フェラーリ F150th Italia   text by tw  (2011. 1.28〜 1.29)


全チームの先頭を切って、2011年 1月28日(金)、フェラーリの2011年用マシン「F150」が発表された。
この新車の概観は、ESPN F1 ニュース速報 Live 等を参照。以下、車体の概観から筆者の私見を記す。



今季からマルチ・ディフューザーが禁止された事で、車体底面から後方へ吸い出せる気流量が減少している(筈)
にも関わらず、ノーズは高くされた。

リヤ・ディフューザーが吸い出す気流量(=出力量)が減少していれば、
車体底面へ車体前方から吸い込む気流量(=入力量)も少ない筈で、
にも関わらず、よりハイノーズ化されたという事は、ノーズ下から車体横方向へ流す気流量が増していると考えられる。

車体横側、つまりサイドポッド側面へ多く気流を供給すれば、その区間の流速が増し、圧力が低下する。
これにより、車体底面の気流を守る“フェンス”の効果を発揮すると考えられる。

と云うのは、空気は圧力の高い所から圧力の低い所へ流れ込む為、
(ダウンフォースを発生させる為に)気圧が低くされている車体底面は、
当然、そこよりも気圧の高い、車体横側から空気を吸い込んでしまう。

L/D(空力効率)を良くダウンフォースを発生させるには、気流を前から後ろへ真っ直ぐに流す事が理想の様である。
つまり横側から空気を吸い込みたくない。しかしフラットボトム規制がある為、物理的なフェンスは装着できない。
そこでサイドポッド側面の気圧を下げてやれば、車体横側からの気流進入を軽減できると考えられる。
このアイディアは11年前の2003年シーズンからフェラーリが積極的に実戦で取り組み始めた手法だ。



ノーズを高くした理由は、少なくとも他に2つは考えられる。
ノーズが気流を多く上方へ向けると、結果的にサイドポッド上面の流速が増し、
その区間でリフトを発生してしまうであろう事。

そして、サイドポッド側面へ多くの気流を供給する事は、
その後方にあるリヤディフューザー上面へも多くの気流を供給する事になるのも重要である。
ディフューザー上面へ速い気流を供給すると、空気には粘性がある為、ディフューザー下面の気流を加速させる事ができる。



フロントサスの設計は空力を優先し、上下アームの降りる角度、ハの字がきつくされた。
これによりフロントのロールセンターは確実に高くなり、ビーグル・ダイナミクスよりも空力優先が選択された。

ただしステアリングロッドは、空気抵抗の軽減よりも強度・剛性を重視し、
アッパーアームと段違いのやや下側に配置された。
これは、角度のきついハの字アームを強度を確保する為にホイールの頂点付近に接続すると、
ホイールは円形なので、操舵するステアリングロッドは自ずとアッパーアームよりもやや下側に接続せずをえないからだ。

前輪のブレーキダクトは、フロントウイング下側からの気流を拾っている。

“ブレーキダクト”には、気流進路制御フィンをもはや平気で標準装着している。

前輪ホイールは昨年同様、空力を考慮したスポーク形状となっている。

(このページのここまでの最新更新日:2011. 1.28金 Pm10:40

(2011. 1.29土 Am10:39 追加更新)

今季のマシンの開発課題は、マルチ・ディフューザーとFダクトが禁止された事で失われた空力性能を如何に取り戻すかである。

F150はサイド・ディフレクターやサイドポッド前側両端の縦のベーンの前後長は短めで、これは筆者は干渉抵抗の軽減の意図を想像する。

サイドポッドのラジエーター・インテーク開口部は小さい。このサイズで冷やせるのか???と心配になる程だが、
サイド・ディフレクター上端のエッジ形状で渦流を発生させ、その渦の運動力によってインテーク内へ空気を突き込んでいるのかもしれない。

サイドポッド上面の前側にある、モノコックからの左右への短い飛び出しは側面衝撃吸収構造材で、サイドポッドを少しでも後退させる事が目的だ。



オイルタンクはエンジンの前面に配置している。これは重量物を車体中央へ近づけ、慣性モーメントを軽減する為だ。

KERSは2009年同様、マグネッティマレリ社との共同開発との事。
サイドポッドの深いアンダーカットからして、KERSのバッテリーは燃料タンクの下部にあるのかもしれない。
筆者は以前からバッテリーは燃料タンクの下部に置くのがベストと考えているが、この場合、冷却法方を十分に配慮せねばならない。

モノコックのインダクションポッド後方には、車体を吊り上げる為のロープを通す穴が開ける法方に戻されたが、
昨年車では気流を乱さない*マクラーレン式であったので解せない。(*インダクションポッド先端から下へステーを着けるだけで済む手法)
これはもしかしてこれに関してのレギュレーションが改定されたのだろうか?

車体を横から見て、エンジンカウルの形状は、最低面積規定を満たす丁度の三角形の薄板とされている。
このフィンの側方には、熱気の排出穴が縦に渡って開いているが、
現在のままの形状だと、リヤウイングへ向かう気流を乱す可能性も考えられ、今後修正されるかもしれない。
冷却が楽な高速サーキットでは開口を狭く、冷却に厳しい低速サーキットでは開口を広くすると想像できる。



現在入手できている写真からは、排気管の出口の位置はよく判らない。
車体を上から見た写真から、上方排気ではない事は判る。
恐らくは排気管の出口があるであろうコークパネル側面付近は黒色にカラーリングされており、
吹きつけディフューザーの構造を隠そうとしているのは明らかだ。



リヤ・サスペンションは、プルロッドではなく、従来通りプッシュロッド形式とされている。
これは、吹きつけディフューザーに用いる高温の排気ガスの進路を妨げない様にする為かもしれないが、
フェラーリのニコラス・トンバジスは、F150のリヤサスは非常に革新的であるとコメントしており、
そのデバイスの構造上、プルロッド化できなかった可能性も考えられる。

現在入手できている写真からはトーコントロール・ロッドがよく確認できない。
「非常に革新的なリヤサス」とはこの辺りにも関係している可能性も思う。

尚、サス・ユニット(ダンパー、ピッチコントローラー、イナーター等)の配置は、
昨年のルノーの様に、ギヤボックス上面のかなり前方にあり、プッシュロッドは大胆に前方へ延ばしている。

これはリヤの重量物を前へ配置して、車体の慣性モーメントを軽減させる為と、
空力の為に、リヤ上面のボディを後方へかけて低く設計する為だが、
横から見て、ホイールは上下方向へストロークするのに対し、
その移動量をロッカーへ伝えるプッシュロッドは垂直とはかけ離れた斜めレイアウトとなっているので、
リヤサスの作動性は悪化している筈だ。だがそれ以上に空力効率がラップタイムに寄与するのであろう。



リヤウイング翼端板を観ると、今年から導入される可変フラップの回転軸の丸い膨らみが確認できる。
ただ、この形状は単なる丸の膨らみで、空気抵抗軽減の為に涙粒形状に後方へなだらかに細めながら延ばす処理はされていない。

しかしリヤウイング翼端板の形状は、全体を観ると細部まで凝った造りで、細かいエリアまで空力開発が進められていると想像できる。
フラップの中央の切り欠きの意味はまだ筆者には分からない。

近年では「ビームウィング」と呼ばれているリヤのロワ・ウイングは、
昨年はリヤ・クラッシャブル・ストラクチャーから左右へ生えただけの単純な物だったが、
今回のF150では、左右の端から端まで1枚のウイングとなり、
クラッシャブル・ストラクチャーはロワウイングの下を潜っている形状へ進化した。
…と云うか、昨年までの他チームに追いついたと云ったところか。
このロワウイングは、よく筆者が空力デザインで用いる様に、規制されていない中央部を逆V字型に盛り上げ、ダウンフォースを増している。

リヤ・ディフューザーの高さは、昨年までの「ステッププレーンから上方に 125mm 以内」から、
今季は「ステッププレーンから上方に 75mm 以内」とかなり低められたので、
少しでも多くの気流を車体底面から吸い出すべく、跳ね上げエリアをなるべく幅広くデザインしている。(最大 1000mm 以内)



F150の印象は、全体的な車体の基本構造は保守的で、リヤサスでは何か新しい事をやっている…と云う感じで、
開幕戦までに、またはそれ以降投入されるデバイスが効果的な物でないと、
つまりガラッと変わって観える程になっていないと、タイトル争いをするにはスピード不足のマシンとなるかもしれない様な感じがする。


シャシー・スペック
名称F150
総重量640kg (ドライバー込み)
モノコックカーボンファイバー&ハニカム・コンポジット
トランスミッション7速&リバース・シーケンシャル
セミオートマチック・クイックシフト
ギヤボックスフェラーリ製 縦置き
ブレーキブレンボ社製 カーボンファイバー・ディスク&パッド
サスペンショントーションバー・スプリング&多数の内部ユニット
ホイールBBS社製 13インチ(フロント&リヤ共)
エンジン・スペック
名称フェラーリ 056
排気量2398cc
重量95kg
型式V型8気筒・バンク角90度 (砂型鋳造アルミブロック)
ピストン径98mm
バルブ数一気筒あたり、吸気側2つ、排気側2つ
バルブ駆動圧搾空気スプリング式
燃料&オイルシェル

(このページのここまでの最終更新日:2011. 1.29土 Am10:39


今季のフェラーリのF1ニューマシンは発表当初、イタリア統一150周年を記念して「F150」と名付けられていたが、
その「F150」発表後日、アメリカのフォード社から、
フォードのベストセラー・ピックアップトラックの商標が「F-150」である為、
フェラーリに使わせないよう告訴するとのニュースを受け、
今季のフェラーリのマシン名を略さずに「Ferrari F150th Italia」とすると改められ、
フェラーリからフォードへ、マシンの名称問題についての返信書簡が送られたとの事。

(このページの最新更新日:2011. 2.12土

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