B・A・R 006 text by tw (2004. 9.14)

F1では1999年シーズンの序盤にベネトン(現ルノー)が初めてレースで使用した、
「フロント・トルク・トランスファー・システム」(以下FTT)を、
5年ぶりにBARがレースで使用した。

F1のFTTとは、従動輪である前輪をシャフトで左右を繋ぎ、
その中央で「油圧回路付きのリミテッドスリップデフの様な物」を備えた機構と思われる。



FTTはアイデア次第で色々な可能性が有ると思うが、
その最も単純な使い方は、ブレーキング時の前輪のロックの抑制であると思う。

それはフル・ブレーキング時に、左右の前輪のどちらかがグリップの限界を超えてロックした際、
左右の前輪に回転差が生じた事でリミテッドスリップデフが反応し、
回転している方のタイヤからロックした方のタイヤへ回転トルクが伝わって、
ロック状態から回復しようという力が加わる効果である。

通常ブレーキング時には、4つのタイヤの内1輪でもロックした場合、ドライバーは
そのタイヤのグリップを回復させる為にブレーキ踏力を一旦緩めていると思われるが、
その時に他の3つのタイヤがグリップの限界内であれば、ブレーキ踏力を緩めるのは勿体無い
と考えられるので、FTTの効果は事実上の制動距離を短縮できるかもしれない。

また、コーナーを回り込みながら行うブレーキング時には内側のタイヤがロックし易いので、
ストレート区間でのブレーキング時以上にFTTによるグリップ回復力が効果的と考えられ、
そしてFTTのリミテッドスリップデフの効き具合のセッティングによって、
ブレーキング時のオーバーステアの誘発を抑制する効果を作り出せるかもしれない。



BARはFTTを第12戦ドイツGPに持ち込み、金曜は使用したが、
FIAから「決勝後に失格にならないという保証はできない」とされ、
予選と決勝では使用しなかった。
これは恐らく、ブレーキの電子制御を禁止する規定の解釈が問題となったと思われる。

そしてBARは改めてレギュレーションに対応させた仕様のFTTを、第15戦イタリアGPから投入した。
これは恐らく電子制御を排除し、メカニカルな機構のみで構成したシステムと思われる。

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