2005年12月15日、レッドブルの2006年用マシン「RB2」の初テスト走行がシルバーストン・サーキットで行われた。
ステアリングを握ったのは、チーム在籍2年目となるエースドライバーのD.クルサードで、
周回数は少なかった模様だが、チームは新車のシステムチェックを行った。
このテストには、エンジンを供給するフェラーリからのエンジニアも参加した。
このRB2のポイントは、
・2006年レギュレーションへ対する車体のパッケージレイアウトと、
・エンジンがこれまでのコスワース製 3.0リッター V10から、フェラーリ製 2.4リッター V8へと換えられた事である。
概観から判る空力面で最も大きな変化は、2005年のザウバーやマクラーレンを模範して、サイドポッド下部をかなり狭めた事。
この様なデザインとする目的は、
(1) 低圧の車体下面が、車体の横側から空気を吸い込んでしまう事の抑制や、
(2) サイドポッド側面からサイドディフューザー上面へ向かう気流の流速をなるべく低下させない様にする為 等が考えられる。
(1) 現代のレーシングカーでは、空気の流れの特性を利用して、車体底面と路面との間に強力な吸引力を発生させる事で、車体に強大なダウンフォースを加えており、これを「グランドエフェクト」や、「ベンチュリー効果」と呼ぶ。
この際に、気流は、車体の前から後方へと真っ直ぐ通り抜ける事が理想とされている様で、車体の横側から車体下面へ空気が浸入するとダウンフォースが減少してしまう。
(2) サイドディフューザー上面の流速を高めると、その高速流につられる様にして(=粘性の働きで)、車体下面からの気流の引き抜きを促進する効果がある。
2006年からの規定で、エンジンがこれまでの3.0リッターV型10気筒から 2.4リッターV型8気筒となり、エンジンの前後長が短くなった。
各チームとも、それをどの様にパッケージ・レイアウトするかが車体性能における重要ポイントとなる。
それは、車体の前後重心位置、空力ダウンフォースの発生中心位置、モノコック・エンジン・ギアボックス・ウエイトの搭載位置、ホイールベース値、等である。
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そしてこれは写真で観た筆者の印象なのであまりあてにならないかもしれないが、RB2は、コクピットを後退させているかもしれない。
(左図: 筆者による気流予想イメージ。
車体の左半分は、前輪を規定一杯まで後退させた場合。
車体の右半分は、前輪車軸をモノコック前端まで前進させた場合。
黄緑の枠で囲った黄色の区域は、ボディワークの設置が許される部分。)
現在のF1の車輌規定上、モノコックの位置に対して前輪を前進させた方が、前輪と車体との空間が大きくなり、空力面で有利となると思われる。
空力面で、前輪と車体との距離を大きくする事の最大のメリットは、前輪の回転で巻き起こされる乱流が、車体底面の気流へ及ぼす悪影響を軽減できる事であると思われる。
そして、前輪とサイドポッドとの間の空間が大きければ、フロント区間での気流の抜けも良くなる効果があると思われる。
現代のF1では、前輪の幅が広い割りにトレッド(左右のタイヤの距離)が接近している事から、この傾向が大きい筈である。
そして、サイド・ディフレクターの設置可能な位置は、車輌規定上、前輪の位置から決められており、モノコックの位置に対して前輪を前進させた方が、サイド・ディフレクターのデザイン自由度が大きくなる。 |
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サスペンションのプッシュロッドは、角度が立っている方が作動性に優れる。
RB2はプッシュロッドの角度を立てる為に、モノコック前部の上面を少し膨らませている。
この事から、ロッカーを立体的な構造として、ピッチダンパーを下側へマウントしている事が想像できる。(左図)
尚、2005年のRB1ではこの膨らみは無くしていたが、その前のマシン(2004年ジャガーR5)では同様の膨らみがあった。
車体を正面から見た時のアッパーアームの角度は、ジャガーチーム時代から引き続いて、車体側からタイヤ側へ「ハの字」に下がる角度となっているが、その下がり角が小さくなった模様。
この角度は、ロールセンター高や、ストローク時のキャンバー変化に影響する。
フロントサスは、2005年のルノーに倣ってVキールとなった。
この形式は、サスペンションのジオメトリーと空力デザインを程良いところで妥協できる、ベターなアイディアかもしれない。
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前側アッパーアームの前後長はとても大きいが、これはフロントウイングが跳ね上げる気流の道筋を制御する役目かもしれない。
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尚、テクニカル・レギュレーションの 10.3.1 により、サスアーム断面の前後長と高さの比率は 3.5:1以内で 断面形状は上下対称でなければならないと定められている。(ただしアームの両端部分では、そのアームの全長の25%以内の長さでこれは適用されない。)
しかしこの規定には、アームを前後に分割して前後長を延ばせるという抜け道がある。 |
2005年12月現在のRB2の空力形状は、全体的に旧車RB1と共通部分が多い。
空力開発は随時進められ、そして開幕前に最新状態にアップデートされるものと思われる。
・以下は、旧車との比較をいくつか記述する。
サイドポッド上のミニウイングは、マクラーレンに倣って、ウイング上側には翼端板が無いタイプ。
サイドポッドから生えるフェアリングフィンは、最下部がやや高い位置となった。
これはサイドポッド側面下部を狭めた事からデザインがあらためられたものと思われる。
フェアリングフィンの後部は、昨年同様レッドブル独自の形状で、
後輪側面のフェンスと、後輪手前の縦のベーンが一体となっている。
そして後輪の手前下部には、背の低いベーンも設置されている。
これらのベーンは、後輪前部に発生する高圧を軽減したり、
コークボトルからサイド・ディフューザーへの流れを整える役割がある。
サイドプロテクターの上面は、後方へ急に落とし込まれており、規定を満たす為のフィンが大きい。
この落とし込みは、車体上面の圧力と、リヤウイングへの流れ方に影響する。
ロープを通す穴は、昨年同様、モノコックに穴が貫通している。
エンジンがフェラーリ製となった事もあり、排気管の出口は車体中央へ寄せられた。
リヤウイングは、ロワウイングの前後方向のカーブがあらためられて、穏やかなカーブとなった。
ロワウイングの高さが規定で75mm以内に制限されているので、工夫を凝らすとなると前後方向へカーブさせる事となる。
リヤウイングの翼端板は流行通りに、上面の高圧を外側へ逃がすスリットを開けたタイプ。
(このページの最新更新日:2005/12/26)
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