「車体底面の空力効果について」
text & illustration by tw (2007. 3.30)
スマホ用に再編集・加筆 (2023. 2.18土)




(図1:ウイングが空中にある場合。)




(図2:ウイングを路面へ近づけた場合。
 空気の通路が狭くなって流速が増す事で、路面との吸着効果が発生する。)



上図1の「空中にあるウイング」と比べて、図2の「路面へ近づけたウイング」は、少し空気抵抗が増すが、
しかし、増した空気抵抗の割りに、とても大きなダウンフォースを発生させる事が出来る。
これを地上効果(グランド エフェクト)と呼ぶ。
この手法は、より少ない空気抵抗でより大きなダウンフォースを得たい、現代レーシングカーの空力性能の基本的な概念である。

空力の基本として、開かれた空間では、空気は音速以下の速度では圧縮される事は無い。
上図2のウイングは路面へ近い為、気流が通過する通路が狭いが、
その気流の速度が音速以下であれば、空気は圧縮される事は無く、狭い区間を、速い流速(=高い流速)で通過する。

ベルヌーイの定理で、流体は、速度が増すと圧力が下がる。
これがウイング下面や、現代レーシングカーの車体底面によるダウンフォース発生の原理である。



F1グランプリで初めて車体底面をウイング形状としたマシンは、
筆者が過去の資料を調べた限りでは、1970年の「マーチ701」である様だ。
このマシンは車体のサイド部分の底面をウイング形状としていたが、
しかしサイドウイング下方に翼端板は設けられておらず、低圧であるウイング下側へ、車体の横側から気流が進入してしまい、
得られたダウンフォースは少なかったと思われる。

そして1977年に、ロータスがサイドウイングにスカートを装着させた「ロータス78」を登場させた。
このサイドスカートは路面と接触させており、ウイング下部の低圧部と外気とを遮断した、空力効率の高い、初の本格的なウイングカーとなった。

しかしその後のウイングカーの空力性能の進歩により、
F1マシンのコーナリング速度が上昇してゆき、安全性に問題を抱える様になった。
その為、ダウンフォース発生量を抑制する為に、1983年からフラットボトム規定が裁定された。
その規定は、「前輪の後端から 後輪の前端まで に有る、全ての車体の底面はフラットでなければならない」という内容である。

これによりF1車輌のダウンフォースは削減はされたが、
しかしその後、リヤ ディフューザーの発明により、フラットボトム車輌であっても結構なダウンフォースを発生できていた。



そして11年後の1994年サンマリノGPで、予選でシムテックのローランド ラッツェンバーガー選手が、
決勝レースでウイリアムズのアイルトン セナ選手が高速でコースアウトし、死亡事故となった事により、
F1界は更に車体の安全性を向上させるべくレギュレーションを改定しようと奔走していった。
翌1995年からは、空力ダウンフォース削減を目的に、ステップドボトム規定が導入された。

そのステップドボトム規定とは、車体を正面から見た時に、
車体底面の、最も低い中央部(リファレンス プレーン=基準面)と、それよりも50mm高いサイド部で、つまり50mmの垂直段差を義務付けたものである。
これにより車体底面と路面との距離が大きくなり、グランドエフェクト効果が低減し、車体のダウンフォース量が低下した。

尚、A.セナの死亡事故より前の段階で(1994年 F1 第2戦 TI英田の時点で)、
将来的なF1の車体底面はステップドボトムにしようという動きはあったと、当時の私は雑誌の記事で読んだ記憶がある。

F1GP界は1994年サンマリノGPの悲劇を受け、車輌のラップタイム抑制の為に、ステップドボトム規定を始め、様々な空力制限レギュレーション等を導入していったが、
だが筆者は、それから数年を経て、ステップドボトム規定についていくらか懐疑的となった。
コース上での追い抜きが困難な理由は、前車の乱流による後続車のダウンフォースが軽減される事にあるが、
アメリカのレーシングで実証済みである様に、車体底面の吸着効果(グランドエフェクト)は、前車の乱流の影響を受けにくい筈だからだ。

そして、あまりにも長い年月がかかってしまったが、
F1界は2022年シーズンから、グランドエフェクトカーのレギュレーションをようやく再び採用し、
その結果、コース上での追い抜きが大幅に増加した。

(このページの最新更新日:2007. 3.30/加筆編集:2023. 2.18土)

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