フェラーリ F60 text by tw (2009.01.12月 / 2010.01.20)

2009年01月12日、フェラーリの2009年用マシン「F60」が発表された。
写真は、F1-Live.comや、GPUpdate.net等を参照。
以下、概観から筆者の私見を記す。



ノーズ先端の高さは、筆者の事前の予想通りハイノーズとされた。
これはフロントウイング中央部にフラップを装着できず、
この部分でダウンフォースを効率的に獲得できなくなった為だ。

フロントウイングは、積極的に翼端板で気流を前輪の外側へ跳ね飛ばそうとはせずに、
メイン ウイングの幅を広く設定してダウンフォースを獲得している。
そして翼端板には小さな縦のベーンが設置して有り、この周辺の気流変動に敏感にならない様に配慮をしている様だ。

フロントウイングの左右には上段フラップが装着されている。
これはフロントウイングが跳ね上げる気流の進路を制御する為。
この制御を行わないとサイドポッド上面からリヤウイングへかけての気流状態が良質なものとは出来ない。

ノーズコーンからフロントウイングを接続するステーは前進角を持った形状となった。
これは今(2009)年からの技術規定でフロントウイングの位置がこれまでよりも前方となった為。
あまり前方にステーが存在すると、回頭性に悪影響が出るのかもしれない。

装着が義務付けられているオンボードカメラはノーズ先端位置の左右へ装着された。
この配置は、カメラの存在が他の気流エリアに害を与えない様にする為の配置だと考えられる。



上から観たフロントサスのアームの角度からして、前輪の位置は後退した様だ。
これはホイールベースが短縮された可能性が有り、
今(2009)年からスリックタイヤとなった影響からだと考えられる。

溝付きタイヤと比較して、スリックとなった前輪は回頭性がクイックとなり、
後輪もスリックなのでターンイン時のリヤのスライド限界値も高くなる。

1998年に溝付きタイヤが義務付けられた際にはホイールベースを長くしたマシンが成功を収めたが、
スリックタイヤとなった今(2009)年からは、その例の逆で各チーム共ホイールベースの短縮が予想される。

サスペンスションの設計は筆者の事前の予想から外れ、ゼロキール・コンセプトを継承した形となった。
筆者の考え方からすれば今(2009)年の技術規定でのゼロキール式は懐疑的だ。



リアビューミラーのステーには大いに評価すべきアイディアが用いられている。
今年からの技術規定により、
フロントウイング後方からリヤウイングまでのボディワークには基本的にウイングの装着が禁止されたが、
フェラーリF60はボディワーク幅の許可範囲一杯までミラーを離して配置し、
そしてそのミラーステーを垂直に縦に伸びるステーとした。
このアイディアにより、本来は禁止されている筈のサイドポッド手前のベーンを実現できた。
筆者はこのアイディアは考え着かずに居たので、フェラーリのアイディアを多いに評価したい。



サイドポッド上側のクラッシャブル・ストラクチャー(衝撃吸収構造)は、
上から観たサイドポッドのラインから飛び出す様な形となった。
これは衝撃吸収構造物をなるべく前方に設置した方がサイド インパクトの試験に合格し易いからだ。



エンジンの排気管は上方排気とされているが、
これは開幕戦までにサイドポッド内からの排気に変更されるかもしれない。

筆者はこのマシンが完成形とは思えない。開幕戦までに空力デバイスのアップデートが予想される。

「F60技術仕様」
フェラーリ製LSD(リミテッド・スリップ・ディファレンシャル)
ギア数: 7速+リバース
ブレンボ製ベンチレーテッド・カーボンファイバーディスクブレーキ
冷却水、オイル、ドライバーを含んだ重量: 605kg
BBS製ホイール(フロントおよびリア): 13インチ
フェラーリとマネッティ・マレリ社の共同開発によるKERS(運動エネルギー回収システム)
エンジン
タイプ: 056
気筒数: 8
シリンダーブロック:アルミ鋳造製 Vアングル90°
バルブ数: 32
ニューマティック・ディストリビューション
総排気量: 2398cm3(立方センチメートル)
ピストンボア: 98mm
重量: 95kg以上
マネッティ・マレリ製デジタルエレクトロニックインジェクション
マネッティ・マレリ製デジタルエレクトロニックイグニッション
燃料: シェルVパワーULG66/2
潤滑油: シェル

(このページのここまでの最終更新日:2009.01.12月


田宮製フェラーリF60(1/20モデル)風洞可視映像。タフト(糸)で各部分の気流進路の可視化。


(このページのここまでの最終更新日:2010.01.08金


(2010.01.20更新) 車体全体にタフト(糸)を着けた風洞可視化 写真と映像。

動画映像(←ピンぼけで解り辛い;)を観る前に、まずは鮮明な写真から。



(この模型では、)サイドポッドの後部の空力処理がオカシイ。
流速の遅いラジエーター・アウトレットの所為で流れの圧力が高く、糸が張り付いてしまっている。
エンジンの排気エネルギーが供給されれば上手く流れるのだろうが、
それではスロットル開度で空力特性が大きく変動してしまう。
実際、2009年シーズンのフェラーリは何度かサイドポッドのデザイン変更が施されていた。








ロールフープ・カメラの気流進路に注目。
支柱のある中央ではその後部で気圧が低下するのでカメラ上方の気流は下方へ下がるが、
支柱の無い両側では糸はあまり垂れ下がっていない。これはリヤウイングへの気流供給に影響する。

リヤウイングの翼端板付近では各部で渦が起きている。





ノーズ先端に荷かる高圧の為、ノーズ先端上面の気流は左右へ別れている。

意図的にフラップ両端を下げてあり、前輪の空力悪影響を避ける為に、気流を外側へこぼす様にデザインされている。
この部分は、翼端板と合わせて各チームが2009年シーズンの空力開発でテーマとなった部分だ。








車体左側(写真で見て右側)は実戦のF60と同じ形状に筆者が翼端板の後部を切り取った。
翼端板上縁がストレートに伸びる車体右側(写真左側)と比べて、翼端渦が異なる。
切り取った側では、外側へ大きく噴き出す翼端渦を上手く利用して、
上段ウイング下面の気流を外側へ抜いてダウンフォース増加に寄与している。











左右の翼端板上縁の形状が異なる事が解る写真。明らかに翼端渦が異なる。
左側(実戦のF60)の方が渦を利用して上手くダウンフォース増加を実現している事が解る。

サイド・ディフューザー側面の流れは、後輪の後方ではなく、僅かにディフューザー後方へと向かっている。
これは車体“中央部”後方の、車体底面の気流吸い出しの効果が大きい(=L/D比が良い)事を示すと云っていいだろう。



ここから次の写真は車体を路面に横へ倒して撮影した物。車体下面の流れや、糸の重さの重力の影響の違い等が異なる。



















風洞可視実験 全体(路面上)




風洞可視実験 全体(車体底面)



(このページの最新更新日:2010.01.20水
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