2010年の開幕戦からマクラーレンは「Fダクト」というリヤウイング可変空力システムを実戦投入した。
このシステムは翌2011年からテクニカル・レギュレーションで禁止されたが、
禁止されたエリアはリヤウイングに限定したもので、フロントウイングに応用される事は考慮されていなかった。
そこで2012年シーズン開幕戦から、メルセデス・チームは「ダブルDRS」と呼ばれる空力デバイスを実戦投入した。
これはフロントウイングにFダクトを備えてあり、リヤウイングのDRS(=ドラッグ・リダクション・システム=可変式・空気抵抗削減装置)と連動して作動する物だ。
この「ダブルDRS」の仕組みを理解する前に、あらためて「Fダクト」の仕組みを解る範囲で再確認しておこう。
(上図) まずこれがFダクト・オフの状態のFダクトウイング。
空力的に普通のウイングとほとんど何も変わらず、ダウンフォースを発生する。
普通のウイングと異なる箇所は、
メインエレメントの構造が、Fダクトのエア通路となる中空部分がある事と、
ウイング下面のほぼ全域で、横方向に1.5ミリ程のスリットが開いている事だ。
このオフの状態が使用されるのは、ダウンフォースが欲しい時で、
ブレーキング時、コーナリング時、低速加速時(=ホイルスピンが発生する3速ギアあたりまで)だ。
空力的には、ダウンフォースを生み出した対価として誘導抵抗が発生し、これが大きな空気抵抗となる。
赤色の縦線で示したのが、誘導した高さ。
(その“排出するエア”をどこから取り入れて導くかは、そのマシンにより異なる。
メルセデスの場合は、リヤウイングの翼端板に配管を通している。)
元々のこのウイング設計が、ウイング下面の気流が剥離させないギリギリの状態としてあるので、
少しの“気流の乱し”を与える事で、ウイング下面の気流を意図的に剥離させる事ができる。
この剥離した状態を、ストールと呼ぶ。
これでウイング下面の気流が剥離させた事で、気流が上方へ向かわなくなり、誘導抵抗が減少する。
このFダクト・オンの状態を使用するのは、ダウンフォースは要らず、空気抵抗を減らしたい時で、
3速ギア以上のスロットル全開区間で使用されていたと考えられる。
オンの状態(左図)の時、フラップの後方では、
ストールにより発生したウエイクを引きずってしまっているが、
それでも誘導抵抗を減少させた方が、全体的な結果として空気抵抗を少なくできる。これがFダクトの仕組みだと考えられる。