リヤ・ディフューザーが吸い出す気流量(=出力量)が減少していれば、
車体底面へ車体前方から吸い込む気流量(=入力量)も少ない筈で、
にも関わらず、よりハイノーズ化されたという事は、ノーズ下から車体横方向へ流す気流量が増していると考えられる。
車体横側、つまりサイドポッド側面へ多く気流を供給すれば、その区間の流速が増し、圧力が低下する。
これにより、車体底面の気流を守る“フェンス”の効果を発揮すると考えられる。
と云うのは、空気は圧力の高い所から圧力の低い所へ流れ込む為、
(ダウンフォースを発生させる為に)気圧が低くされている車体底面は、
当然、そこよりも気圧の高い、車体横側から空気を吸い込んでしまう。
L/D(空力効率)を良くダウンフォースを発生させるには、気流を前から後ろへ真っ直ぐに流す事が理想の様である。
つまり横側から空気を吸い込みたくない。しかしフラットボトム規制がある為、物理的なフェンスは装着できない。
そこでサイドポッド側面の気圧を下げてやれば、車体横側からの気流進入を軽減できると考えられる。
このアイディアは11年前の2003年シーズンからフェラーリが積極的に実戦で取り組み始めた手法だ。
そして、サイドポッド側面へ多くの気流を供給する事は、
その後方にあるリヤディフューザー上面へも多くの気流を供給する事になるのも重要である。
ディフューザー上面へ速い気流を供給すると、空気には粘性がある為、ディフューザー下面の気流を加速させる事ができる。
ただしステアリングロッドは、空気抵抗の軽減よりも強度・剛性を重視し、
アッパーアームと段違いのやや下側に配置された。
これは、角度のきついハの字アームを強度を確保する為にホイールの頂点付近に接続すると、
ホイールは円形なので、操舵するステアリングロッドは自ずとアッパーアームよりもやや下側に接続せずをえないからだ。
前輪のブレーキダクトは、フロントウイング下側からの気流を拾っている。
“ブレーキダクト”には、気流進路制御フィンをもはや平気で標準装着している。
前輪ホイールは昨年同様、空力を考慮したスポーク形状となっている。
今季のマシンの開発課題は、マルチ・ディフューザーとFダクトが禁止された事で失われた空力性能を如何に取り戻すかである。
F150はサイド・ディフレクターやサイドポッド前側両端の縦のベーンの前後長は短めで、これは筆者は干渉抵抗の軽減の意図を想像する。
サイドポッドのラジエーター・インテーク開口部は小さい。このサイズで冷やせるのか???と心配になる程だが、
サイド・ディフレクター上端のエッジ形状で渦流を発生させ、その渦の運動力によってインテーク内へ空気を突き込んでいるのかもしれない。
サイドポッド上面の前側にある、モノコックからの左右への短い飛び出しは側面衝撃吸収構造材で、サイドポッドを少しでも後退させる事が目的だ。
KERSは2009年同様、マグネッティマレリ社との共同開発との事。
サイドポッドの深いアンダーカットからして、KERSのバッテリーは燃料タンクの下部にあるのかもしれない。
筆者は以前からバッテリーは燃料タンクの下部に置くのがベストと考えているが、この場合、冷却法方を十分に配慮せねばならない。
モノコックのインダクションポッド後方には、車体を吊り上げる為のロープを通す穴が開ける法方に戻されたが、
昨年車では気流を乱さない*マクラーレン式であったので解せない。(*インダクションポッド先端から下へステーを着けるだけで済む手法)
これはもしかしてこれに関してのレギュレーションが改定されたのだろうか?
車体を横から見て、エンジンカウルの形状は、最低面積規定を満たす丁度の三角形の薄板とされている。
このフィンの側方には、熱気の排出穴が縦に渡って開いているが、
現在のままの形状だと、リヤウイングへ向かう気流を乱す可能性も考えられ、今後修正されるかもしれない。
冷却が楽な高速サーキットでは開口を狭く、冷却に厳しい低速サーキットでは開口を広くすると想像できる。
現在入手できている写真からはトーコントロール・ロッドがよく確認できない。
「非常に革新的なリヤサス」とはこの辺りにも関係している可能性も思う。
尚、サス・ユニット(ダンパー、ピッチコントローラー、イナーター等)の配置は、
昨年のルノーの様に、ギヤボックス上面のかなり前方にあり、プッシュロッドは大胆に前方へ延ばしている。
これはリヤの重量物を前へ配置して、車体の慣性モーメントを軽減させる為と、
空力の為に、リヤ上面のボディを後方へかけて低く設計する為だが、
横から見て、ホイールは上下方向へストロークするのに対し、
その移動量をロッカーへ伝えるプッシュロッドは垂直とはかけ離れた斜めレイアウトとなっているので、
リヤサスの作動性は悪化している筈だ。だがそれ以上に空力効率がラップタイムに寄与するのであろう。
しかしリヤウイング翼端板の形状は、全体を観ると細部まで凝った造りで、細かいエリアまで空力開発が進められていると想像できる。
フラップの中央の切り欠きの意味はまだ筆者には分からない。
近年では「ビームウィング」と呼ばれているリヤのロワ・ウイングは、
昨年はリヤ・クラッシャブル・ストラクチャーから左右へ生えただけの単純な物だったが、
今回のF150では、左右の端から端まで1枚のウイングとなり、
クラッシャブル・ストラクチャーはロワウイングの下を潜っている形状へ進化した。
…と云うか、昨年までの他チームに追いついたと云ったところか。
このロワウイングは、よく筆者が空力デザインで用いる様に、規制されていない中央部を逆V字型に盛り上げ、ダウンフォースを増している。
リヤ・ディフューザーの高さは、昨年までの「ステッププレーンから上方に 125mm 以内」から、
今季は「ステッププレーンから上方に 75mm 以内」とかなり低められたので、
少しでも多くの気流を車体底面から吸い出すべく、跳ね上げエリアをなるべく幅広くデザインしている。(最大 1000mm 以内)
|
|
Site TOP | フェラーリ index |
---|