フェラーリ F10   text & illustration by tw  (2010.01.28木)


今(2010)シーズンのF1の車輌開発ポイントは、決勝レース中の給油が禁止された事から、
燃料タンクのデザインと車輌のパッケージ・レイアウトとなる。
よって車体の前後重心位置と空力ダウンフォース発生中心、そしてホイールベースの設定が勝負の鍵となると筆者は確信している。

F1車輌規定(=テクニカル・レギュレーション)では、
1999年から2008年シーズンまでは前後共4本の溝付きタイヤであったのに対し、
2009年シーズンからはタイヤの幅は変更無しに溝無しのスリック・タイヤとされた。
これにより2009年シーズンのマシンは、元々幅の広い後輪に対してやや細い前輪の設置面積が増し、
そのままではオーバーステアとなってしまう事から、全チームが車体の前後重心位置を前方へ移動させざるをえなかった。

何故ならば、車体を上から見た時、コーナリング中のマシンに掛かる横Gは、車体の前後重心位置に作用する為、
前後のタイヤの横方向のグリップ力に対して、適切な車体前後重心位置とする必要がある為だ。
前後重心位置がフロント寄りならばアンダーステア、後ろ寄りならばオーバーステアとなる。

そして各チームは、マシンの前部、フロントウイングやモノコック下部のスプリッターに、
ウエイト(恐らく比重の重いタングステン)を搭載した。(90年代中盤からこの傾向はあったが更にそれが加速された。)

事実、昨(2009)年の日本GP予選にて、トヨタのティモ・グロッグ選手が最終コーナーでクラッシュし脚を負傷しているが、
これはフロントウイングにウエイトを内包しており、それがサバイバルセルを貫通し脚を負傷した様だ。


タイヤ供給社のブリヂストンは以前から、車体前方に異様な量のウエイトを搭載せざるをえない現状を改善する為に、
前輪の幅を狭く規定できないかとFIAへ提案していた。
ようやくこの提案が通り、今(2010年)シーズンから前輪の最大幅が規定でやや狭められ、
前輪の路面との設置面の最大幅は、2009年までの 270mm から、2010年は 245mm となった模様だ。
これにより、車体の前後重心位置を昨(2009)年のマシンよりも後方へ移す、
つまり昨(2009)年よりは、車体の前側に異様な量のウエイトを搭載せずに済む事が出来る。



決勝レース中の給油が禁止された事で、今(2010)年のマシンの燃料タンク容量は、ほぼ倍増して約230リッター程となると思われる。

- F1テクニカル・レギュレーション(車輌規定) -

「6.1.2」 全ての車載燃料は、横方向投影面で、エンジンの前面とドライバーの背中との間に貯蔵されなければならない。
 エンジンの前面を画定するにあたり、燃料装置、オイルシステム、ウォーターシステム、電気システムは除外される。
 尚、ドライバーの背中と座席が接する最高点より300mmを超えて前方に、燃料を貯蔵することはできない。

「6.1.3」 燃料は、車体中央線から左右へ400mm以内に貯蔵されていなければならない。


燃料タンクの最大幅が限られている為、タンク容量を増すにはタンクの前後長を伸ばす必要がある。
その為に、ギヤボックス・ケーシングは前後長が短縮される筈である。
しかしギヤボックスの前後長短縮自体は、技術的な困難は大して発生しないと思われる。
何故ならば、トランスミッション後端ギヤとファイナル・ドライブ(デファレンシャル)の間のシャフトは、昨(2009)年までは車体パッケージ・レイアウトの都合上、長さに余裕があったと思われるからである。
いくつかのチームは、このシャフトを長くし、その左右へサスペンションのダンパーを内包していた。そうしていたチームは、リヤサスのレイアウトを変更する必要がある。

オイルタンクの搭載位置は、昨(2009)年まではエンジンの前面にあり、
車輌規定の「6.1.2」を利用して、燃料タンク背面に食い込む形であった。
これによりオイルタンクという重量物を車体前後中心に近づけ、重量配分に寄与していた。
しかし今(2010)年からは燃料タンクの容量を増さなければならない為、
オイルタンクは昔の様にエンジン後端とトランスミッションの間のベルハウジング内に移動される可能性が高い。
ベルハウジング内には(F1用の小径な)クラッチがあり、その上部に空間があるので、この空間をオイルタンクにすると思われる。
この為、オイルタンクによる重心高は、クラッチの直径の分、高くなってしまう。

(このページのここまでの最新更新日:2010.01.28木 am 5:30


2010年01月28日(木)、フェラーリの2010年用マシンが発表された。
チーフデザイナーは、2006年にマクラーレンからフェラーリへ戻ってきたニコラス・トムバジズ。
空力学部門の新しい責任者はマルオ・デ・ルカとなった。
このニューマシンの概観は、Formula1 GPUpdate.net や、フェラーリ公式サイト を参照。以下、車体の概観から筆者の私見を記す。



ノーズ先端の位置は高い。これは車体底面やサイドポッド側面下部へ多量の気流を供給し、
車体底面で発生させるダウンフォースを多く得ようというコンセプトである。
車体底面と路面の狭い通路に速い気流を通すと、(ベルヌーイの定理から)その部分の気圧が低下しダウンフォースとなる。
これをグランド・フェクトと呼び、少ない空気抵抗で大きなダウンフォースを得る事が出来る手法だ。

ノーズコーンは前後長が長く、これはクラッシュ・テストに合格する為に有利で、
ノーズコーンの重量を軽く済ませる事が出来る。
ただし長いノーズコーンは、コーナリング時に車体の向きをクイックに変えたい時には若干不利かもしれない。
ノーズ先端には、恐らくはフロントサスのダンパー等の冷却の為の穴が開けてある。

ノーズからモノコック上面は、昨(2009)年のレッドブルのアイデアをコピーし、上面両端が盛り上がっている。
(この形状は、フェラーリは昨(2009)シーズン中盤から実際にマシンに装着させテストしていた。)
フロントサスのプッシュロッド車体側取り付け位置は、ノーズ上面両端のコブよりも大分低い為、
ノーズ上面両端のコブの存在理由は空力的な理由だと推測できる。
コブの採用理由は、フロントウイングが跳ね上げる気流によるノーズ上面への気圧影響を軽減する為かもしれない。



フロント・サスペンションは今年も引き続きゼロキール式で、上下のアームはハの字に下がっている。
これはサスペンション・ジオメトリー上、異常な設計なのだが、
それよりも空力効率を重視した方が現代のF1マシンは速いというのが現状なのであろう。

フロントサスのプッシュロッド車体側取り付け位置からして、
フロントサスのピッチ・コントローラー(=サードダンパー&スプリング)の搭載位置は、
ロッカー上部で左右へ繋げるシンプルな配置となっている事が推測できる。
このレイアウトならば、バンプ時にピッチ・コントローラーは縮む為、
コイル・スプリングは単にそのままピッチ・コントローラーの外周へ装着すれば済ませられる。



フロントウイングのフラップは、面積を車輌規定一杯までは使っていない。
これは規定により今(2010)年から前輪の幅がやや狭められた為に車体の前後重心位置が後ろ寄りとなった為であろう。

フロントウイング翼端板の後部内側には、小さな追加フラップが装着されている。
そしてダミーカメラはウイングステーに装着する事で重心高を下げている。この2つは評価できる新しいアイデアだ。



今(2010)年からホイール外側のカウリングは禁止されたが、内側は許可されている様で、ミニ・ウイングも装着している。

現時点の写真からはホイールベースはよく判らないが、モノコックに対して前輪は後退した様だ。
これにより車体前側に搭載するウエイト量は少なくて済む。

このマシンで最も特徴的な部分はサイドポッドのデザインで、上面の外側が盛り上がっている事だ。
(このデザインは筆者が昔から得意の空力処理手法である。)
これは前輪が巻き起こす乱流と、リヤビュー・ミラーが起こす乱流を、高いサイドポッドで整流する効果がある。

昨(2009)年からの規定により、サイドポッド上面のエリアには 75mm以上 のRをつけていなければならず、
サイドポッド上面の内側と外側に段差をつけるデザインとすると、サイドポッド後部で両者を終結させる事が構造上難しい。
そこで今回のフェラーリは、規定で許される排気穴を開けて、高いサイドポッドの外側をカットして問題を解決している。
よってエンジンの排気管は、車体のだいぶ外側に位置する事となったが、
これは空力上、好ましいか否かは筆者はまだよく解らない。



今年もリヤビュー・ミラーはサイドポッド前方のサイドフェンスに取り付けられ、
ミラーが起こす乱流をリヤウイングから遠ざけている。
サイドポッド前方のサイドフェンスは、コーナリング時に車体横側へ作用する気流の変化から
サイドポッド側面の気流を守っている。

ロープを通す穴はマクラーレン式で、筆者はこの形式が空力上、最も好ましいと考えている。

サイドプロテクター上面の形状は、昨(2009)年のレッドブルの様に気流を左右へ分ける形状ではなく、
何故レッドブル形式を採用しないのか筆者は懐疑的に思う。



リヤウイング・ステーの取り付け部分は上段ウイングの前部で、そこから前方へ伸びて車体と接続している。
これでステーの重量配分を車体の前後中央寄りと出来ている。このステーは2枚だ。

昨年同様、上段ウイングの中央75mmの部分は、2エレメントの規制を受けない区間なので間隙フラップとしている。
これはウイング下面の気流剥離の防止に効果的だ。
ただし筆者は昨(2009)年のレッドブルの様に、フラップ側にスリットを切った方が効果的なのではないかと推測している。

写真ではまだよく確認できていないが、上段ウイングの上側の翼端板の高圧排出スリットは4つ程だろうか。
ウイング後方の翼端板の切り欠きは昨年と形状が異なり、翼端渦の軽減の為の開発が行われた結果であると思われる。

他の多くのチーム同様、発表会仕様のマシンで開幕戦に望むとは考え難く、(トップチームならば特に)
この冬のテスト走行で更なるアップデートが行われるだろう。

(このページのここまでの最新更新日:2010.01.28木 pm 9:28

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