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メルセデス W09   text by tw  (2018. 2.22木)

2018年 2月22日、メルセデスのニューマシン、「W09」が公開された。
この「W09」の写真は、F1-Gate.com 等を参照。
写真が少なく、まだ見られる概観が限定的だが、以下、少しづつ筆者の私見を記していこう。



まず空力面で最大のポイントは、サイドポッド後半の絞り込みが急激で、これは内部流を相当上手く遣り繰り処理している筈で、
冷却に要する弊害を最小限にしよう、というコンセプトは観て取れる。しかし、全体的には保守的なマシンに観えてしまう。
大きな進化は感じ取れるが、進化とは別の、革新面(ラジカルなアイディア)がまだ見当たらないのだ。

今年もノーズコーンは"親指"と称されるコブは無いので、ノーズ下面の気流量は少ないままだ。
基本的に昨年のスペインGPから投入したフロントエンドのパッケージを踏襲している様で、新しくされた感は無いが、
上面は僅かに気流を左右へ別ける形状となった。
これはノーズホールの気流抜けに若干弱い方向に影響する。

ノーズで他チームと違うのは、昨年同様に、ノーズ下のサイドに、狭幅で上下に大きくカールしたカナードを装着している事だ。
これはおそらく、低いノーズ下の気流に少しウイング効果をもたらしつつ、その後流を調整しているのだろう。

フロントサスペンションは昨年から引き続きハイマウントウィッシュボーンで、
アップライトから斜め内側・上方にツノを生やしてアッパーアームを接続している。
これでロワアームも高くする事ができている。

低いノーズよりも疑問な点は、サイドポッド上面前部に新たな工夫が無く、従来通りのリフトフォースが生じてしまっている事だ!
車体にはダウンフォースを発生する部分とリフトフォースを発生する部分があるが、
合算して、リフトが少なければダウンフォースが増すのだ。それを今年のメルセデスのサイドポッドでは実行されていない。

リヤウイングのステーは中央に1本のタイプで、排気管の上に薄いモンキーシートが見える。
これは今年流行のギヤボックス ウイング(低いTウイング)では無く、幅的にモンキーシートの部類だろう。

リヤウイングはメルセデスの常用であるスプーンタイプで、中央が低く、左右が薄い。これは翼端渦を軽減する効果がある。
このタイプのリヤウイングを最初に投入したのは2003年のマクラーレンであったと筆者は記憶している。

総括して、他チームが昨年のフェラーリのサイドポッドのアイディアを自己解釈して取り入れたのに対し、メルセデスは保守的過ぎる。
進化プラス革新こそがF1グランプリマシンの魅力ではないのか?

ドライバーは引き続き、ルイス・ハミルトンとバルテリ・ボッタスのコンビだが、
この後に登場するフェラーリの仕上がり、そしてレッドブルのルノー製パワーユニットの向上度によっては、
メルセデスは今年タイトルを失う可能性が十分にある。
(しかし信頼性のアドバンテージによってメルセデスのタイトルは防衛されるのかもしれないが。)

(このページのここまでの最終更新日:2018. 2.22木


(2018. 3.23金 更新)

開幕戦オーストラリアGP金曜のフリー走行後に、[W09]のフロントサスユニットの写真を観る事ができた。
以下の概念図は、上部が写真からの描き降ろしで、トーションバーより下は筆者の推察だ。

緑がプッシュロッド、
黄緑がロッカー(ベルクランク)、
オレンジがダンパー、
ピンクがトーションバースプリング、
青がアンチロールロッカー、
中央の黄色が、アンチロールリンクだ。

これは1998年頃からフェラーリが使用していたフロントのアンチロール機構に似ているが、
今回のメルセデスの物は、更にロール剛性が高い。絶対に曲げてなるものかという様なロッカーの形状をしている。

このサスユニットの構造により、中央の黄色のアンチロールリンク部材の剛性次第で、コーナリング時のロール角が決まるだろう。
まずは、日曜の決勝フォーメーションラップのオンボードカメラにて、ステアリング操作に対して車体がロールしているか否か観察してみよう。
ただし金曜CS放送での森脇氏の仰る通り、キャスター角の作用も考慮せねばならない。
とにかくこの開幕戦、メルセデス含め、全車のオンボードカメラによるロール角に注視せねばならない。
もし、妙なロールをしているマシンがあれば、議論の対象となるだろう。

(このページのここまでの最終更新日:2018. 3.25日


(2018.3.25日 更新)

W09は、サイドプロテクター後部を熱気排出口としている事が判明した。
このアイディアの元祖は、2004年のフェラーリだが


(2004年のフェラーリ)

今年のメルセデスの排出口の位置はサイドプロテクターのすぐ後だ。
これで[ハロ]の後部で気流が剥離する事に悩まされずに済みそうだ。

尚、レースのオンボードカメラで捉えられた映像では、
コーナリング時の車体の角度は、ステアリング操作で意図的な妙なロールは起こしておらず、
今年からのテクニカルレギュレーションに準拠したプッシュロッドの取り付け方となっている様だ。
よって、プッシュロッドのアップライト側の取り付け位置は、キングピン上にある筈だ。

メルセデスはフロントのロールを極力抑えたい様で、ほとんど左右でリジットに近い状態となっている。
コーナリング時には、ロールリンク部材の僅かな変形で僅かにロールしていただけの様だった。

しかし、W09のアンチロールロッカーの部材はカーボンに見えるが、そのリンクの部材は何なのだろう?
写真ではカーボン色に見えるが、もしかしたら黒く柔軟な金属かもしれない。

さて、W09の性能だが、予選パフォーマンスは筆者が予測していたよりも圧倒的で、
ドライコンディションの予選においてなら全ての予選でメルセデスがポールを獲るのではないかという勢いだ。
フェラーリとレッドブルが猛烈に頑張ってくれない限り、今年も退屈なシーズンとなりかねない。

(このページの最新更新日:2018. 3.25日
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