「2009年規定になって変わったF1車輌コンセプト」 text & illustration by tw (2009.3.05木)

F1GPでは1995年から2008年まで、フロント区間は下図のボディワーク規制となっていた。
英文のFIA規定の意図を和訳すると、
「前輪中心線から、前方へ350mmと、後方へ800mmの区間では、
 車体中央線から左右へ400mm以上にボディワークがあってはならない。」となる。

この規定によって、サイド・ディフレクターやサイドポッドを、車体中央線から左右へ400mmより外側へ置くには、
前輪中心線から後方へ800mmの地点より後ろからとなっていた。




しかしこの規定には問題があった。この規定はサイド・ディフレクターの設置可能範囲を制限する目的であったにも関わらず、
規定を「前輪中心線から後方へ800mmの区間」と定めてしまった事から、
デザイナーがモノコックから前輪を前進させるほどにサイド・ディフレクターの設置可能範囲が広がるのだった。

サイド・ディフレクターは空力性能面で非常に重要なパーツである。
この事から各チームは、前輪の位置=ホイールベースは、純粋なビーグル・ダイナミクス上の理由よりも、
空力性能上のメリットを重要視して決定する様になっていった。

そして今(2009)年からテクニカル・レギュレーションが大幅に変更され、
ボディワーク設置許容範囲に大幅な制限が加えられた。
この新規定により、前輪の位置とサイドディレクターの相関関係は無くなり、
前輪の位置やホイールベースは純粋にビーグルダイナミクス上の理由から決定できる状態となった。



現在の規定でのタイヤの最大幅は、前輪が355mm、後輪が380mmとなっている。
現在のF1マシンは、エンジンをドライバーよりも後方に置くミッドシップマシンであるが、
筆者はこの前後輪の幅の差は、前輪の幅が広過ぎると思う。つまりマシンはオーバーステアとなる筈だ。

コーナリング中に遠心力は車体の前後重心位置に加わる。
そして車体は前後のタイヤのグリップ力によって遠心力へ対抗しコーナリングする。
よって仮に、コーナリングに対応するグリップ力が前後輪共に同じであれば、
理想の(ニュートラル・ステアの)車体の前後重心位置は、ホイールベースの中心となる。

今(2009)年からの新規定により、前輪の位置とサイドディレクターの相関関係は無くなり、
前輪の位置やホイールベースが純粋にビーグルダイナミクス上の理由から決定できる状態となった事から、
各チームはエンジン+モノコックを前後輪に対して前進させてきた様だ。
これにより車体の前後重心位置は、昨年までのマシンよりも前寄りとなり、重心位置調整をバラストに頼る量が減少したと思われる。

昨(2008)年までも今(2009)年度も、後輪に対してコクピット後端位置は規定で制限がある。
その規定は、「コクピット後端位置は、後輪中心線から前方に1330mmの地点よりも前側になければならない。」というものだ。

昨(2008)年までは、ほぼ全チーム共、サイド・ディフレクターの設置上の理由から、
車体から前輪を前方へ遠ざけ、
且つホイールベースが異常に長くならない様に、コクピット後端は規定一杯まで後輪に対して近づけていた様だった。

しかし今(2009)年からの新規定で、コクピット後端は規定一杯まで後輪に対して近づける必要は無くなった。
エンジン+モノコックの前進は重量配分の良好化だけでなく、更なるメリットも生み出す。

左図は、後輪とエンジン+コクピット位置との比較。
左側は規定一杯までエンジン+コクピットを後退させたマシン。
右側は規定一杯よりもエンジン+コクピットを前進させたマシン。

黄色で示した通り、右車の方がサイドポッド内部の空間が増す。
これにより、左車よりも右車の方がサイドポッド後部を、更に狭く低くする事ができ、空力性能面に寄与する。
サイドポッド外側のコークパネル絞込み位置を、従来よりも前側から始められる事も空力面でメリットがある。

各チームのマシン開発陣は、昨(2008)年までの「コクピット後端は後輪中心線から前方に1330mmの所に」というお決まりの開発手順から放り出され、 エンジン+モノコックをどの場所に置くか?という昔には必ず介在していた項目を新たに考える必要が出てきたというところが、これからのシーズンでの見所だ。


(このページの最新更新日:2009. 3.05木


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