マクラーレン MCL33 text & illustration by tw (2018. 2.23金〜)
マクラーレンが初めてルノーのパワーユニットを積む今シーズン。
2018年 2月23日、マクラーレンは2018年用マシン「MCL33」を発表した。
「MCM33」の写真は F1-Gate.com 等を参照。以下、概観から筆者の私見を記す。
車体を観ると、昨年のメルセデスのハイマウントウィッシュボーンも、フェラーリのサイドポッド・リフト軽減インテークも採用していない。
ではマクラーレンの空力コンセプトのアイディンティティは何かと探してみると、
サイドポッドのアンダーカットが非常に深く、アンダープレートの両端に、前後に非常に長い2本づつのスリットが切られている。
この2つの要素はセットで機能するだろう。
もう少し詳しく述べれば、サイドポッド側面のアンダーカットの最大幅となる部分が後方寄りであり、この位置までサイドポッド側面の流速が増していく。
その気流を利用し、アンダーパネル下面が車体横側から吸い込んでしまう空気量を、長いスリットによって理想的な状態となる様にチューニングされている筈だ。
そしてもう一つ目に入るのは、各インテーク開口面積の合計が小さい事だ。
これでエンジン吸気とインタークーラーの冷却とハイブリッドシステム各エレメントの冷却をまかなうのだから、各インテークの充填効率が高い事が考えられる。
サイドディフレクターの底面プレートとアンダーパネル前縁のデザインは昨年車を踏襲している。
これが効果的なのか否かは、詳細の判る写真を入手できていないので判断を下せないが、少なくともCFDや風洞では良い数値を記録している筈だ。
マクラーレンはサイドポッド上面前部のリフトの軽減手法として、サイドポッド上面に背の低いベーンを多数装着し、
これで意図的に気流を乱して、高速の気流がサイドポッド上面前部を沿わない様にしてリフトを軽減させている。
これはフェラーリの手法と比較して"簡単過ぎる"処置だが、車輌の基幹部ではないので、シーズン中に何度もチューニングできるメリットがある。
まだ小さな写真が3枚あるだけなので今回はここまで。テスト走行の写真を待とう。
ドライバーはフェルナンド・アロンソとストフェル・バンドーンのコンビだ。
マクラーレンMCL33 スペック | |
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質量 | 733kg (ドライバー込み、燃料は含まず) |
重量配分 | フロント 45.4%:リヤ 46.4% |
モノコック | カーボンファイバーコンポジット製 |
シフトチェンジ | 電動油圧式セミオートマティック・シームレスシフト |
クラッチ | 電動油圧式カーボン製 多板クラッチ |
トランスミッション | 前進8速、後退1速 |
ギアボックス | カーボンファイバーコンポジット製 縦置き |
デファレンシャル | 遊星ギヤ式、多板リミテッド スリップ クラッチ デフ |
サスペンション | カーボンファイバー製ウィッシュボーン、トーションバースプリング |
電子機器 | マクラーレン アプライド テクノロジーズ社 |
ステアリング | ラック&ピニオン・電動油圧式パワーステアリング |
ブレーキ | アケボノ社 ブレーキキャリパー、マスターシリンダー、カーボン製ディスク&パッド (リヤ ブレーキ・バイ・ワイヤ) |
ホイール | エンケイ社 |
タイヤ | ピレリ社 P Zero |
無線機器 | ケンウッド社 |
冷却機器 | カルソニックカンセイ社 |
高度生産 | ストラタシス 3Dプリンティング&アディティブマニュファクチャリング |
塗装 | シッケンズ製品によるアクゾノーベル カー リフィニッシュ システム |
ルノー スポール R.E.18 | |
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質量 | 145kg |
排気量 | 1.6L |
気筒数 | 6 |
バンク角 | 90度 |
バルブ数 | 1気筒あたり4 |
最大回転数 | 15,000 rpm |
最大燃料流量 | 100kg/h (10,500 rpm) |
最大燃料搭載量 | 105kg |
燃料噴射方式 | 直噴 (1気筒あたり1インジェクター、最大500bar) |
過給機 | 同軸 単段 コンプレッサー&タービン |
エネルギー回生システム | |
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バッテリー | リチウム イオン (20〜25kg) 1周あたり最大 4MJ 貯蔵 |
MGU-K | |
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最大回転数 | 50,000 rpm |
最大出力 | 120 kW |
最大回生量 | 1周あたり 2MJ |
最大放出量 | 1周あたり 4MJ |
MGU-H | |
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最大回転数 | 125,000 rpm |
最大出力 | 無制限 |
最大回生量 | 無制限 |
最大放出量 | 無制限 |
更にそのチャネルは、ディフューザー上面で斜め外側へ広げ、より車体底面の気流を吸い出す事ができていそうだ。
この広げた幅のチャネルについては、車体を下から見た時にディフューザー底面で隠していれば合法になる様に思われる。
しかしこれは、もしかすると筆者だけ気付くのが遅れていて、現F1マシンでは常識な規定の抜け穴なのかもしれない。
今シーズンが開幕してしばらく過ぎたが、筆者は上記のディフューザーの抜け穴について確認できる写真をまだ入手できていない。
どうもMCL33のトリッキーなリヤエンドのパーツ構成の継ぎ目のラインから、筆者は形状について誤った解釈をしていて、ルールの抜け穴は存在しない感じがしてきた。
さて、今回の更新内容は、MCL33の空力性能(エアロダイナミクス)についてである。
今シーズン、マクラーレンはメディアのインタビューでも認めている通り、MCL33は明らかに空力面に深刻な問題を抱えている。
その問題とは、風洞と実走のデータが異なっており、期待された空力性能を実走で発揮できず、その原因が判らず、解決策が見つからないという事だ。
そんな状態なので、先日ポールリカール・サーキットで開催されたフランスGPでのマクラーレンの競争力は悲惨なものだった。
「フランスGP予選結果」
ポールポジション L.ハミルトン(メルセデス) 1分30秒029
16位 F.アロンソ(マクラーレン) 1分32秒976
18位 S.バンドーン(マクラーレン) 1分33秒162
ここで知っておいて頂きたいエピソードとして、少し昔話を綴る…。
前回ポールリカール・サーキットでF1GPを行ったのは1990年で、
当時このサーキットは全F1サーキットの中で最も路面がスムーズな事で有名であり、空力性能がラップタイム短縮に非常に寄与するコースであった。
そして、その1990年フランスGPの前戦は、その年のカレンダーで最も路面がバンピーなメキシコGPで、
車輌設計を過激な程に空力性能へ特化し過ぎた、レイトンハウス(マーチ)のマシンは全く空力性能を発揮できず、2台とも予選落ちとなった。
その責任を取って、空力デザイナーのアドリアン ニューウェイはレイトンハウスを去ったが、
次戦フランスGPでは、レイトンハウスは空力性能を十分に発揮でき、イワン・カペリ(レイトンハウス)は決勝でトップを快走し、
フェラーリのアラン・プロストと優勝争いをして、2位表彰台という結果であった。
昔話はここまでで、これ程に、ポールリカールは(90年当時と路面の仕様に大きな変更がなければ)空力性能が如実に現れるトラックなのだ。
そんなコースで、マクラーレンMCL33が今シーズン最も競争力を失っていた事を考えると、どれだけ彼等が空力面で苦しんでいるのかが判る。
それでは、具体的にマクラーレンMCL33のどこが原因で問題となっているのだろうか?
風洞で再現できないのは、車体がコーナリングしている状態での気流だ。ここが全ての問題ではないのだろうか。
もし、ストレート走行時でも風洞と実走のデータが異なるのならば、もう全てを最初から造り直さねばならないが、さすがに現代のF1でそこまでの事態にはなっていないだろう。
具体的な問題解決方法は、空力パッケージを昨年の最終仕様へと戻して、そこから空力開発をやり直すのが、結局は一番早いのかもしれない。
何故なら、現時点で、問題のエリアを特定すらできていないからだ。解るところまで戻る勇気も必要ではないだろうか。