マクラーレン MP4/19B  text & illustration by tw (2004. 6. 2 〜 6. 6)

2004年6月1日にマクラーレンMP4-19のBバージョン車がシェイクダウンされた。
このBバージョンの開発目的は、信頼性の改善が最大の課題であったと想像されるが、
このマシンの概観から空力開発も十分に行われていた事が判る。


フロント・ウイングは今季の第2戦マレーシアGPから使用しているタイプで、
正面視でウイングを大きく下方へ湾曲させて中央部を路面へ近づけている。
ウイング下と路面の関係(負圧の強さと空間の大きさ)が空力特性のポイントとなる。

(左側のMP4-19は、2003年11月末の登場当初のフロント・ウイングの仕様。この図は圧力分布のイメージ。)



メイン・ウイング両端の部分は地上高が高くフラップの角度も寝ているので、
フロント・ウイングのダウンフォース発生具合は、両端部分では車高変化の影響を受けにくく、
低くした中央部で多くのダウンフォース量を稼ぐ仕組みとなっている。

フロント・ウイング下面の流れは、ウイング両端の大きい空間から低い中央部の後方へ引き寄せられ、
そしてウイング中央下側の気流は、大きく傾斜したスラント・ノーズ下面に吸い込まれ、
ツインキールとディフレクターに誘導されながら後方へ流れる。
これは全体的に、前輪下部へ向かう気流が車体中央の方向へ除ける流れの形となる。

フロント・ウイング翼端板は、メイン・ウイングから下へ向けては斜めに広がった形状。
考えられる可能性として、ロール時の気流変化の影響が穏やかになるかもしれない。



翼端板の下端のトンネルは小さく、空力的に敏感にならないかやや疑問。

フロントウイング・ステーは、中央を大きく落とすウイング形状とした事から強度を上げる必要があり、
MP4-19初期状態よりも若干左右に広げられている。
ステーが左右へ広がった事で、ウイング上面の正圧を大気へ作用させる区間が少し減少したと思われる。

メイン・ウイングは上から見ると、規定で許されている中央部(車体中心線から左右へ200mmづつの計400mm幅以内)を前進させてある。

ノーズ下面の中央には、ウイングのフラップ上面を吊る小さなステーがある。

ツインキールのフロントサスは、今回も前側ロワアームの間にテンションロッドを装着している。

ノーズ上のピトー管は後流に配慮したカバー付き。


サイドポッドは2003年からのフェラーリと同様に、側面の下部をかなり大きく斜めに絞り込んでいるが、
今年のフェラーリと決定的に異なるのは、モノコック下部のセパレーターから左右へ分けた気流を、
フェラーリはサイドポッド側面へと続ける形状としているのに対し、
MP4-19Bはラジエーター・インテーク内へと向かわせる形状とした点である。
これは気流を車体下面へどの様に向かわせるかという、空力デザインの重要な部分である。

絞り込み部分の下面プレートは、フェラーリと比較して薄い。


サイドポッド上のミニ・ウイングは、間隙フラップ式で大きめのウイングとなった。
このミニ・ウイングの下側の空間は、サイドポッド上部のアウトレット・トレイから排出される熱気の通路となっており、
従来のMP4-19よりもミニ・ウイングを大きくする事で、熱気の吸い出しを多くしている。

熱気はラジエーター・コアを通過して速度が低下しているので、
角度を大きくしたミニ・ウイング下面をストールさせない為に間隙フラップ式としたと思われる。

ミニ・ウイングのステーの根元には線が見えるので、風洞の成果に細めに対応できる様、簡単に交換できる作りとなっている可能性がある。


サイド・フェアリングの装着位置は高め。
後輪周りの流れ方と関係するフェアリングの両端は、ウイリアムズ同様にRをつけて気流を迎えている。

サイドポッド側のフェアリング後端の高さよりも、リヤサスのアッパーアームは上側に位置している。

フェアリングから続く後輪側面のフェンスは、後輪回りの気流の制御の為の物だが、
フェンス面積を必要最小限に抑えて、フェンスと後輪との干渉抵抗をなるべく少なく済ませようとしている。
フェンスの上端は、丸く斜めに降ろす、フェラーリやBARと同じく規定一杯までは使わない形状。


コークパネル・カウルの後端は、後輪前端よりも手前で終了している。
サイドポッドの外側と内側の気流が、整った状態で後方へ上手く流れてくれるのならば、カウリングは短く済ませた方が抵抗が少なそうである。

今回のMP4-19Bから、フェラーリ同様にエンジンからギアボックスケース側面にかけて、空気流を考慮したカウリングを施した様なので、
コークパネルは短くても乱さずに上手く後方ヘ流せる様になったと思われる。


フェラーリやルノー同様に、エンジンカウルとサイドプロテクターとの間の溝が無くなった。

そしてこれもフェラーリの真似と言われても仕方がない処理で、
エンジンカウルと排気チムニーの間に、小さなアウトレットが開けてある。
但し、マクラーレンはサイドプロテクターの後方のデザインがフェラーリとは異なるので、フェラーリとはその周辺の流れが異なる。

昨年の終盤から引き続き 排気チムニーは大型で、冷却事情は苦しそうである。
その一方、チムニーの幅がある事から、排気管は断面を排気抵抗の少ない円にできている。

モノコックは、既述のサイドプロテクターの溝が違う事や、
クラッシュテストに通過という話題が出ている事からも新設計の物と思われる。
モノコック後端のエンジンカウルの線は、微妙で確認し辛いが、従来のMP4-19よりも垂直に近くなっているかもしれない。


インダクションポッドのカウルは、ルノーの様に上側を後方へ延ばした処理となった。
この部分はリヤウイングへ向かう気流の安定性に影響すると思われる。
このカウル後端は、後輪車軸位置で切り落とさずに、従来通りテールランプの位置まで延ばしてある。

カウル面積の割りにマクラーレンの場合は描かれたロゴは大きくなく、ロゴ面積確保の新レギュはあまり生かされていない。


リヤサスは大きく変更された模様。
従来ではアッパーアームの後側は、ギアボックス側への取り付け位置が高く、車体中心近くに有ったが、
今回のMP4-19Bでは、アッパーアームの後側は、
プッシュロッド・ロッカーを収めるカウルの膨らみの後部へと進入して取り付けられている。

これでリヤのロールセンターは低められ、フロントのロールセンターはあまり変わっている様には見えないので、
前後ロール軸が変更された事になる。


センターディフューザーは、従来はリヤの下段ウイングと一体型だったが、MP4-19Bでは別体となった。
2002年の中盤から一体型としていたフェラーリも、今年は別体へと変更している。

テールランプ後端の上側のガーニーの装着は継続している。
ジャッキアップポイントは従来通りで、ステーレスとはなっていない。


リヤウイング上段の、間隙フラップをしならせない為のステーは開幕戦から使用しているタイプで、
ベーシックな中央1本式ではなく、間隔を離して2本で固定するタイプ。
今年の序盤戦にBARやウイリアムズ等が装着したスプリッターの効果が少しは有るのだろうか?

リヤ・ウイングの翼端板は緩やかに湾曲したタイプで、
上段のメイン・ウイング部分の幅を規定一杯の1000mmよりも少し狭くし、
翼端板上端の幅は規定一杯まで広げている。

テスト走行ではリヤ・ウイングは、両端を持ち上げた物とストレートタイプと両方をテストしていた。

(このページの最新更新日:2004. 6. 6
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