「イナーシャ ダンパー図解・考察」 text & illustration by tw (2008. 8.29 〜 2014. 3.15)

現在F1GPで流行中の「イナーシャ ダンパー (inertia damper)」、
または「ジャーク ダンパー (jerk damper)」と呼ばれるサスペンションの機構について図解と共に考察する。
下図はイナーシャ ダンパーを装着したフロント サスペンションの内部ユニットを示す。




(上図) 車体のフロントに荷重が加わったり、前輪がバンプや縁石に乗り上げた際には、
左右両方のプッシュロッドが上方へ押され、ロッカーを回転させ、
ロッカーが各スプリングダンパーをストロークさせる。
(尚、両輪が同じ量だけストロークした際には、アンチ ロール バーは捻られない。)

そしてイナーシャ ダンパーの作動は、ロッドがネジの様な螺旋の形状をしており、
更にイナーシャ ダンパー内の重りロッド貫通路にも螺旋が切ってあり、
ロッドが左右へ移動する事で、イナーシャ ダンパー内の重りを回転させる。

この、「重量を持っている物を回転させる」というところがイナーシャ ダンパーの狙いだ。


(2014. 3.15土 更新)

イナーターについて。図は上を参照。
以下、2010年春のモーターファン別冊・特別特集F1のテクノロジー誌の内容をソースに、イナーターについて記述する。

まず、イナーターの原理が発明されたのは1997年、ケンブリッジ大学で制御秘術を専門とするマルコム・スミス教授で、
2002年10月に「Synthesis of Mechanical Net works: The Inerter」と題して論文発表した。

そしてF1界では、2005年第4戦サンマリノGPからマクラーレンが使用した。
(筆者が推測するに、おそらく採用はフロントサスからであると思う。)

イナーターは、サスを一定速度で動かしている時には半力が出ないが、加速度に対して半力が出るデバイスだ。

イナーターの装着時、サスを急に動かそうとすると動き始めと動き終わりに半力を出す。
加速度と比例して半力を出すのというポイントが従来のオイルダンパーに比べ革新的だ。

ただし、車輌のバネ(サス)の硬さとマスの軽さが合わないとイナーターの効果は無い。
乗用車の場合、車輌の上下の動きの固有値は1Hz以下だが、F1マシンでは3〜4Hzと範囲が異なる。
硬いサスだと効果を発揮し、柔らかいサスだと効果は出ないのだ。

(筆者注:F1では過去ルノー時代に徳永氏が「もうイナーターは使用していない」とコメントしていた記憶で、
 実際、ルノーのサスはよく動いていた。)

F1マシンの場合、イナーターを使用すると車体の共振が押さえられ、ヒョコヒョコしないで空力も安定するメリットがある。

イナーターの弱点としては構造上、ボトミング時のドン!という衝撃には弱いので、
クラッチを設けて破壊を防ぐ必要があり、やや重量物となってしまう点が挙げられる。

このページの最新更新日: 2014. 3.15土
(関連ページ:スプリング+ダンパー+イナーター 3種一体ピッチコントローラー

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