マクラーレン MP4/19 text & illustration by tw (2003.11.25〜)

8. ディフレクター

MP4-17から同様、ディフレクターは、前輪内側のツインキールと一体化した物と、サイドポッド手前の物との前後2段構成。
前後2段構成とした為か、サイドポッド手前側は前端位置がやや後ろ寄り。
MP4-17Dからサイドポッド手前側は高さが低めとなり、それに伴い上端のラインがほぼ水平となった。

ディフレクターの、モノコックを向いた側を内側、タイヤ側へ向いた方を外側とした時、
ディフレクターを真上から観ると、内側は凸、外側は凹のカーブを描く。
空気が流れる時、凹側は気圧が高くなるので、ディフレクター外側の気流は、側面を上下に別れながら流れ進む。
そして気流はディフレクターの上下端からこぼれ、ディフクレターの斜め内側後方へ巻き込む様にして流れるので、
気流を形作る上で上下端の形状の検討は重要である。

サイドポッド手前側はフラットボトム規制内に位置する為に、3D形状とする場合は下端にシャドープレートを設ける必要が有るが、
フラットボトム規制をクリアするのに必要以上のプレート面積が有る場合、
ディフレクターから車体下面へとこぼれて行く気流を制御している事が判る。

ディフレクター後端は、斜めにカットされている様に見える。
後部の下端は、小さなガーニー付き。


9. サイドポッド

モノコック幅はサイドポッドより手前から広がり、サイドポッドのインテークはやや両側に離れている。
エアインテーク形状は、上部が幅広く開口し、下部へ従い狭くなる形状。
サイドポッド側面の前側は、フェラーリF2003程ではないが、僅かに下方へくびれがついている。

サイドポッドの高さは高く、これは以下の3つの目的が考えられる。

 1. サイドポッド上面前端からリヤ・ウイングまでの区間を大きく窪ませる為。
 2. 前輪が巻き起こす乱流を、サイドポッドでより整流する為。
 3. 側面衝突テストでの衝撃吸収面での有利さ。

そして、サイドポッド上面の厚さは然程厚くない。これは上記の1と3に関連する。
1については、サイドポッド上面を前端から後方に向けて大きく落とし込むデザインとする時に、
サイドポッド前端が上面へ向けて多く気流を導くと、その区間で流速が上がり、リフトの向きの力が発生してしまう可能性が考えられる事。
3については、衝撃を受け止める区間が広い方が、衝撃を吸収し易いと考えられる事。

サイドポッド上面はサイドプロテクターへなだらかに繋がっており、サイドプロテクター上面から左右へこぼれる気流に配慮している。

MP4-18のサイドポッドは部分的に1990年頃のレイトンハウスに似た印象だったが、
MP4-19ではサイドポッド上面から側面にかけての角に丸みがつけられた。

サイドポッド側面は、大型フェアリングの上下を堺にやや傾斜させて後方へ絞り込み、気流の向きを明確に分けている。
フェアリングより上へは、サイドポッド上の小型ウイングとフェアリングの向きに合わせて気流を上方へ、
フェアリングより下へは、後輪の回転方向に合わせて気流を下方へ向けている。

サイドポッド上面のラジエーター・アウトレットはMP4-17D後期型と同様に、気流に道筋をつける為のトレイが設けられている。

サイドポッド上の小型ウイングのサイズはMP4-18より少し大きくなった。それに伴い、翼端板も大きめ。

大型フェアリングの両端には、ウイリアムズの様なRはつけていない。


10. コクピット周辺

バックミラーの位置は、MP4-17では左右に離れていたが、MP4-18から中央寄りに戻った。(MP4-18のページ参照)

サイドプロテクターのフィンはMP4-17では2枚に分けていたが、MP4-18から1枚に戻った。(MP4-18のページ参照)

空力を高い次元で追求している筈のマクラーレンだが、ドライバーのヘルメットについては未だ手をつけていない。
ヘルメットの後流を考えたカウルは、テストドライバーのブルツは装着しているが、レギュラードライバーのクルサードは未装着。

走行停止状態となった際にマシンを移動させる為の「ロープを通す部分」は、
モノコックに穴を造る事無く、エンジンのエアインテークの下に1枚の小さなステーを付けるだけでそれを作り出しており、
これはマクラーレンが2001年から始めたアイディア。

従来のマシンの様に、ボディ表面に穴を造る場合は空力上悪影響があるし、モノコックの剛性や重量面で不利に思う。
ロールフープに単に穴を開けただけの場合は強度剛性面で不利となるし、穴をモノコックの中でパイプ状とした場合は重量がかさんでしまう。
一方上記のマクラーレンの方法ならば気流に与える影響が極めて少なく済み、余計な重量増加はほとんど無く、
且つモノコックの設計も簡単に済ませる事ができる。
筆者は現行のレギュレーション下では、このマクラーレン方式が最良の手法であると考える。

このロープを通すステーの後ろの穴については、筆者はこれの内部通路を知らないが、エンジンカウル内の冷却通路になっているのだろうか?

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(このページの最新更新:2004. 1. 1
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