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フォース インディア VJM10   text & illustration by tw (2017. 2.23木〜)

2017年 2月22日、フォース インディアの2017年用マシン「VJM10」が発表された。
マシンの写真は、F1通信 等を参照。 それでは以下、車体の概観から筆者の私見を記す。



ノーズは、昨年まで最大の特徴であった「鼻の穴ノーズ」を今回廃止したが、しかしまた違う形で「鼻の穴ノーズ」となっている様だ。
それはノーズ先端の中央に、前後にかなり長いコブが設けられ、その左右には底面プレートがある。
これにより事実上の“鼻の穴”が形成されており、ここへ入った気流がおそらくノーズ側面下部へ排出する様な、何らかの仕掛けがある。
これはより多くの気流量を車体下方へ供給する事が狙いだ。それによりL/Dに優れた車体底面で発生するダウンフォースが増加する。

フロントウイングのフラップは風変わりで、左右の上部がVの字に窪んでいる区間がある。
これはVの字を境に、その内側と外側で、前輪へ衝突する気流の具合を調整しているのかもしれない。

フロントサスペンションユニットは化粧カウルで覆われており、ノーズ上面は段差つきとなった。
不恰好だが、これにより前から見たプッシュロッドの角度を立てる事ができ、サスの作動・応答性に優れている。
「新・鼻の穴ノーズ」とした都合からか、Sダクトのノーズホールは見当たらない。

フロントサスペンションの上下ウィッシュボーンの間隔は短めで、サスの剛性は不利だが空力に優れている。
ロワアーム位置を高めると、下方の気流をより綺麗にできるので、前述のL/Dに優れた車体底面で発生するダウンフォースに寄与する。

前輪のブレーキダクトは、タイヤとアップライトカバーの隙間の、この縦長の狭い穴だけなのだろうか?

サイドディフレクターは少なくとも5つからなる間隙タイプで、ディフレクター内側の剥離を防止している。

昨日発表されたルノー程ではないが、サイドポッドのアンダープレート前端の厚みが大きい。
ここはモノコック下部のセパレーターが左右へ別けた気流を、アンダープレート底面へ流し込んでいる様にも見えるが、果たして?

サイドポッドのポッドウイングが上方を覆う面積は広めだが、側面は短めに切られて、内側へ折り返している。
つまりポッドウイングは下方のアンダープレートと接続してはいない。



VJM10で「新・鼻の穴ノーズ」に次いで特徴的なのが、サイドプロテクターとインダクションポッド下部のパッケージングだ。
サイドプロテクターは昨年のレッドブルの形状をよりアグレッシブに押し進めた形で、
まずヘッドレストとサイドプロテクターの間に「溝」があり、ここに空気の進路を設け、ヘルメットの左右を気流が通過する。
そしてサイドプロテクター後部が横から見ると丸みをおびた絶壁となっており、
絶壁の後部で、上から見るとヘッドレスト左右からの気流とプロテクター外側の気流とが合流する。
これによりそれなりの剥離量や乱流は発生するだろうが、従来の様にサイドプロテクター上面の流速が高い事に起因するリフトの発生を抑制できる。

この様な形とする為に、ヘルメット後部とヘッドレストが接触する面積が非常に少なくなっている。
その為、ヘルメット後部の空力付属パーツも、後部を絞った特製の物が使用されるだろう。

この形式の対価として、インダクションポッド下部全体を、意図的に広めた形状とする必要があった。
もしここの幅が狭いと、サイドプロテクター後部で発生した乱流を絞れずにリヤウイングへの気流が整えられないのだ。

もう一つの対価として、ヘルメットとサイドプロテクター内側の干渉抵抗はかなり大きいだろうが、
しかしコーナリング時にドライバーが首を傾ける事によって、“気流進路のスイッチ”が実現するかもしれない。
ヘルメットがサイドプロテクターに接触する事で、片方の溝の気流供給をストップし、もう片方の溝の気流量を増す事ができそうだ。

インダクションポッドのエアインテーク開口面積は小さめで、特に秘密は無さそうだ。

エンジンカバーはシャークフィンの面積が広いが、
前述の絶壁と溝の空力構造から、シャークフィンがエンジンカウルの根元までないと気流が不安定になるのかもしれない。

昨年流行した、後輪手前のアンダーパネルのスリットは切られていない。
リヤサスペンションの上下ウィッシュボーンは高く、プルロッド式のスタンダードな形だ。

今年導入されたテクニカルレギュレーションは大幅な変化があったが、
こういう変化の年ほど、レーシングマシンは創意工夫に満ちてくる傾向がある。非常に面白い年だ!

ドライバーは、セルジオ・ペレスとエステバン・オコンが勤める。

(このページのここまでの最終更新日:2017. 2.23


(5/22更新)

VJM10の最も特徴的なエリアは“鼻の穴ノーズ”だが、まだ詳細な形状が判明していない。
そこで本サイトで触れるべく、VJM10で次に特徴的なエリアは、サイドプロテクターとヘッドレストの間の“深い溝”である。
これが何を意味しているかと云うと、雑なイラストで申し訳ないが、以下、記述する。





ここでサイドプロテクター上面の流れはあまり重要ではない。
空力コンセプトの中核なのは「A」のインダクションポッド側面をつたう流路で、
ここへはサイドプロテクター正面に当たった空気が横へ流れ、
サイドプロテクター内側とヘルメットの間を通過して、ここで気流が上下動せずに後方へ向かうのがポイントだ。

ここでは、気流が上下動しないという事は、その成分がリフトもダウンフォースも生まない事を意味する。

この様な空力デザインとすると、サイドプロテクター内側とヘルメットの間を通るのに干渉抵抗は発生してしまうが、
従来の様にサイドプロテクター上面で気流が絞られてネガティブなリフトが発生するのを抑制する効果がある。

サイドプロテクターとヘッドレストの間に溝を設ける空力デザインは、筆者は1996年のマクラーレンが初であると記憶しているが、
ここまで徹底的にサイドプロテクター上面のリフトを防ごうという設計は、VJM10の以前には無かった様に思う。

ただしVJM10のインダクションポッド下端は、やや幅が広い。
サイドプロテクターとヘッドレストの間の溝を通過した気流は乱れがちになるので、
インダクションポッド下端を幅広としてやって気流を絞る事で、リヤウイングへ向かう気流を整流す必要がある為にこうされている。
幅広のインダクションポッド下端とすればそれだけ空気抵抗が増す訳で、
この“深い溝”の手法が単純にイコール・アドバンテージにならない理由がここにある。
それでも、フォースインディアの空力開発陣はここにあるネガティブリフトドラッグの減少に努めている。


「B」はワークスのメルセデスにもある、謎の穴だ。おそらく排熱をしている。
しかし穴が後方へ水平に開けるのではなく、斜め上方に開けてあるのが何を意味するのか?
もしかすると穴の後端のエッジで排熱に小さな渦を巻かせ、後流の空力に利用しているのかもしれないが、果たして?

(このページのここまでの最終更新日:2017. 5.22月
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