2016年 2月22日、メルセデスのニューマシン、「W07」が公開された。
この「W07」の写真は、F1通信 等を参照。 以下、概観から筆者の私見を記す。
インダクションポッドを横から見ると、エアインテークが傾斜している。
傾斜インテーク形状の実戦投入は、近年では初めてではないだろうか?
トラックでのクラッシュ後、ドライバーをコクピットに乗せたままヘッドレストを取り外せる必要があるが、
前方へ傾斜したインテークはそれを邪魔をする。これは問題にならないのだろうか? (6月26日、下記加筆)
そして、インダクションポッドの左右へ取り付けたカメラが大きい。
テスト走行の写真を確認したが、他車のほとんどは従来の薄型カメラで、
唯一レッドブルだけが、インダクションポッドの片方だけにメルセデスと同じ巨大カメラを装着している。
カメラでの整流効果を狙ったのならば、片方だけの装着では無意味な筈だが…?
このエリアの整流に関しては、2006年にマクラーレンの折れ曲がりミッドウイングの例があり、
これはリヤウイングへの整流効果があった。
今(2016)年からは規定でサイドプロテクターが20mm高くなり、
W07が大きななカメラを着けたエリアで気流が乱れている可能性はあるかもしれない。
それよりも今回筆者が疑問に思ったのは、他チームの多くの様にノーズの左右を高くしなかった事だ。
これでは車体下方へ供給する気流量が少なく、ダウンフォース不足にならないだろうか?
ノーズコーンはクラッシュテストに合格させれば、シーズン中でも新しい物を投入できるので、
フェラーリあたりが脅威になった場合、新しいノーズを開発するかもしれない。
フロントサスペンションを上から見ると、モノコックと前側アッパーアームの角度から、前輪が前方にある事が判る。
これはホイールベースが長いか、或いはリヤエンドがコンパクトにまとまっているかのどちらかだろう。
今年もタイロッドをロワアームの前側にレイアウトしている様だ。
アッパー後ろ側アームのモノコック取り付け部は4点のビスが見える。
今年も上下ウィッシュボーンの間隔が近く、ロワアームはだいぶ高い位置にある。
これはサスペンションの剛性が不利だが、確実に空力に寄与しているだろう。
サイドディフレクターは間隙フラップタイプで、規定で許された範囲を有効に使っている。
今年もサイドポッドの全高は低めで、これはサイドプロテクターの盛り上がり量を観ると判る。
サイドプロテクターの高さは空力上、規定ギリギリまで低くしたいので、各車で高さが同じなのだ。
サイドポッド上面前端のフィンは、左右1枚づつになり、この辺りが非常にスッキリした。
昨年よりもフィンに起因する干渉抵抗が大幅に減少していそうだ。
サイドポッドのエアインテーク上端の位置は昨年より低いかもしれない。
リヤカウルは低く落とし込んであり、アッパーアームが露出している。
ただし今の規定ではロワウイングを装着できないので、落とし込みの効果は低い。
それよりもリヤカウルは高く、幅を狭くした方が、重要なディフューザー効率に寄与すると考えられるが…。
リヤウイングフラップは中央、両端と切り欠きしたタイプで、ややローダウンフォース・ロードラッグへ振っている。
これは車体底面で発生しているダウンフォース量に自信があるのかもしれない。
リヤウイングステーは中央1本で、スワンネックにはなっていない。
モンキーシートは昨年のミディアムダウンフォース仕様で、ウイング上側には翼端板が無く、
ウイングにRをつけて下方へ折り返し、リヤの衝撃吸収構造と接続している。
排気はメインの排気管の下に、ウェイストゲート専用の排気管が通っている様だ。
ドライバーは引き続き、ルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグのコンビだ。
これは、まずサイドディフレクターを沢山の間隙フラップとしている。
間隙を開ける事でディフレクター内側の気流量が充実するので、
コーナリング時に、フットボックス下部のセパレーターが左右へ別ける気流量が変化した時に、車体下方へ向かう気流量が安定するかもしれない。
そしてこちらの方がメインの目的ではと思われるのが、ディフレクター底面の多段ボーダーフィンだ。
フラットボトム規定で、底面は半径50mm以下のRをつける事ができるので、それを駆使して複雑な造形をしている。
これは明らかに車体下面へ入る気流の状態に介入しているし、単なる間隙化という話ではない高度な空力デバイスだ。
しかし、このディフレクターは取り外して内側から観なければ正確な形状は判らないだろう。
マシンがコースアウトした際など、ディフレクターが外れた時は要チェックだ。
このデバイスはCFDと風洞で綿密に造られた跡が見えるが、時間が経てばライバルチームも追従するかもしれない。
尚、上のイラストで示した様に、冬のテストでは、インダクションポッドの両脇にこれくらい巨大なカメラをつけていたが、
開幕戦を迎えてから、通常の薄いカメラへ戻している。