B・A・R 007 text & illustration by tw (2005. 1.16〜)
2005年シーズン用の「007」は1月16日(日曜)にスペインのカタロニアサーキットで発表された。
マシンの写真は F1 Live.com(日本語版) 等で参照。
このマシンはフロントウイングだけでなく、上からの写真で観ると特徴的。
フロントウイングは数日前からBAR公式HPで公開されていた通り、中央部分を前方へ延ばした形状で、
そしてウイング中央部を下方へ大きく落とし込んで路面へ近づけている。
これはウイングと路面との空間を狭くする事で、気流を絞って流速を上げて、より強い負圧を得る為である。
今(2005)年から、フロントウイングの地上効果を抑制する目的で、
フロント両サイドの高さが 50mm 引き上げられた。(3.7.1の改定)
以下は、新規定でフロントのボディワークが許されている範囲を記す。
(赤線の内側の、黄色い区域に収まっていれば合法。)
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3.4.1 |
後輪中心線よりも前側では、 ボディワークの幅は 1400mmを超えてはならない。 |
3.7.1 (改定) |
前輪中心線より 330mm前方の地点よりも前側では、
車体中心線の左右 250mmより外側のボディワークは、
RPの上方 100mm 150mm以上、300mm 350mm以下。 |
3.7.2 (新設) |
前輪中心線より 330mm前方よりも前側のボディワークは、
RPの上方 50mm以上。 |
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これほど極端な湾曲だと、空力的には、
「ダウンフォースを発生する翼形を路面に近づけて、地面効果で更にダウンフォースを増そう」
という表現よりも、
「こういうフタを路面に近づけて、路面とフタとの空間の空気を
フラップで吸い出す事で低圧にして吸着させよう」
と云う表現の方が適切な感じがする。
当然こういったフロント形状の問題点は、車体のピッチ変化で過敏に気流変動する事。
この当然の課題に折り合いをつけたならば、
この形状ならばフロントのダウンフォースは相当な発生量の筈である。
フロントウイングの両端もギリギリまで低くされている。(2005/ 1/16 新車発表時)
と書いたが、やはりフロントウイングに問題があった様で、
後日ヘレスでのテスト(2005/ 2/11金)の写真を F1Racing.jp でチェックしたところ、
新車007のフロントに、昨年のフロントウイングを装着して走らせていた。
これは昨年のウイングを昨年の高さに取り付けていた為、今年の規定には合致しないが、
フロントウイングによる空力的な問題を浮かび上がらせる比較検証が目的だと思われる。
007のフロントウイングは、面積をほぼ規定一杯まで使った巨大な物だったが、
ウイング下面の気流が後方で薄くなり過ぎて、車体下面への流れに問題があったのかもしれない。
下の図は、BAR 007の元のフロントの図(左側半分)と、筆者の改良案(右側半分)。
(注:図は筆者が描いたもので、BAR 007の正確な寸法ではない。)
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筆者の改良案は、フラップ中央部の面積を減らし、
フロントウイング上面とノーズ下面の空間を確保する。
後流の気流が薄くならない様に、フラップを間隙式とした。
横から吸い込む気流の変動量を穏やかにする為に、
ウイング両端の下面をやや持ち上げた。
BARチームの解決案はどういったものになるだろうか? |
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規定(左図 3.14)でフロント部分は、
中央の幅400mm(車体中心線から左右へ200mmづつ)は、
フロントウイングよりも300mm前方へ延ばす事が許されている。
ノーズ下面は若干スラントしたタイプで、
フロントウイングからの気流を向かえ込んでいる。
ノーズ横に付けられたダミーカメラも、
これを空気の流れに利用する前提で置かれた位置に思える。 |
フロントサスはセンターキール式となっている模様。
前輪内側の位置でモノコック両サイドの下端に備え付けたディフレクターが、湾曲したトンネルの様な形となっている。
このトンネル状の誘導路で、フロントウイング下からノーズ下を流れて来る空気を吸い出して、
フロントのダウンフォースを増している筈である。
このトンネル状ディフレクターは大きく外側へカーブさせてある。
ディフレクターのカーブを急にすると、まずは二つの役割を果たす。
一つは、前輪の後ろ側の低圧部分へ、ディフレクター外側の気流を向ける役割。
もう一つは、ディフレクターは横方向へカーブしているが、このカーブが急だと、
前面を流れる空気がディフレクターの上下を乗り越えて後側に回り込み、強い渦流となって後方へ流れる。
この渦流を意図的に利用して、何らかしらの空力の仕組みとしている筈である。
(渦流が発生して困るのなら、ディフレクターの上下にはプレートを装着する筈。)
この前輪内側のディフレクターは、この後方の区間と相まって空力で非常に重要なポイントである。
この部分は先の前輪内側ディフレクターと関連するが、
ボーダウイングは撤去され、代わりにサイドポッド両サイドの前端に斧の様なフィンを付けた。
これはウイリアムズが昨(2004)年の日本GPから登場させたデザインの真似。
近年のF1では、前輪の巻き起こす乱れた渦流をどう対策するかという重要項目について、
サイドディフレクター式とボーダウイング(+前輪内側の小さめのディフレクター)式と
2つのどちらかのタイプに分かれていたが、
これでボーダウイング式から少し新しいタイプが派生してきた。
サイドポッドは流行に倣って、全体的に下部へ向けて斜めに絞り込んだ。
これはサイドポッド側面からコークボトルへ向けて速い流れを作る事で、
車体下面が余計な横側からの空気を吸い込んでしまう量を少しでも減らす目的だと思う。
サイドプロテクターの側面はあまり膨らませずに、縦にストンと降りている。
これはバックミラーの整流や、車体上面の流れと圧力に影響すると思われる。
排気チムニーの内側のカウルが高い位置としてあるのは、
サイドプロテクター上面の流速が上がらない様にする為だと思う。
排気管の位置と向きは、最近BARがテストで走らさせていた混合車と同じ様に中央へと寄せたもの。
これは車体の空力上の理由からで、エンジン的には、排気管を余計にカーブさせる形となり、
エンジンのヘッドにも近づいてしまうのでマイナスとなる。
インダクションポッドには、標準装備の様にしてミッドウイングを装着してある。
昨年同様BARのミッドウイングは、ウイングと云うより調節板と云う役割の物で、
車体全体の空力のバランスをとる為の空気の流れ方を調節している。
リヤウイングの手前にフォワードフラップを装着している。
昨年までフォワードフラップとリヤウイングとの前後距離は、規定上150mmより近づけられない状態だったが、
今年の規定でリヤウイングの区間が150mm前進したので、
フォワードフラップはリヤウイングの前縁フラップとして使える様になった。
低速コース用の大きなリヤウイングでは、前縁フラップはダウンフォース増大に結構貢献すると思う。
ロワウイングは前後長が短いのが特徴で、
これの役目は周辺の気流の向きをダウンフォースを得る為に補助するフラップだと思う。
サイドディフューザーの後流を吸い込んで跳ね上げ、
リヤアッパーウイング下方の気流へ関連付けている筈である。
このロワ・フラップは強度が少なそうなので、
主にリヤウイングを支えるステーは、90年台初期頃までのマシンの様に、
ギアボックスの後方からアッパーウイング下面へ2本の薄いステーを伸ばしている。
リヤウイングの翼端板は、昨年BAR自身が先鞭をつけたアッパーウイング後ろの切り欠きがある。
(ここまでの最終更新日: 2005/ 2/13)
[Rd.1 オーストラリアGP (メルボルン市街地) 3月 4日(金曜)の写真から]
冬のテストでフロントウイングを昨年のタイプに交換する事態となっていたが、
この期に及んで未だ2種類のウイングを試している。 両方共ウイングの下面にはスプリッター付き。
フロント・サスについて。ブレーキのカバーで隠れているが、プッシュロッドはアップライト接続の位置に見える。
ノーズを外した時、フロント・トーションバーをモノコック側に固定する部品が見えない。
ロッカーは色合いから、もしかするとカーボン製かもしれない。
ブレーキダクトはフロントウイングの下面から吸うタイプ。
センターキールとその左右のトンネル型ディフレクターとの間隔が狭く、気流が流れ難そう。
長身のJ.バトンは頭部位置が高く、今年もエンジン・エアインテークへの気流の邪魔となっている。
これではエンジン出力が佐藤より低くなるかもしれないが、
昨年の前半戦の様にエンジンの信頼性が余裕の無い状況となった場合には逆に助かるかもしれない。
路面への吸着力がかかるフロアプレートは、エンジンルームからワイヤーで吊ってあるが、
これの材質(形状記憶合金かどうか)が気になる。
フロアプレートの後輪手前から少し前へ離れた部分に温度センサーらしき膨らみがある。
[Rd.1 オーストラリアGP (メルボルン市街地) 3月 6日(日曜)の写真から]
F1速報オーストラリアGP号に、ギアボックス内部を前側から撮った写真が掲載されていた。
昨年はリヤ・トーションバーの調整を、ギアボックスの外側からネジを回すだけで簡単に行える構造だったが、
今年は内部で固定しておく構造となり軽量化された。
[Rd.2 マレーシアGP (セパン) 3月18日(金曜)〜19日(土曜)の写真から]
フロントウイングは、007発表当初のステップド式へ戻した。
冬のテストから、前輪内側ディフレクターの後縁から後方へと延ばしたナイフ状のプレートと、
斧型ボーダーウイングとをつなぐ、ほとんど高さの無い背の低いディフレクターを装着している。
排熱処置はラジエーターチムニーは使用せず、サイドポッド上面の両端区間でカウルを一部取り払った。
この部分からの排熱は、その直後にある小型ウイング下面で吸い出される。
恐らくこの部分のカウル開口部を少なくすればダウンフォース発生量が増し、
カウル開口部を大きくすれば冷却能力が増すと思われる。前者の方が空力効率(L/D比)は良くなる。
Rd.4 サンマリノGPの写真から (5/ 4更新分)
今季のマシン007は発表後からこれまで空力に問題を抱えていたが、
今回投入された空力の改良は性能を底上げすると云うより、
このマシンで元々発揮できる計算だった性能へ少しでも近づける為の作業なのではないかと筆者は推察する。
空力の問題は今回の改良でだいぶ改善された様子だが、まだまだトップグループとはダウンフォース量に差がある模様。
サイドポッド下部の手前には、三角形のフロアプレートを追加した。
これは空力で最も重要な車体下へ流れ方を、デザイナーの意図する様に制御する為の物。
テールライトの上方には、流行のシャドーウイング(幅150mm)を追加した。
ウイング形状は、中央の気流を包む様にやや湾曲しており、翼端板は付けていない。
支柱は、リヤ・クラッシャブルストラクチャーから上方へセンター1本式。
リヤウイング翼端板の後端の(縦の)ラインは、下側よりも上側が後方へ伸びた、緩やかにカーブした形状。
Rd.8 カナダGPの写真から (6/13更新)
このレースから007はようやくポテンシャルを発揮できる状態となって来た。
空力形状は全体的に進化させた。
フロントウイングは、下面の両端を少し持ち上げた形状で、
この部分は、冬のテストで空力に問題が発覚した際の筆者の改良案と同じ形となった。
尚、翼端板のサイドフィンは撤去された。
スペインGPからのトヨタの真似をして、サイドポッド手前の上部にカナードを装着した。
トヨタと異なるのは、カナードがサイドポッドと一体化しており、隙間が空けられていない事と、
カナードの下側には翼端板が無い事。
このカナードが有ると、まずカナードの下側は低圧となるので、
サイドポッドの手前から側面へ向かう空気をカナード下側が吸い込む筈で、
その結果、車体下や側面の流し方についてデザイン時に新たな工夫と選択の余地が生まれる。
そしてカナードの上側は高圧となるので、サイドポッド上面で少しダウンフォースが増えているかも知れない。
モナコGPからのルノーの様に、フェアリングフィンの下側にフィンを追加した。
これと一体で縦のベーンも装着した。
リヤウイングは翼端流の工夫をした、下面の両端が穏やかに持ち上げた形状。
この高速コース用ウイングに合わせて、リヤウイング手前のフォワードウイングは装着していない。
リヤウイングの翼端板のスリットは、水平ではなく流れ方に合わせて工夫した開け方となっている。
昨年からトヨタが始めたこういったスリットの目的は、ウイング上面の高圧を両側へ少し排出し、
翼端の圧力差から発生する渦流を抑制する目的だと思われる。
気流は狭い通路を通過する際に抵抗を受けるので、
この「スリット型」と「単に翼端板の上部を全面的に切り落としたタイプ」とを比較すると、
両者ではエアロマップが異なると思われる。
つまり速度変化とダウンフォース発生量の関係が、
切り落とし型よりもスリット式の方が(現時点では)都合が良いのかもしれない。
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