マクラーレン MCL35

text & illustration by tw (2020. 2.14金)

今シーズンは、マクラーレンがルノー製のパワーユニットを積んで3シーズン目となる。
2020年 2月13日、マクラーレンは2020年用マシン「MCL35」を発表した。
「MCL35」の写真は F1通信 等を参照。 以下、概観から筆者の私見を記す。



フロントウイングはトレンド通り、アウトウォッシュ。
メインエレメントは横方向にスムーズな曲面を描き、底面の高い区間もあり、グランドエフェクトに固執するよりも全体の流れ方を重視している。
ウイング下面のスプリッターはレギュ通り、左右2枚づつ。

今年もノーズコーンは細く、モノコック先端を幅広くしてある。
昨年までのノーズ先端の複雑な構造は姿を消し、スッキリとした形状へ改められた。

フロントウイングステーはややハの字型で、しっかりとウイングを固定できていそうだ。
ノーズ下にはどうやらメルセデスの様なヒレが装着された様で、それはウイングステーから後方へ生えている。

ノーズ両脇には、逆ガルウイング式に支持したカメラを装着している。



フロントサスペンションは、メルセデスの様にアップライトにブラケットを用いて、アッパーアームのホイール側取り付け位置を高くしてある。
これにより、車体を前から見て、ウィッシュボーンのハの字の角度を弱める事が出来ている。

ステアリングロッドはロワアームとほぼ同じ高さにレイアウトされている模様。

ワイドなモノコック先端を利用してアッパーアームはその幅広の区間に取り付けられているが、
この場合、アッパーアームはストロークしてもホイール側ピボット位置は前後に移動しない。

ただしロワアームは、ロワの前側アームは、モノコックの狭い区間に取り付けられており、
ロワ後ろ側アームは、後方へテーパー状に広がるモノコックに取り付けられている可能性があり、
もしその場合は、バンプストロークでホイール側ピボットが僅かだが後退する成分がある。

この、「後退する成分がある」という言い方の理由は、ピボットの移動にはもう一つの要素がある為だ。
サスペンションを設計するにあたり、車体を横から見て、上下ウィッシュボーンの車体側取り付け位置は、ブレーキング時のアンチダイブ特性を持たせる為に角度が検討される。

(アンチダイブジオメトリーの概念図。理解し易くアッパーアームも前傾に描いたが、重心が高くなければアッパーアームは後傾でも構わない。)


簡単に述べると、横から見て(特にロワ)アームを前傾させればブレーキング時のアンチダイブが増す。
(この時、ホイール側ピボットはバンプストロークで前進する。)
しかしフットボックスを高くしている現代のF1車輌では、モノコック形状にそのまま合わせれば、ロワアームは取り付け強度上、後傾しがちな形となる。
その、上から見た時の移動量と、横から見た時の移動量の合計が実際のピボット移動量となるのだ。

ただし、現代のF1車輌は重心高が低い為、アンチダイブ特性を持たせるにあたりフロントロワアームの前傾後傾はあまり重要視されないのかもしれない(?)。



サイドディフレクターのエリアには、必須アイテムとなりつつあるブーメランベーンを装着している。

アンダーパネル両端のスリットというかフラップは4枚づつ。

サイドポッドのエアインテークは開口面積が小さめで、MCL35の冷却空気の充填効率は高そうだ。

サイドポッド下部の最大幅は規定いっぱいまでには使わず、少し幅狭となっている。
これは車体底面のシール性は低下すると思うが、サイドポッド部単体の空気抵抗を軽減する方向に作用しているかもしれない。

インダクションポッドのエアインテークは細かく4つに仕切られているので、それぞれ4つの用途があるのだろう。
これはカウルを外した状態で観られなければ、どういう吸気と冷却のパッケージとなっているかは想像するしかない。

リヤホイールの縁はギザギザというか半円の溝がたくさん掘ってあり、
これで意図的な細かい渦流を発生させ、ホイールから外側へ向ける気流を制御している。

ディフューザーのスプリッターには、細かい多段間隙デザインが施されている箇所がある。



2017年からのレギュレーションで、リヤウイングの翼端板は、上部が幅広で、下部は一旦カーブさせて幅狭とされた。
そのままの翼端板では、リヤウイング下面の低圧を路面へ作用させられる幅が狭くなってしまうが、

(翼端板に何の工夫も無い場合、ウイング下面の有効なエリアが狭くなる。)


MCL35も他チームの様に、リヤウイング下面の低圧を路面へ作用させるべく、
翼端板の斜めカーブの造形を最小限に留め、スリットを切ったりして対応している。

(垂直方向に障害物がなければ、ウイング下面の有効エリアが増す。)


MCL35は、新車発表の時点では、全体的に余計な空力構造物が無く、スッキリとした空力デザインとなっているが、
開幕までに細かな空力デバイスがいくつもテストされ、色々装着されると思われる。

ドライバーは引き続き、カルロス・サインツJr.と、ランド・ノリスのコンビ。


MCL35 スペック
最小質量746 kg (ドライバー含み、燃料含まず)
前後重量配分45.4%〜46.4%の間
燃料搭載量最大 110 kg
冷却システムマレリ社製の、チャージャークーラー、エンジンオイル、ERS
潤滑油カストロール社製
ブレーキアケボノ社製の、
マスターシリンダー、
キャリパー、カーボンディスク&パッド、
ブレーキ バイ ワイヤ制御システム
ホイールエンケイ社製

パワーユニット スペック
名称ルノー E-Tech 20
排気量1.6 リッター
気筒数6 気筒
バルブ数1気筒あたり4つ
バンク角90 度
最小質量145 kg
最大燃料流量100 kg /時 (10,500rpm)
最大回転数15,000 rpm
燃料噴射方式直噴 (1シリンダーあたり1噴射器、最大 500 bar)
過給機同軸単段コンプレッサー&タービン

エネルギー貯蔵装置
リチウムイオンバッテリー (20〜25 kg)1周あたり最大 4 MJ 貯蔵
MGU-K
最高回転数50,000 rpm
最大出力120 kW
最大回生量1周あたり 2 MJ
最大放出量1周あたり 4 MJ
MGU-H
最大回転数125,000 rpm
最大出力無制限
最大回生量無制限
最大放出量無制限

トランスミッション
ギアボックス縦置き カーボンファイバーコンポジット製ケース
シフトチェンジ電動油圧式シームレスシフト
ギア数前進 8 速、後退 1 速
デファレンシャル遊星ギヤ式、多板リミテッド スリップ クラッチ
クラッチ電動油圧制御カーボン製多板式

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