「ステップ ド フロア幅の違いによる空力」

text & illustration by tw
Web公開日: 2010年10月19日(火曜) / 大幅加筆・編集: 2023年 5月27日(土曜)

F1GPでは、車体底面で発生させる空力ダウンフォースを減少させる事を目的に、
1995年シーズンから、ステップ ド・フロアの車輌規則を導入した。(下図)



この規定内容は、
リファレンス・プレーンの幅は、車体中心線より外側へ 150mm以上、250mm以下でなければならない。
  ステップ・プレーンの幅は、車体中心線より外側へ 150mm以上、700mm以下でなければならない。

そして、リファレンス・プレーンより50mm上方にステップ・プレーンがなければならないと規定された。

この規定により、前(1994)年度のF1マシンよりも、サイドポッド底面と路面との隙間が 50mm も大きくなり、
グランド エフェクト(=地上効果。車体底面と路面とが吸着する力、つまりダウンフォース)が低減された。

このステップドボトム・レギュレーション下での、空力デザインでポイントとなるのは、
「リファレンス・プレーンとステップ・プレーンの段差の側面の幅」を、
300mm〜500mm の範囲であれば、空力デザイナーが自由にデザインできた事なのだ。



1995年にこのレギュの導入当時に、筆者もそのエリアの空力デザインについて非常に思索して居たが、何故ならば、
大昔にマクラーレンの初のサイド・ウイングカー「M28」が空力的に失敗作であった理由を事を知って居たからである。

では下図に、フラット ボトム規定以前の、サイドポッド下側がウイング断面となっていた当時の概念図を示す。
(下図は、気流は左から右へ流れています。)



元祖ウイングカーであるロータスは、サイドポッド下面を完全な翼形状としていた様だ。
サイドポッド底面と路面との隙間が狭められ、この区間で気流の流速が高まり、強烈なダウンフォースを発生した!

一方でマクラーレンの「M28」は、
サイドポッド底面と路面との『隙間の狭い区間を、前後へ長くして』更なるダウンフォース拡大を狙った様だが、
サイドポッド底面のフラットな区間が長く続いた事で、空気の粘性による減速(境界層が成長)してしまい、かえって流速が低下してしまった様だ。
これはおそらく、現代の様な精密なムービング・ベルト付きの風洞を使えなかったであろう事からの失敗なのではと想像できる。




…と、筆者はこの様な歴史的な事柄を知って居た事から、
1995年とかそれくらいの当時、筆者は紙上で下図の様な方法で空力デザイン処理をして居た。



だんだんステップ幅を広めてゆく事で、流速を増し、境界層の発生を防ぐ狙いである。
赤の矢印は、ステップドフロア側面の幅が、最大幅となる箇所を示す。


下図は1995年のフェラーリの大まかな形。技術陣のトップはジョン バーナード。



この1995年のフェラーリのノーズ下にはキールが無かった。
ノーズ先端の下面から、スキッド ブロック底面へと空気が流れるラインで設計されており、フットボックス下のダミー プレートを装着する必要がなかった。

ステップ幅の設定は、車体の『前後ダウンフォース発生 中心位置』の辺りで最も幅が広くなる形状としていた様だが、
サイドポッドの「下面全域の流速」はライバル勢に比べて低かった様で、L/D(ダウンフォース発生量あたりの空気抵抗)は効率が悪く、車体のドラッグ(=空気抵抗)は大きかった様だ。



そして多くのチームの車体底面は、1995年から1996年くらいの間に、下図の形状の様に収まっていた様だ。



サイドポッド前端の部分で既に、ステップ幅が最大(500mm近い幅)とされていた様だ。
(ただしベネトンは異なる手法を採用し続けていた。)

筆者は今でもこの手法が正解か否か判らないが、とにかくこれが当時(1995〜2008年の)F1でのスタンダードと成り、
それからの12〜13年間、このエリアの開発状況は少しは落ち着いた状態となっていた模様だ。


そして、2009年から空力ボディワークのテクニカル レギュレーションが大幅に変更された。
リヤ ディフューザーの跳ね上げ開始位置が、これまでの「後輪車軸から前方へ330mmから」ではなく、「後輪車軸から」とされた。

この書き換えられたレギュレーション文章の隙を突いたのが、ブラウンGP、トヨタ、ウイリアムズで、彼等はマルチ ディフューザーを実戦投入した。
それは、ステップ側面の後部にエア インテークを設け、そこから立体的なディフューザーの上下の空間を使って、少しでも多くの車体底面の空気を引き抜くアイディアだ。



これは非常に大きなアドバンテージがあり、結局レギュで合法とされ、各チームがこぞって追従する事態となった。
この(2009)年、ブラウンGPはドライバーズとコンストラクターズの両タイトルを獲得している。



翌2010年、マクラーレンは、
モノコックのフットボックス下側の気流を、セパレーターで左右へ分け、サイドポッド下面へと流すデザインとした。



筆者がF1誌でその写真を確認できた程なので、既に各F1チームはマクラーレンのフロアを確認済みの筈だ。
来(2011)年 以降、各チームのマシンがどの様な車体底面とするのか興味深い。
何故なら車体底面は、空力性能に決定的な影響のあるエリアであるからだ。

参考になる情報源として、昔の某F1チームの空力エンジニア氏の話によれば、
「サイドポッド上面にあんぱん1個乗せても それほど大きな影響は無いが、車体底面に髪の毛1本テープで貼り付けたら空力性能は壊滅的になる」という事であった。

(このページの最終更新日: 2023. 5.27土)

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