フェラーリSF16-H   text by tw  (2016. 2.20土) [ English language ]

2016年 2月19日、フェラーリは2016年用マシン「SF16-H」を発表した。
この新車の概観は、F1通信 等を参照。以下、車体の概観から筆者の私見を記す。



昨年車との最大の違いは、フロントサスペンションがプッシュロッドへと戻り、ノーズが短くされた事だ。
プッシュロッドとプルロッドで、それ自体がサスペンション性能が高い低いという事は云えないが、
高いフットボックスとパッケージングするには、はやりプッシュロッドの方がより合うのではないだろうか。

ショートノーズは、レギュレーション通りにやるとこうなるという形だ。(2015年F1テクニカルレギュレーションのボディワーク範囲図ページ参照)
これにより車体下へ供給する気流量が増すので、最大ダウンフォース発生量が向上するだろう。

そして前から見てウィッシュボーンのハの字角度が穏やかになり、フロントロールセンターが低められた。
これによりコーナリングの限界速度が向上するかもしれない。

フロントウイングは、今年もフラップが外側へ後退し、ウイング上面の気流を明らかに前輪の外側へ流している。
フロントウイングの翼端板は、前から見て底面が、外側、内側と二重トンネル構造となっており、
ウイング下面の負圧が、ウイングの外側から吸い込む空気に対応している。
ウイング下には左右3枚づつのスプリッターが備え着けられ、空力処理に細かい配慮が見てとれる。

フロントウイングのカスケードは、内側の翼端板プラス上面に2枚づつスプリッターがあり、
これらは全て、車体外側へ向けて積極的にカーブさせている。
気流はスプリッターの角度に沿えず、スプリッターを乗り越え、巻き込んで渦流となるが、
全体として強く前輪の外側へ気流をこぼす事ができる。



サイドディフレクターはメインプラス子持ちの4枚タイプで、メインの方は間隙フラップ式だ。
間隙フラップは、エネルギーの強い高圧流を隙間から裏面へ流し込み、ディフレクター内側の気流の剥離を防止する。

サイドポッドの全高は高めで、という事は、フットボックス下のセパレーターからサイドポッドのアンダーカットへかけて
向かう流量が多くなり、車体下のシール性が高くなる。(これについては、サイドポッド/ポンツーンの空力効果ページ参照)
サイドポッドは比較的前方の位置からコークボトルの絞込みを開始しており、リヤが狭い事が窺える。

サイドポッド上面は、後方へ向けてなだらかに落とし込んでおり、
これはリヤウイングと連携して凹の曲面を作り出し、正圧のダウンフォースを得る事ができる。

昨年同様、サイドポッド両端は小さなバルジがあり、内部ではここまで衝撃吸収構造が伸びているのだろう。
バルジはこれくらいのサイズならば、大して空力に悪影響はないと思われる。

サイドポッド両端前側の四角い囲いのベーンは、前輪が巻き起こす乱流を整える役目があるが、
上側の水平ベーンは内側と外側で断面が異なる。
これはサイドポッド上縁が気流を上へ流す為に、ベーン内側は跳ね上げる形にする必要がある事と、
そして内側と外側ではベーンからサイドポッドまでの距離が異なる為の2点の理由がある。

サイドプロテクターは更新された規定によって、20mm高くなっている筈だ。
その横側には意欲的な数のシャークルーバーで排熱を促進している。

インダクションポッドには後傾したミニウイングを装着し、カメラが発生する空気抵抗の純損を防ぎ、空力活用している。
これは2004年のBARの様に、リヤウイングとセットで機能しているのだろう。

サイドポッド後部は、上面だけは一旦狭く絞ってから広がる形となった。
1994年のアロウズがこういったデザインであった記憶がある。
その下では、コークボトルを幅狭く絞り込んであり、これがリヤエンドの空力で非常に寄与する部分だ。

これらとパッケージされたリヤサスペンションアームは、(筆者がデザインしている際も、いつも位置関係が悩ましいが、)
SF16-Hは高いレベルでパッケージングされている様に見える。
ここは単純にカウルを低めればアッパーアームが飛び出し、リヤウイング下側の気流の邪魔になる可能性があるので、
カウルを後傾させ始める位置や角度、量などに様々な方法が考えられる。

トランスミッションは昨年同様、前進8速と後退1つのギヤとなっている筈だ。

昨年同様、リヤウイング翼端板には、前側のスリットを左右2本づつ切ってある
これはおそらく境界層の発生を軽減し、ウイング下面の気流を活性化させているのではないだろうか。

翼端板の後部外側には左右3枚づつの上向きのフィンを備え、
どんなに細かくてもゲインを得られるエリアは得ようという姿勢が窺える。



昨(2015)年コンストラクターズ2位となったフェラーリだが、速過ぎるメルセデスの打倒を目標に、
SF16-Hは意欲的に開発を行った跡が窺えて好感が持てるマシンだ。
次の段階のステップを踏んでいるのは間違いないだろうし、同様にパワーユニットも進歩しているのではないだろうか?

ドライバーは引き続き、セバスチャン・ヴェッテルとキミ・ライコネンのワールドチャンピオンコンビだ。

尚、今(2016)年からジョック・クリアがレースエンジニアリングの監督として加入している。
彼は2014年までメルセデスでルイス・ハミルトンのパフォーマンスエンジニアを務めていたが、
メルセデスを離脱し、これまで1年間のガーデニング休暇を過ごしていた。

(このページのここまでの最新更新日:2016. 2.20

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