マクラーレン MCL35M

text by tw (2021. 2.16火)

今(2021)年のマクラーレンについて説明するにあたり前置きが必要だ。
今年のF1マシンは、昨(2020)年に猛威をふるったチャイナ ウイルスの影響によるコスト削減が必要とされた事から、
2021年のマシンは、基本的には昨(2020)年のマシンを流用しなければならないというルールが決められた。
しかしマクラーレンだけは、そのチャイナ ウイルスが漏れる前から、今(2021)シーズンのパワーユニットをルノーからメルセデスへチェンジする事が決まっていた。
(尚、2021年型のパワーユニットを使用するという事だ。)
パワーユニットを変更するにあたり、最低でもモノコックとギヤボックスは変更しなければならないし、
PUを制御する電気系統や、冷却系統もメルセデスの仕様に対応しなければならない。
この、「変更しなければならない」という部分をマクラーレンは良い方向へ最大に解釈し、彼等のマシンは事実上、“ほとんど完全な新車”となっている可能性が高い。

そして2021年 2月15日、マクラーレンは2021年用マシン「MCL35M」を発表した。
写真は F1-Gate.com 等を参照。 以下、概観から筆者の私見を記す。



ノーズ先端はメルセデス型。
昨年、ピンク メルセデス事件が起きたので、もうF1界は、CADデータを流用したのでなければデッドコピーでも合法だろうという強気の風潮になりそうだ。

ノーズの下には、メルセデスが先鞭をつけた「ヒレ」が今年もある。
筆者はこの部分の詳細が判る写真を未だ観られていないので断言は出来ないのだが、このヒレの空力の作用はおそらく、
ノーズ上面が左右へ分けた気流を、ノーズ下側へ巻き込まさせて、それをヒレ上面で整え、後方へ流しているのではないか。
こうすると、ヒレ下側の気流はクリーンでスムーズに後方の車体下部へ向かい、
ヒレ上側の気流は、気流の状態が綺麗ではないものの、ノーズ下方の流量の増加に寄与する。

極論で言えば、ノーズ下面から路面までの間で大量の空気を後方へ流せる程、車体の空力性能に寄与する。



フロントウイング翼端板の下部は、単純なトンネル状ではなく、少しうねった形状となった。
これが意味する理由はまだ解らないが、おそらくCFDや風洞で凝った作業がされた跡に見える。

フロントサスペンションは、アップライトから上方へ腕を伸ばしてアッパーアームを接続するハイマウント式を踏襲。
これはいかにもフロント下部の空気が綺麗に流せそうだ。


上から見た写真で判る、アンダーパネル直前の小さなボーダープレートも空力の重要ポイント。

サイドポッドは大きく分けると昨年のレッドブル型だと思うが、
ただしレッドブル程のアグレッシブな曲面の変化は描いてはいない。
このデザインの空力効果は、サイドポッド上面の低速で高圧な気流をサイドポッド側面へと導いて、
まるでウイングの間隙フラップの様にして、アンダーカットからのサイドの気流を後方へ蹴っ飛ばしているのだと思われる。

そして上から見た写真で、サイドポッド位置の中程から後方へ、狭くデザインされているのが判る。
これでMCL35Mのアンダーカットの最大幅は、規定より狭幅だという事が判る。
こうした理由はおそらく、後述の狭いアンダーパネルの幅が理由だろう。
最大幅を狭くした事により、サイドポッド内部の冷却系統のレイアウトに工夫が凝らされている事は確実だ。

アンダーパネルは今(2021)年のテクニカル レギュレーションで後方へ向けて幅が狭くされた為、
このパネルの後輪手前は、昨年までワイドだった時の様な、切れ込みやダクトは無い。
FIAは、この狭くしたアンダーパネルで車体底面のダウンフォース発生量を抑制しようとしている。

(停車した)マシンを横から見た写真では、ハイレーキの空力コンセプトに見えるが、実戦ではどうなるか?


リヤ サスペンションのプルロッドは、レッドブルの様に、大きく前方へ伸ばされて車体側と接続している。
このプルロッドの向きは、車体側のサスユニットをどうギヤボックス内部へ埋め込めてあるか?という事で決まる。
現代のリヤサスのプルロッドは、筆者はレッドブルが始めたと記憶しているが、
それ以降F1で、クラッチとトランスミッションとサス内部ユニットが干渉しない様に上手くリヤエンドをレイアウトする作業は大変なものだと想像している。

ところでF1のリヤ プルロッドの色は銀色に見えるのだが、金属製なのだろうか?
排気ガスが当たる箇所でもないので耐熱処理でもなさそうだが。
この件で、かなり昔に童夢のエンジニアへ伺ったところ、「カーボンも引っ張りに強いですよ。」との事だったのだが…。

マクラーレンは、後輪ホイールの端に、小さな半円の溝をたくさん設けてあるのが特徴的。
筆者はいつからだったか忘却してしまったが、マクラーレンは以前からこうしてある。
これは回転するホイールの溝で細かな渦流を発生させ、リヤブレーキの廃熱を制御しているのだと思われる。

MCL35Mはリヤウイングの翼端板のスリットの切り方がかなり凝っている。
ここも空力開発が十分に行われている雰囲気がある。

MCL35Mは全体的に、それ程ラジカルではないが重要箇所はちゃんと押さえてあり、随所に開発の跡が見られるマシンだ。
メルセデスのPUとなった事だし、チームとしてはトップ2に対抗できるか期待を抱いているかもしれない。
まあこの世界、マシンが最初のテストで走ってみるまでは判らないのだが…。

ドライバーはランド・ノリスと、新加入のダニエル・リカルドのコンビだ。

(このページのここまでの最終更新日:2021/ 2/16火)


(2021/ 2/19更新)

F1通信にMCL35Mの大きなサイズの写真がアップされていた。こちらを参照

そして、以下はネット情報からのスペック。

マクラーレン MCL35M スペック
重量752 kg(ドライバー及び燃料含む)
前後重心位置前輪車軸側で45.4% 〜 46.4%
ギアボックスカーボンファイバーコンポジット製
トランスミッション前進8速・後退1速
デフ遊星ギヤ式 多板リミテッド スリップ クラッチ式 ディファレンシャル
クラッチ電動油圧式 カーボン製 多板プレート
電子機器マクラーレン アプライド テクノロジーズ製
ブレーキシステムフロント/リヤ: 6ピストン ブレーキ キャリパー
リヤ: ブレーキ バイ ワイヤ コントロールシステム
ステアリングラック アンド ピニオン型 パワーアシスト
タイヤピレリ社製 P Zero
ホイールエンケイ社製

パワーユニット
型式メルセデス-AMG M12 E パフォーマンス
最低重量150kg
エンジン排気量1.6L
気筒数6
バンク角90度
バルブ数1気筒あたり4
最大回転数15,000 rpm
最大燃料流量100kg/時 (10,500rpm)
燃料搭載量最大 110kg まで
燃料噴射方式直噴・最大500 bar
エネルギー回生システムクランクシャフト結合 MGU-K & ターボチャージャー MGU-H
エネルギー貯蔵装置リチウムイオン電池(20〜25kg) 1周あたり最大 4MJ 貯蔵
MGU-K 最高回転数50,000 rpm
最大出力120 kW
最大回生量1周あたり2 MJ
最大放出量1周あたり4 MJ
MGU-H 最大回転数125,000 rpm
最大出力
最大回生量
最大放出量
無制限

(このページのここまでの最終更新日:2021/ 2/19金)


(2021/ 3/17更新)

今(2021)年のテクニカルレギュレーションで、ダウンフォース削減を目的に、ディフューザーのスプリッターに制限がされた。
スプリッターの前後長は、ディフューザーの後端より 50mm 前方の地点までしか伸ばせない事と、
その他、設置の条件など色々ありそうだが、詳細は筆者はまだ知らない。

そして開幕前のバーレーンのテストの写真から、MCL35Mのディフューザーにアイディアが見つかった。
ステッププレーン側面の壁を後方へ延長して、センターディフューザーのエリアでスプリッターを形成している。

ただし、ステッププレーン側面の壁を後方へ延長してスプリッターを形成するのはマクラーレンが初めてではない。
1990年代半ばに、ブリヂストンがF1参戦前にタイヤのテストを行うにあたり、
1995年のリジェの中古マシンを使用していたのだが、そのマシンは目的は違えどステッププレーン側面の壁を後方へ延長していた。(下写真)
ただしリジェの中古の場合ではスプリッターの設置幅は 500mm であった。(MCL35Mは約 300mm。)


(筆者撮影)

(このページの最新更新日:2021/ 3/17水)
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