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Web公開日:2022年10月28日(金)
筆者は2004年に、マクラーレンのフロント サスが、操舵時にあえてロールさせる構造となっている事に気付いた。それは当時のこのページの、一番下で取り上げている。
当時はそうするメリットが解せなかったが、今では憶測だが空力面のメリットがありそうだ!!!と考える様になった。
近年のF1のオンボード映像を観ると、ドライバーがS字コーナーでステアリングを切り返した際に、車体が明らかに外側へロールしているのが判る。
それでは本件を綴る上で、事前に必要な事柄を以下、図に示して説明して行く。
車体を前から見た図。(上)
水色がモノコック、緑が上下のアーム、黒が前輪、赤線がキングピンである。
キングピンとは、アップライト側の上下アームのピボットを上下方向へつないだ仮想の線で、
キングピンを前輪の設置中心位置へ目掛けて設計してやると、操舵力が軽くて済む。
なので、前輪に大きなネガティブ キャンバーがついていると、前輪と路面の設置位置が車体内寄りとなるので、極端に描くとこんな形となる。
では、ここでいったんキングピンのお話は終わり。
それでは次は、フロント サスのプッシュロッド取り付け方法について記述する。
1990年代 前半まででは、(上図) ロワアームに取り付けているのが普通であった。
しかし! そして1990年代 中頃からであったか、プッシュロッドをアップライトへ接続するマシンが現れてきたと筆者は記憶している。
(上図) 車体のフロント エリアを上から見た図。
オレンジのレバーがアップライトと一体型の部品で、赤がプッシュロッド。
(注:実際のF1マシンでは、このプッシュロッド前後方向の角度は主流ではなかったと思うが、このページでは動作の理解を簡単にする為にこのレイアウトで描いている。)
これでドライバーがステアリングを左へ操舵すると、アップライトのプッシュロッド取り付けレバーが回転し、プッシュロッドが車体の方向へ押し込まれる。
こういった設計により、操舵時に車体を意図的に、強制的にロールさせて走行している。
ただし、物を動かすのだからその力が必要だ。
このロールの操作は、ドライバーの腕力だけでは困難で、これまでの関係者の証言から、明らかにパワーアシスト ステアリングの力に頼っている。
その分、油圧の発生にパワーユニットの出力を食われてしまうので、この機構にはそれに見合うメリットがある筈だ。
車体を前から見た図。(上)
サスの内部ユニットは、左右のロッカーをセンターでつなぐ、
スプリングや、ダンパーや、以前あったイナーター等も、ロール発生の仕事に寄与している事が判る。
これも車体を前から見た図。(上)
水色は車体で、アンダーパネルとサイドポッドを示す。
コーナーで意図的にロールさせているから、外側アンダーパネルを路面へ近づけているのが判る。
ところでレーシングカーはステアリングを切ると、コーナーの外側へとズリズリ滑りながらコーナリングする。
既存のゴムタイヤは、滑る事でグリップ力を発生すると云ってもいいのかもしれないし、そういう物理的な構造である筈だという事しか、
決してタイヤの専門家ではない筆者には綴る事の可能な内容には限界があるが…、それよりも話を前へ進めよう。
そして現代のレーシングカーは、車体底面の気圧を低下させる事で強大なダウンフォースを発生させている為、
車体の左右から、低圧の車体底面へと余計な空気が侵入する。
この余計な空気は、車体の空力効率(より少ない空気抵抗で、より大きなダウンフォースを発生する事)を低減させてしまう。
大昔はスカートを用いて物理的に外気をシャットアウトしようとしていたが、それはテクニカル レギュレーションで規制された。
一方、高速コーナーでは、操舵角が小さいから機械的にロールさせるストローク量は小さいが、コーナリングのGフォースは大きいから大きくロールさせる力が働く。
これらが今、各F1チームが、狙った速度で狙った角度にアンダーパネルの外側を路面へ低くロール操作できるシステムであるのだろうと筆者は推測している。
要するに、コーナーで外側アンダーパネルを路面すれすれまで近づける操作を、緻密にできるならば、それは事実上のスカートに近いもので、これで空力性能を高める事ができる筈だ、と筆者は考察している。
(このページの最新更新日: 10月29日(土))