スマホ用に再編集:2023年10月15日(日曜)
話は1998年にさかのぼる。F1でマクラーレンはこの年の開幕戦から謎のサスペンション機構を実戦投入していた。
(これ以前のレースでも使用されていた可能性もあるが、筆者が確認できている中では1998年の開幕戦が最初だ。)
これは、通常の走行時には車体に加わる強大な空力ダウンフォースを支えられるバネレートとなっているのにも関わらず、
タイヤが路面のバンプに乗り上げた際や、コーナリング時にイン側タイヤが縁石に乗り上げた際には、
一瞬スプリングがとても柔らかい状態となり、タイヤが非常に大きくストロークするものであった。
その大きなストローク量は、オンボード映像や、シケイン通過時のスローVTRを観れば一目瞭然であった。
F1GPの技術規定では、電子制御式のアクティブサスペンションは1993年シーズン限りで禁止されているので、
このマクラーレンのサスペンションは、あくまでメカニカルな機構の筈だ。
この謎のサス機構は、イン側タイヤが縁石へ乗り上げるコーナーではとても有利で、
タイヤを思い切り縁石へ乗り上げて、高い車速でコーナーを通過する事ができた。
特に、高い縁石をまたいで左右へと切り返すシケインやS字コーナーでは非常に有利であった。
そしてこれは結果的にコースの走行距離を僅かではあるが短縮できるメリットもあった。
しかし、マクラーレンは2001年からは一般的な硬いスプリングのサスペンションヘと戻した様だ。
尚、2000年か2001年のサンマリノGPで、ジャガーのサスも上記と同じ様な動作をしている映像を筆者は記憶している。
筆者は1998年の秋頃に、とあるF1誌でこのマクラーレンのサスについての記事を読んだが、
その記事では、このサスの機構の具体的な図や解説は何も書かれてはいなかった。
それから筆者はマクラーレンの謎のサス機構を解き明かすべく机上で試行錯誤を繰り返し、
約3年かかって、同じ様な作動が出来る(筈の)サスペンションのアイディアを構築した。それを以下に記す。
タイヤがバンプ・ストロークすると、プッシュロッドがロッカーを回転させ、
ロッカーと固定してあるトーションバー・スプリングを捻る。
トーションバーはモノコック前端に固定してある。
黄色の油圧シリンダー&コイル・スプリングの油圧回路をロックしてある時は、作動するスプリングはトーションバーのみとなる。(これはスプリングが硬い状態。)
しかし、油圧回路のロックが開放されると、コイルスプリングとトーションバーとが一体となり、結果として柔らかいバネとなり、最終的に車体を支えるバネは柔らかくなる。
この油圧回路の作動の仕組みを下図に記す。
そして、タイヤが路面のバンプや縁石へ乗り上げた際には、タイヤは急激に持ち上げられる為、
ホイールに発生した下方向のGフォースにより、アップライト内に備えた重りのバルブが一瞬、下へと下がり、油圧回路が解放され、
コイルスプリングが可動できる様になり、車体を支える(作動可能な)バネは結果として柔らかくなる。
一瞬、ホイールへ加わっていた下方向のGフォースが消えれば、重りのバルブは、それを支えるスプリングにより元の位置へと戻され、油圧回路は再び閉鎖される。
そして、重りのバルブによってアップライト側の油圧回路が閉鎖状態でも、
車体側のワンウェイ バルブにより、コイルスプリングは元の位置まで戻る事が出来る。
これが筆者の考案したシステムの作動原理である!
尚、コーナリング時には、外側のタイヤのスプリングは常に(縁石へ乗り上げた状態であっても、)硬い状態を保たなければ安定したコーナリングが出来ないので、
外側のサスの油圧回路は、常にロックしておかなければならない。その為にロック・バルブを設けた。
このロックバルブの制御法は、ステアリング・ラックの動作位置から、現在が左右どちらかのコーナーかを機械的に検出し、
そこからのリンク機構でロックバルブを引き上げて、油圧回路を閉鎖するといった方法や、
車体に横Gで作動する油圧バルブを備えてロックバルブへリンクさせるといった方法が考えられる。
車体からアップライトへの配管は、アッパーアームの内部を通せば良い。
この機構は、車体の前後のサスペンションや、4輪を関連付けて総合制御する等、
アイディア次第で可能性が大きく広がると思う。
そしてこれはF1マシンだけではなく、他の様々なカテゴリーのマシンでも使用できると思う。
(このページの最新更新日:原文は2007年 3月15日、スマホ用に再編集は2023年10月15日(日曜))
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