フェラーリ F2012   text by tw  (2012. 2.03金〜)


2012年 2月 3日(金)、フェラーリの2012年用マシン「F2012」が発表された。
この新車の概観は、F1-Gate.com 等を参照。

まず目に引かされるのがノーズ。今季の規定の範囲、そのままの形で現れた。
チームから事前に宣言されていた通り、速けりゃ見た目はどーでもいいコンセプトその物で、
ここまでそのコンセプトを徹底的に追及されると、もう清々しいものを感じてしまう気もするが、
真面目な話、カラーリングの工夫次第でもう少し何とかなるかもしれない。

重大な事は、モノコックの設計がシーズン中に変更が許されないレギュレーションとなっている為、
もしここで失敗すると1年間を棒に振ってしまう危険性だ。この件はmixiのF1コミュでも話に挙がっていたと思う。



それでは以下、車体の概観から筆者の私見を記す。
このマシンのコンセプトは、昨年までの冒険を恐れた保守的な面を捨て、攻撃的な程アグレッシブなエアロ・ダイナミクスだ。
規定の範囲を一杯に使って、ノーズとモノコック(のフットボックス)を高く位置させ、車体下方へとにかく多く空気を流し、
より優れたL/D(=空力効率)を得ようと、現代フォーミュラーマシンの開発主点の王道を走っている。

過去、ジョン・バーナードがフェラーリに在籍していた当時、1994年の開幕前に語っていた事は、(筆者の記憶が確かならば)
「シャーシの改良とは、結局のところ(最終的な)グリップを高める事なんだ。」とズバリ中核をコメントしていた。



尚、先月の11日に、フェラーリは元ブリヂストンのモータースポーツタイヤ開発ディレクター浜島裕英氏と契約した事を発表しており、
今季から浜島氏はフェラーリ・テクニカルディレクターのパット・フライの元で任務を努める。
ブリヂストンは1997年から2010年までF1にタイヤを供給し、その間、浜島氏はグランプリ現場指揮のリーダーで、
当時、ブリヂストンF1タイヤ開発技術の中核とも呼べる人物であった。
今季からフェラーリのピレリタイヤの使い方において非常に重要な仕事を行える筈だ。
(このページのここまでの最終更新日:2012. 2.03 Pm 7:30


まだリヤの写真を入手できていないが、このマシンの最大の特徴はおそらくフロント・エリアだ。それは段差ノーズの事ではない。
車体下方へ大量の気流を導く為に、モノコックのフットボックスは非常に高くされており、その結果、
前から見たフロント・サスの上下アームの角度が、強い「ハの字」となっている訳だが、そこで、何とプル・ロッドにしてしまった様なのだ。

例えばコーナリング中、前から見てタイヤのストローク方向と車体の受ける角度を考えれば、プッシュロッドが作動し易い角度に見える。
しかし、フロントの上下ウィッシュボーンをここまでハの字にしてしまうと、
ホイールのストローク方向(上昇すると共に外側へも広がってゆく)に対して、プッシュロッドでは車体へ浅い角度で少ない入力長となってしまう。
そこで、ストローク時のアーム(特にアッパーアーム)の軌跡だけを見れば、プルロッドでも作動しそうだ。
ハイノーズでのフロント・プルロッドは筆者も過去いくつも発案して来たが、ここまで大胆な形で実戦投入されるとは賞賛に価されるだろう。

(このページのここまでの最終更新日:2012. 2.03 Pm 8:10


それではF2012の各部詳細を観てゆこう。
まずノーズコーンは全体的に上下に薄く、モノコックとの取り付け部分の手前で、今季からの新規定に対応すべく上面に“段差”を設けてある。
そしてノーズ下から車体下方へ大量の気流を導くべく、モノコックは常に高くレイアウトし続けてある。

ここでポイントとなるのは新規定で、ノーズコーンの“上面が”リファレンスプレーンから上方に 550mm 以下でなければならない事だ。
ノーズ上面の高さが 550mm 以下と規定された以上、ノーズを高くするには、ノーズの下面の高さを上げるしかない。
よって、どうしても必然的に上下に薄いノーズコーンが出来上がる訳だ。(注: モノコック接続部辺りは550mmより高くても構わない。)



フロントウイングは、フラップは1枚だが、メインエレメントに1本、横方向へスリットが切られているので事実上3枚となっている。
特にフロントウイングに関しては昨年の終盤戦から2012年シーズンへ向けてのテストが行われていた様だし、
開幕戦には更にアップデートされた物が登場するだろう。

昨年同様フロントウイング・ステーは後方まで延ばし、フラップが禁止されているウイング中央の後流を整えている。

フロントサスはプルロッドとされた事から、概観よりも内部ユニットの構成が非常に興味深い訳だが、なかなか目にする事はできなさそうだ。



リヤビュー・ミラーの下方には水平フィンが装着されている。という事はフラットボトム規定上、
車体を上から見てみると、モノコック下部で気流を左右へ別けるセパレーターの気流進路を制御するボーダーフィンが確認できる。
このボーダーフィンはステップドフロアへの気流制御に重要な役割を果たすが、それと同時に、その上方へ何かのパーツ装着を可能とする。



サイドポッド手前の縦のベーンは上半分が間隙スリット型で、規定の範囲を有効に使っている様子だ。
微妙にカーブさせてあるなど凝った作りで、この周辺の開発努力の跡が窺える。
90年代以降、フラットボトム規定下でも、サイドポッドとその周辺はフォーミュラーマシンでは空力性能上、特に重要なエリアであり続けている。

サイドポッドの全高は高く、リヤウイングへの影響が大きい上面は、外側が高く、内側が低くされ、両者はなだらかなラインで繋げられている。
左右で高さを変えるサイドポッドの手法は、左右の高さの差が少ない程に、後部で合流させるデザインが容易となる。

サイドポッドのアンダーカットは、レッドブル等と比べると前方の位置で最大幅に達し、そしてこれもなだらかにコークパネルへと続いている。
コークパネルでは、狭く絞り込まれた下側と、外側へ比較的広がったままの上側と別けられている。
これは、ラジエーター・コアを通過した気流は運動エネルギーが低下し、この遅い流れをディフューザー上面へ触れさせたくない理由からだろう。

21世紀に入っても多くのシーズンでフェラーリの特徴的な部分は、
サイドポッドのラジエーター・エアインテークの外側へと、気流を左右へ別けるスペースがある事だ。
サイドポッド側面で気流を左右へ別け、その気流を絞る事で流速を増し、前輪が巻き起こす乱流を整流してリヤへ流すと云う、
90年代からの手法が今も僅かだが垣間見れる。



インダクションポッドのエンジン・エアインテークが三角形となっている理由は、
高いモノコックとした事から、おそらく視野を得る必要性からドライバーの頭部も高くなり、ヘルメットからの乱流を避ける為だろう。

リヤ・サスはようやくプルロッドとされたが、ロッドはレッドブルの様に前方へは伸ばしておらず、作動性は良好かもしれない。

さて、リヤエンドだが、ラジエーターを通過した空気を排出させる出口の大きさが、明らかに足りない。
開幕までに、ほとんどのチームがレッドブル型のギヤボックス上・大砲排気としてくる気もするが、果たして…?

(このページのここまでの最終更新日:2012. 2.04 Pm 7:33

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