2017年シーズン F1マシン空力トピックス text by tw
このページは、空力面を中心に、各マシンに使われた新しいアイデアや、気になったポイントを更新致します。
あまり速報性はなく、必ずしも毎グランプリづつ更新するページではありません。たまーに更新致します。
フェラーリ:フリー走行で頭部保護ウインドスクリーン「シールド」のテストを実地したが、
たった1周でヴェッテルが「めまいがする」とコメントし、彼等はテストを切り上げた。
この結果に拠ってか、FIAは来季(2018年)から頭部保護コンセプトは「ハロー」を導入すると発表したが、
筆者に云わせればこれはフェラーリ製の「シールド」の光の屈折率に問題があるのであって、「シールド」のコンセプトが間違いだと云う結論にはならない。
実際、軍で戦闘機の操縦手はウインドスクリーンの中で問題無く操縦できている訳で、筆者は「ハロー」の安全性を否定する。
過去のハンガリーの予選で起こった、マッサの頭部へバネが衝突する様な事故に対しては、ハローでは全く防ぎようがないからだ!!
メルセデス:決勝レース中に、ハミルトン車のサイドプロテクターの固定に問題が発生したが、
この時、サイドプロテクター上面で気流が速く、リフトが発生している事がオンボード映像でよく判る。
そしてハミルトンは走行中にサイドプロテクターを手で抑え付けていたが、プロテクターの表面素材も柔らかい事が判明した。
空気抵抗では変形せず、手で押すと変形する程度のクッション素材だ。
フェラーリ:モントリオールはストップ&ゴーでストレートも長い為、低ダウンフォース仕様の3Dリヤウイングを使用した。
これはメルセデスの様に(2003年のマクラーレンが元祖)ウイング下面の両端が高くされている物で、
通常のストレートタイプのリアウイングよりも翼端渦を軽減できる。
このタイプのリヤウイングは、DRSを開いた際に気流は複雑な流れ方となる。
レッドブル:空力のアップデートで、アンダープレート両端の切り欠きがなくなった。
他チームはそこを間隙フラップ状にしてあるが、レッドブルはまだそうなってはいない。
彼等のこのエリアのアップデートはまだ続くだろう。
ハース:オンボードカメラ映像で、Tウイングが振動している事が確認できた。
彼等は開幕戦でTウイングの振動が安全面で問題があるとFIAから指摘されていたと思うが、
シャークフィンを軽くする為に薄く造っているのか、ダラーラのカーボン技術が遅れをとっているのか、
どちらにせよ、Tウイングが振動してしまうのは空力面で不都合があるのではないだろうか?
今、空力の流行となっているのが、アンダープレートの両端に前後方向の切れ目を入れる事だ。
その位置は、サイドポッドのアンダーカットが最大幅となる辺りで行われている。
(F1通信の写真を参照。)
これはアンダープレートの両端を間隙フラップ状としてあるのだが、
これがどうやってフラットボトム規定をクリヤできているのかはアンダープレートを下から見ないと判り辛い形状だ。
フラットボトムの端の部分は50mm未満のRをつけられる事を利用して空力デザインされている様だ。
今(2017)年の新車発表時からこの形状を採用していたのがハースで、
現在では、フェラーリ、メルセデス、マクラーレンも追随している。
中段争いではハースがなかなかの速さを見せているが、
早期からこの空力アイディアの採用を決めて空力開発を行った結果なのかもしれない。
メルセデス:
2人のドライバーで異なる仕様のウインドシールドとなっている事が確認できた。
ロズベルグは大きなノコギリ型で、ハミルトンは通常のオーソドックスな背の低いウインドシールドとなっていた。
これはドライバーの好みからこうしてあるのかもしれない。
メルセデス:
予選終了後の映像で、ロズベルク車のコクピット開口部のウインドシールドが、ノコギリ型の形状をしている事が判った。
(テレビ映像でハミルトン車の方は確認できなかった。)
形状は比較的大きめのノコギリカットで、大きめの立体渦流を生成している事になる。
どういう意図でこういった形状としているのか筆者はまだよく分らないが、今後、他チームも採用する例があるのか注意して観てみたい。
メルセデス:
スパから引き続きスプーン状のリヤウイングを使用した。これはウイング上側の翼端の流れを重視している。
レッドブル:
モンツァは平均速度、最高速ともに高い為、専用のロードラッグ・リヤウイング・パッケージを持ち込んだ。
と言っても、その内容は簡素な物だ。(ハイダウンフォースとする方が形状は複雑になる。)
まず、翼端板にこれまであった、前縁の縦のスリットと、ウイング上面の高圧排出水平スリットが閉じられた。
スリットが開けられていると干渉抵抗が発生するので、閉じればこれが無くなる。
水平スリットは翼端渦を軽減する目的なので、モンツァの様に寝かせた薄いウイングでは必要性が低いのかもしれない。
そしてウイングステーがスワンネックではなくなり、メインウイング下面にステーを接続している。
これは何故そうしたのだろう? 解せない。
DRSの作動装置も新しくされ、メインウイング上面に密接した形としていたが、
リアウイング・フラップ中央の間隙の気流エネルギーを考慮すれば、旧型の方が優れている様に思える。
メルセデス:
昨年同様、平均速度の高いスパでスプーン状のリヤウイングを使用した。
カナダ以降か、モンキーシートは角にRをつけたタイプのままで、
これは明らかにダウンフォースよりもエンジン排気流の吸い出しを重視している。
メルセデスにはパワーユニット出力もシャーシ性能もこれといった弱点は無い。(今季のパワーユニットは信頼性が少し欠けたかもしれないが)
来季のテクニカル・レギュレーション大幅改革で、今の勢力図は変わるだろうか?
ルノー:
決勝でケビン・マグヌッセンが大クラッシュしてしまった。
彼はオールージュを抜けた際に急にリヤがスライドし、カウンターを当てたがその瞬間にリヤのグリップが戻ってしまい、
結果、過大なお釣りが発生してコース右側へ飛び出した。
このクラッシュで問題だったのは、タイヤバリヤとの衝突の衝撃で、サイドプロテクターが完全に外れてしまった事だ。
今回は幸い頭部にダメージはなかった様だが、こんなに簡単に外れてしまう構造では今後命を落としかねないので、次戦までに改善を望む。
ザウバー:
おそらくグリッド上で最も出力が低い仕様のパワーユニットで走っていると思われる。
それだけが原因ではないと思うが、コース上のスピードもコンストラクターズ順位も最下位となってしまっている。
今季はまだポイントを獲得しておらず、マノーは1ポイントを獲得しているが、
1ポイント差にも関わらずザウバーはもう今季を諦めて車体開発を行っていないかも知れず、
完全にリソースを来季へ振り分けているのかもしれない。
上で、開発を行っていないかもしれないと書いてしまったが、実際にはベルギーGPでBスペック相当のアップデートを投入していた事が判った。
彼等は全く新しいフロントウィング、ルノーに似たフロントウイングステー、ディフューザー、前後ブレーキダクトを装着していた。
アップデートにも関わらず最後尾を走っていた原因は、パワーユニットに発生した冷却やミスファイヤのトラブルからくるものであった。
メルセデス:
ピットストップ時に筆者は気付いたのだが、
フロントウイング フラップ上面に、極めて背の低い多数のベーンが設置されている様に見えた。
これはフラップ上面が空気を外側へ流す進路と一致している様な形状だ。
詳細な形状が判ったら、またこのページを更新する予定だ。
2018年からのコックピット正面保護の同意:
先日のF1戦略グループ会議で、ドライバー頭部の正面保護を導入することで全員一致で同意された。
現時点ではハローコンセプトが2018年に導入される最も可能性の高い選択肢の様だが、
これでは2009年ハンガリーGPのマッサの時の様な、小さな衝突物に対する防御はできない。
何故、レッドブルがテストしている様なスクリーンタイプよりハローが支持されているのだろうか?
ザウバー:
新しいリヤウイングの翼端板を投入したが、非常に懐疑的な形状だった。
この翼端板には、ウイング下流の剥離を防止するスリットが4つ切られているのだが、
余計な事にメインウイングの真下の部分にもスリットがあった。
これではウイング下面の負圧が、翼端板の外側から空気を吸い込んでしまう。
ウイングを通過する気流の進路は、前から後ろへ真っ直ぐが、最も空力効率の良い流し方であり、
それを達成するパーツが本来の翼端板だ。
翼端板にスリットを切る意味は、あくまでウイング下面で流れが剥離する箇所へ運動エネルギーを供給する事であるが、
ウイングの真下にスリットを切ってしまえば、翼端板の外側からウイング下面へ余計な空気が侵入し、ダウンフォースが減少する。
そして翼端板から外側へ吸着力が発生するが、それで一体彼等はどうしたかったのだろうか?
現代の空力開発は主にCFDと風洞で評価されていると思うが、今回の様な設計が良い評価を与えられたところにも筆者は問題を感じる。
メルセデス:
今シーズン、メルセデスの前輪のブレーキダクトは凝っていて、複雑で立体的な構造だ。
前輪の頂点付近では、回転により気流が減速し、両横へ別けられるが、
それを受け止めて後ろへ流す、湾曲した受け皿が、ブレーキダクトのエリアの上部にある。
ブレーキダクト内部へゴミが入らない様に、インテークには片側9枚程の水平フィンで防御しており、
このフィンは斜めに前進している形状なので、雨天でテープを貼って開口面積を減らす際にも、
テープに沿う気流は横方向へ逸れるので、空力の悪影響を軽減できる。
ブレーキの排熱がホイールの内側へ漏れない様に、アップライトとホイールのクリアランスはギリギリだ。
そして上下のウィッシュボーンがアップライトと接する部分には、
ラバーと思われる柔らかい部品でシールしてあり、気流の配慮を徹底している。
一方リヤでは、モンキーシートにガーニーが追加され、僅かにダウンフォースを増している。
モンキーシート内側の白色の加工は特殊な物で、非常に耐熱に優れているらしい。
ギヤボックス・ケーシングの上部が立体形状となっているのも確認できた。
リヤ後ろ側アッパーアームの車体側取り付け位置は、左右の間隔が短く、
アームを長くする事と、空力で重要なリヤの狭さを両立している。
尚、前側アッパーアームの車体取り付け付近では、カウルをチムニー状としてサイドポッドの排熱を行っている。
鉄壁に見えるメルセデスだが、リヤウイングステーとエンジンカウルの継ぎ目は改善できそうだ。
トロロッソ:
フロント前側ロワアームに直接、縦のフィンを装着している。
これは規定で許されるブレーキダクトのエリア内にあると思われるが、
アームに直接、空力付加物を装着するのは見事に発想の壁を破る事に成功している。
このフィン単体ではダウンフォースは生まないが、このエリアの流れを綺麗にするのは空力に寄与しそうだ。
今回筆者は、STR11のタイロッドはアッパーアームよりも高い位置にある事に気付いた。
メルセデス:モンキーシートが小変更され、3本のスロットを切ったタイプとなった。
バルセロナは現行のリヤウイング規定で最大のダウンフォースを要求すると考えられ、それに合わせた仕様と思われる。
トロロッソ:サイドポッドのリヤエンドが左右非対称の仕様を用いて、左側が高く、より多く排熱していた。
ハースとザウバーはフェラーリの新スペックのパワーユニットを投入したが、トロロッソにそのアナウンスは聞かれない様だった。
フォースインディア:多くのチームと同じ様に空力のアップデートを投入し、サイドポッドのリヤエンドは低い形状とした。
これはリヤウイング効率を向上させる考え方で、下の中国GP編で筆者が綴っていた事と反対で、コンセプトの方向性を変更した形だ。
マクラーレン:予選では、アロンソのセクター3のタイムがメルセデスとレッドブルに続くもので、
この区間では、フェラーリ、ウイリアムズ、フォースインディアよりシャシーパフォーマンスを発揮したと捉えられる。
具体的にはトップのメルセデス(ハミルトン)より0.462秒遅れだった。
低速での空力は良いようで、モナコやハンガリーで期待が持てるかもしれない。
ただし、ホンダのパワーユニットの排気管は、相変わらず下方にまとめて集合させてある。
筆者は、メルセデスの様にやや持ち上げて集合させ、サイドポッドをより狭く絞り込んだ方が良いと考えるのだが。
フォースインディア:後ろから観て、リヤサスペンションのアッパーアーム角度は水平に近く、
それとツライチとなる様な高さに、サイドポッド後部の上面が位置している。
現在の規定ではリヤにロワウイングを装着できないので、サイドポッド後部を低めるよりも、
サイドポッド後部を狭める事でディフューザー上面の流速を高める空力コンセプトだ。
リヤウイングよりも、グランドエフェクトで機能するディフューザーの方が空力効率が高い。
アッパーアームがほぼ水平だと、リヤロールセンター高が高く、キャンバー変化も理想値にならないかもしれないが、
空力を最優先したハの字マウントのフロントサスペンションを採用している時点で、
前後ロールセンターの設定など、何を今更という感じなのだろう。それほど、現在のF1は空力性能を優先している。
トロロッソ:サイドポッド後部の上面は、やや波打った3D形状で、
後ろから観ると、高さはリヤサスのアッパーアームよりも高い部分がある様だ。
目測だが、今回使用したリヤウイングの上下高さは、もしかすると規定一杯(200mm)よりも薄いかもしれない。
中国はバックストレートが長く、パワーユニット出力の低さから、空気抵抗を削減せざるをえなかったのかもしれない。
実際、決勝レースで他車に比べストレート速度が辛そうな様子が窺えた。
メルセデスのパディ・ロウは、「今季のルノーとホンダのパワーユニットは、昨年のフェラーリよりもパワフルだ」とコメントした。
そうであれば、現在最も非力なパワーユニットを搭載するのはトロロッソとなる。
ハースもフェラーリのパワーユニットを搭載しているが、冬に筆者がハースのページで昨年のバージョンと書いたのは誤りで、
実際は新しいバージョンのパワーユニットを使用している様だ。
開幕戦のメルボルンではトロロッソが非常に好調だったが、
メルボルンよりも今回のバーレーンの方がパワーが寄与するコースレイアウトと考えられ、トロロッソは相対的にポジションを下げた。
それでも決勝でレッドブルを1台食っている事から、今季のトロロッソの車体の良さが窺える。
トロロッソは、空力性能が非常に重要となるバルセロナ(第5戦・5月13日〜)でのパフォーマンスを特に注目したい。
しかし、トロロッソよりもパワフルなバージョンを積んでいるにしても、ハースがそれを上回ったというのは非常に評価できる結果だ。
ハースチームというよりも、製造元のダラーラがいい仕事をしたという事だと筆者は解釈している。
一方で、ウイリアムズは明らかに昨年よりもポジションを落としている。
空力面では、リヤエンドを後方から観ると、メルセデスから学びそれを更に進めた大きなアーチ状のカウリングが目を引くが、
もっと性能へ寄与する、取り分の大きいエリアで開発を進めなければ、彼らが望むような競争力はつかないだろう。
トロロッソ:金曜のフリー走行1でスピンし、ドライバーがフルカウンターを当てたが、
この時の映像から、前輪のキャスター角が大きい事が判った。
近年のF1マシンは左右へ切り返すコーナーで車体がロール方向に動き易い傾向があるが、
キャスター角の強さも影響しているかもしれない。
少なくとも今年のトロロッソはキャスターが大きい事が判明しているので、
今後のオンボード映像があれば注目したい。
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