マクラーレン MCL32 text by tw (2017. 2.24金〜)
まず、マシン名称が従来の「MP4」シリーズでなく、新たに「MCL32」とされた。
1980年代から続いた名称は「マクラーレン プロジェクト 4」のシリーズだったが、
昨年ロン・デニスがマクラーレンのCEOを解任され、2017年からは新たなマクラーレンと云う事になるのだろう。
MCL32開発のテクニカルディレクターはティム・ゴスが務めた。
2017年 2月24日、マクラーレンは2017年用マシン「MCL32」を発表した。
「MP4-32」の写真は F1通信 等を参照。以下、概観から筆者の私見を記す。
ただ、マシン性能がパワーユニット頼りになるこのコンセプトを最終的に決定したのは主体であるマクラーレンである筈で、
もし新型パワーユニットが期待外れだったら全てが終わりになってしまうリスキーな選択をマクラーレンはした事になる。
フロントウイング上には、カスケード以外に縦のベーンがないのでまだ開発の余地があるだろう。
ウイング下のスプリッターは、他チームと同じストレートな3枚構成。
フロントウイングステーは前後に長く4枚の間隙構造で、内側へ内側へとエネルギーの強い流れを導こうとしている。
これはノーズ下の気流の運動エネルギーを高め、車体下方へより強い気流を供給する狙いだ。
ノーズにはSダクトのノーズホールも継続して採用し、ノーズ下の気流を活性化させている。
光の反射具合から、ノーズ上面は気流を若干左右へ別ける形状に見える。
ノーズ上面のピトー菅は1本で、フロントサスユニットの後ろ側に配置してある。
フロントサスペンションのプッシュロッド車体側取り付け位置は、ノーズ上面ギリギリまで高く、
この事から、サードダンパーであるピッチコントローラーは立体ロッカーの下側に取り付けられている可能性がある。
フロントサス・アッパーアームの、前輪側取り付け位置はまだ上方へ詰める余地が残されており、
限界までハイマウント・ウィッシュボーンとしたメルセデスとは対照的で、MCL32のここは攻めきれていない感は拭えない。
前輪のブレーキダクトは2段に分かれているが、現時点でその機能は不明だ。
今年の新テクニカルレギュレーション下で流行している、ポッドウイング手前の“垂直S字ポッドウイング”は控えめなサイズだ。
空力性能を貧欲に求めるなら、もっと大きなサイズの設計になりそうなものだが、果たして…?
ポッドウイング本体はサイドポッドの上へ少ししか覆っておらず、干渉抵抗は少ない。
それと併用して縦の小型ベーンで意図的な渦流を発生させ、サイドポッドのリフトを軽減している。
サイドポッド上面のサイドクラッシャブルストラクチャーの収め方は、
もしかするとインテーク内部で肉厚を下方へ盛っているのかもしれない。
そしてここが注目ポイントなのだが、サイドポッド側面下部が狭くされた。
今年の新テクニカルレギュレーションによりアンダープレートが広くなったが、
サイドポッド側面の気流を速くして車体下面とのシール性を高めるには、
広いアンダープレートではサイドポッド側面下部は規定内で最も広くした方が効果的だと筆者は考えるのだが、
ここを狭くするか広くするかはまだ意見が分かれるところなのだろうか?
サイドポッドのエアインテーク位置は内側寄りで、サイドポッド外側の気流を絞っているが、ここはあまり空力に寄与しない様だ。
欲を言えば、前から見てVの字のサイドポッドとしてでも、インテークは上下に薄く幅広と出来なかったものだろうか?
その方がサイドポッド側面下部の流速は上がり、車体底面の空力に寄与するのだが…。
インダクションポッドは現時点の新車の中で最もスリムな部類で、
これがエンジン必要吸気量の低い事を示しているのでなければ良いのだが…。
シャークフィンは面積が広い。
リヤサスペンションでユニークなのは、バネ下側プルロッドの取り付け位置が、車体内寄りにある事だ。
これでロッドの作動角度は良好になるが、何の工夫もないのならばアッパーアームの剛性が損なわれる。
リヤウイング翼端板は縦のスリットが4本程切られ、前側の湾曲部と、縦にストレートな後部とを連結する、新しいデザインだ。
リヤウイングステーは1本で、スワンネックに見える。排気管の所で逆Uの字の2本に別れる形状。
MCL32は内部通風抵抗軽減コンセプト以外に闘う為の武器が感じられず、正直、空力付加物が簡素過ぎて開発状況が不安になるマシンだ。
パワーユニットだけでなく、勿論シャーシ側も開発をリードするつもりで頑張らなければならない。
大口のメインスポンサーも不在のままの様だが、マクラーレンに十分な予算はあるのだろうか?
予算がMCL32の空力付加物が少ない理由だったとしたら競争力はお察しとなってしまうが、果たして…?
ドライバーはフェルナンド・アロンソと、新加入のストフェル・バンドーンが勤める。
マクラーレン MCL32 仕様 | |
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質量 | 728kg(ドライバー込み。燃料は空の状態で。) |
燃料タンク容量 | 105kg |
電子機器 | マクラーレン アプライド テクノロジーズ製 (シャシー制御、パワーユニット制御、オルタネーター、センサー、テレメトリーシステム) |
無線機器 | ケンウッド製 |
ステアリング | パワーステアリング |
ブレーキ | アケボノ製ブレーキキャリパー&マスターシリンダー。リヤのみブレーキ バイ ワイヤ |
タイヤ | ピレリ製 |
ホイール | エンケイ製 |
ホンダ RA617H 仕様 | |
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最小質量 | 145kg |
内燃エンジン排気量 | 1.6リッター |
気筒数 | 6 |
バルブ数 | 1気筒あたり4バルブ |
バンク角 | 90度 |
最大回転数 | 1万5000 rpm |
最大燃料流量 | 100kg/時 |
燃料噴射方式 | 直噴 (1シリンダーあたり1インジェクション 最大500 bar) |
過給機 | 同軸単段コンプレッサー タービン |
燃料&潤滑油 | BPカストロール製 |
MGU-K 仕様 | MGU-H 仕様 | |
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最大回転数 | 5万0000 rpm | 12万5000 rpm |
最大出力 | 120 kW | 制限なし |
最大回生量 | 1周あたり2MJ | 制限なし |
最大放出量 | 1周あたり4MJ | 制限なし |
トランスミッション 仕様 | |
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ギヤボックス | 縦置きカーボンファイバーコンポジット製ケーシング |
ギヤ | 前進 8速 + リバース 1速 |
ギヤ操作 | 電動油圧式シームレスシフト |
デファレンシャル | 遊星ギヤ式 多板リミテッドスリップデフ |
潤滑油 | BPカストロール製 |
F1通信でMCL32の写真が追加された。
その中でも注目なのが、サイドディフレクターの立体形状が判る写真と、車体全体を上から見た写真だ。
3D形状のサイドディフレクターは下部が狭く、上部がモノコックから離れており、ターニングベーン効果で大量に車体下方へ気流を供給している。
上から見た写真では、サイドディフレクターから後方へ伸びる、2枚づつの全く新しい形状のボーダープレートが見える。
前後方向へ長く伸びるボーダープレートは新しいアイディアだ。
これはディフレクターで大量の気流を下方へ転換した事から、
前後に長いボーダープレートで気流の上下動を安定させてからアンダーパネルへ向かわせようという意図が見える。
この2つは空力性能に大きく寄与する重要な開発であり、
筆者が昨夜、このページの上部で書いていた内容よりも、MCL32の空力性能は期待できるかもしれない。
ただし今後、今年のトレンドになりそうなS字ポッドウイングの大型化などは要検討となるだろう。
そして他チームとは逆に、サイドポッド両端前部が前進する形状としている。
これはフラットボトム規定をクリヤしながら、サイドポッド前部下方のアンダーパネル内側に切れ込みを入れる為だろう。
ここに切れ込みを入れるメリットは何なのか筆者はまだ思い付いていないが、CFDや風洞で成果があったので採用されたのだろう。
尚、ノーズ横のカメラ取り付け方法も、メルセデスよりは積極的ではないが、間隙式となるスリットを入れてある。
サイドポッド上面前端のミニベーンが左右へ広がり、それぞれの位置が後退角を持って設置されている。
丁度、V時飛行をする鳥の群れの様な形だ。
Tウイングは2階建てとなり、左右の形状は横方向にUの字で、翼端流を綺麗にしている。
翼断面の方向は、上側エレメントがダウンフォース発生ウイングで、
下側エレメントがリヤウイングへの気流供給量を増す、下向きの流れとするタイプに見える。
フリー走行では、車体左リヤに気流進路を可視化する緑色の塗料を塗布し、空力デザインの効果を確認していた。
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