろう。

現在の技術規定では、フロントウイングのフラップを車体中央部に設ける事を禁止されているので、
ウイングの左右のエリアで気流を跳ね上げダウンフォースを稼ぎ、ウイング中央部は後方へ綺麗な気流を供給したい。
そういった事から、フラップの車体寄りの部分は遭えて隙間を広げて、穏やかな気流の“仲介”をしている。

カメラは、ノーズからフロントウイングを吊るすステーの内側に設置された。
昨年からの規定で、フロントウイング中央部は上下対象の断面と規定されているが、
こうする事によって、僅かでもウイング中央部でダウンフォースを発生できているのかもしれない。



前輪のブレーキ・ダクトの位置は低く、フロントウイング下側が吹き上げる気流を飲み込んでいる。
カーボン製ブレーキのディスク&パッドは、技術的に作動温度領域が限定されており、温度が低過ぎても高過ぎても良好には作動できない。
そこで、ウイング下側の気流は、車速が高まると共に薄くなる為、
コースのストレート・エンドで過冷却させない様にする為のダクト位置だと思う。

フロントサスの上下アームはトレンド通り、車体からホイール側へ降りる「ハの時型」で、
これは空力の為であって、サスペンションの機能面では非常に宜しくないジオメトリーである。
サス性能を捨ててでも空力を優先した方がマシンを速くできる現在のF1技術事情だ。

タイロッドは、アッパーアームのやや下側に設置された。
これはアームの下さがり角を軽減する為に、アッパーアームのアップライト側取り付け位置をできるだけ高くする為だ。
円形であるホイール内の頂点へアッパーアームを取り付ければ、おのずとタイロッドはその水平位置よりも低い位置となる。
ロワアーム付近はできるだけ気流を乱す物を置きたいくないので、タイロッドはこの位置となる。

ラジエーター・エアインテークは横Uの字型で、細かく空力を追求した形には思えない。
インダクションポッドは無駄の無いスリムな形状で、この部分は好感が持てる。


(このページの最新更新日:2011. 2. 7月 Pm 10:02

(2011. 2. 7月 Pm10:53 追加更新)

ノーズ先端は幅広い。車体下方へ気流を導くには、これは正解だと思う。
しかし、先端の高さが低い。これでは最大ダウンフォース発生量の上限を低めてしまっているのではないかと思う。

フロントサスの上下アームは前後に短い角度・形状で、ブレーキング時のGに十分耐えられるのか傍目に心配だ。

フットボックスと、その下方のダミープレートとの間には、規定の変形量を抑えるステーが装着されている。

サイドポッド上面はストレートに後傾しているが、これは人間が描いたラインとは違い、機械が処理した様な感じを受けてしまう。



リヤサスはプッシュロッド式のままとされ、この部分は保守的な感じを抱く。
上下アームの間隔は短く、やや剛性が心配になる。
上下アームもドライブシャフトも後退角がつけられており、車体の空力面や重量配置は都合が良いが、剛性の低さや駆動ロスが気になる。

リヤ・ウイング・ステーは前後に短い物で、本当にこれでステー側面の気流が剥離していないのか疑問に思う程だ。
おそらくステーの中には、可動フラップの油圧か水圧の配管が通っていると推測できる。

全体的に観て、このマシンは「攻め込み度」がやや低い様に観える。
概観では判らない進化を遂げているのかもしれないが、
それでも何だか「もう少し何か新しい事を出来るのでは…」と思わざるをえないマシンだと感じる。

(このページの最新更新日:2011. 2. 7月 Pm10:53

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