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フェラーリ SF70H  text & illustration by tw (2017. 2.24金〜3.28)

2017年 2月24日、フェラーリは2017年用マシン「SF70H」を発表した。
この新車の概観は、F1通信 等を参照。以下、車体の概観から筆者の私見を記す。



ノーズ先端中心のコブは、気流を少しでも多く、下方と左右へと別け、ノーズ下への気流供給量を増す様に努めており、
メルセデスのノーズとは真逆のアプローチだ。
ノーズ下面に接した気流は、Sダクトのノーズホールに吸い込まれ、それは上方へと吐き出される。
この様にして、ノーズ下の気流の運動エネルギーを損なわない様にしている。

フロントウイングの下には、ストレートなスプリッターが3枚づつ装着され、前輪へ向かう気流進路を綺麗にしている。

前輪ブレーキダクトは常識的なサイズで、インテークは横方向のフィンでたくさん仕切られた。
これは路面に落ちているラバーが入り込まないようにする為の工夫だろう。

モノコック上面の両端には3枚づつの狭幅のカナードが装着された。
これはフロントウイングが跳ね上げる気流進路をコントロールする目的だろう。
今年の新テクニカルレギュレーションで、このエリアで構造物を許可される幅が増された様だ。

現時点までの今年のニューマシンの内、初めてサイドポッド底面手前のボーダープレート形状が明らかになった。
この造形が可能となったのは、明らかにサイドディフレクターを装着許可された副産物だ。

サイドディフレクターは比較的、背の低い部類だろう。
しかしその底面プレート面積の広さは、新テクニカルレギュレーションを最大活用しようとしている事が窺える。

ルノーやメルセデスと同様、ポッドウイングの斜め前下に、垂直の大型プレートがあるが、
これには2本の水平スリットが切られている事から、このエリアの気流は縦方向に動いている筈だ。
そうでないと、間隙フラップ状とする意味がないからだ。

アンダープレート両端先端のボーダーフィンは2段構造で気流を裂いている。

SF70Hで最も特徴的なのが、サイドポッドのエアインテークで、非常に独創的な形状となった!
その手前のポッドウイングの水平エリアは、アッパーエレメントとミドルエレメントの2段構造となっている。
ポッドウイングを通過した気流は、いよいよサイドポッドのエアインテークへ充填されるが、
サイドポッド上面の前端の内側は口を開いており、この部分の気流進路は現時点ではまだ謎のベールに包まれている…。

サイドポッドインテークの開口量は小さく、この為サイドポッド側面へと流れる空気量はかなり多そうだ。
これは車体底面が横から吸い込んでしまう気流のシール性を高め、車体底面で発生するダウンフォース量に寄与する。

コークボトルは急速に絞り込まれており、ディフューザー上面へ強い運動エネルギーを与えようと云う姿勢が見れる。



インダクションポッドはオーソドックスな形状だ。
カメラと同じ幅のミッドウイングを装着している。

広めの面積のシャークフィンの上部後端には、昨日メルセデスが走行する際に着用していたのと同じタイプの薄いウイングがある。
これはリフト方向の翼断面に見えるので、これ単体はダウンフォースを発生せず、リヤウイングへ多く気流を向けるデバイスである可能性が高い。
今年の新テクニカルレギュレーションヘと書き換えられた際に、昨年までのリヤウイングの高さと幅の条項が一部残っているのかもしれない。
このウイングの空力的な効果は、縦方向のシャークフィンと横方向の薄いウイングを組み合わせ、リヤウイングへ整った気流を向ける役割だろう。

後輪のアッパーアームのアップライト側取り付け位置は、アップライトがやや内側へ伸びて、アッパーアームの長さを短く抑えている。
これはキャンバー変化など、ジオメトリーからの要求でこうなっているのだろう。

リヤウイングステーはスワンネックで、空力寄与の高い下側の気流を大切にしているが、
疑問なのはステーが2本である事だ。これでは純粋に、摩擦抵抗と干渉抵抗が増してしまう筈だが…。

リヤウイングの下にはモンキーシートがあり、翼端板の後部には縦のガーニーらしき物が見える。

SF70Hは独創的に攻めた空力コンセプトが窺えて、今年期待したくなる一台だ。
具体的な空力性能は、要所を捉えた写真が出るまで判断できないが、現時点で非常に面白いマシンである事には違いない。

ドライバーは引き続き、セバスチャン・ヴッテルとキミ・ライコネンのコンビだ。

(このページのここまでの最終更新日:2017. 2.24金

(2017/ 3/28火 更新)

開幕戦のピットで、SF70Hのサイドポッド上面の構造が判明した。
注目の上面の開口部は、上側からサイドポッド内部へ気流を取り入れる構造となっている!



気流イメージを着けると以下の様な感じとなる。(気流線の青い部分は低圧域で、赤い部分は高圧域を示す。)




ただ単にサイドポッド上面に開口部を設けても、そのインテークへ気流は入り難いだろう。
気流は圧力の高い所から低い所へ流れる性質があり、インテーク内は熱交換器がある為に圧力が増してゆくからだ。

しかし現在のF1マシンでは、角度が急なサイドプロテクター前部は高圧流となっており、
そしてサイドプロテクター外側で行う排熱も流速が遅く、圧力が高い。
この2つの高い圧力が、今回の開口部上側の後流の抵抗となる事で、SF70Hでは上面インテーク内へ気流を充填できているのかもしれない。

現在、他車ではサイドポッド上面では気流を絞る形状で、流速は高くなる筈だ。この場合、リフトが発生してしまう。
一方、SF70Hは上面の一部をエアインテークとする事で、そのリフトは発生しない。寧ろ、微かなダウンフォースとなるかもしれない。

尚、この上面インテークの前部は側面衝撃吸収構造のアッパーエレメント側を内包している筈だ。

今年のフェラーリは、ユニークで創造的な空力デザインであると評価できるし、今後の開発も楽しみな一台だ。

(このページのここまでの最終更新日:2017. 3.28火



(2018/ 3/28更新)
田宮製の1/20スケールSF70Hを購入した。以下、風洞映像。
(抗鬱薬とアルコール摂取につき発音が悪いのは諦めてください。)



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