マクラーレン MP4/19 text & illustration by tw (2003.11.25〜)

5. サービスホールとサスの機構



(上図)
MP4-18同様、モノコック上面の前方の角には、線が見える。恐らくサービスホールだと思われるが、
場所がモノコックの角なので、(サービスホールであれば) 強度上不利に思う。
この場所にサービスホールを開ける必要の有る、MP4-18/19のフロントサスは、一体どんな機構なのだろう?
MP4-17ではこの場所にサービスホールは見当たらない。

マクラーレンのフロントサスは、少なくとも1998年以降は、ミステリアスな機構を使用していたり、
又は一般的ではないレイアウトを採用している模様で、非常に興味深い。


6. サスアームと空力

1997年から2003年の中盤辺りまで、マクラーレンはフロントサスの前側アッパーアームが厚かったが、
MP4-17D後期型からMP4-19は普通の薄型アームとなった。
過去にアームの厚みをつけていた理由は、アッパーアーム内にタイロッドを通さない場合でも厚みがあった事から、
筆者は空力的な意味の可能性を考える。それは、前輪が巻き起こす渦流やノーズ脇の気流を、
厚いアッパーアームによって流れを一旦絞って整流する役目や、フロント・ウイングが跳ね上げる後流を安定させる等の可能性である。


(上図)
アッパーアームの車体側の取り付け部分は、
レギュレーション(10.3)で許される範囲内を、後方へ翼形に延長してあり、
ノーズに近いこの部分の、気流の道筋の安定させる役目をしている事が考えられる。


7. ミシュランタイヤ用のジオメトリーと、ツインキールの強度

フロント・サス・アームの角度を正面から観ると、上下アーム共に、車体側からタイヤ側へやや下がる方向。
この場合フロントのロールセンターは、一般的なレーシングカー論で言えば高めとなる。
この数年F1でミシュランタイヤを使用するマシンの多くはこういったフロント・サスとなっているが、
この設計理論については残念ながら筆者は未だ解き明かせてはいない。

ところで、ダブルウィッシュボーン形式のサスは、ストローク時にトレッド(左右のタイヤの間隔)変化が生じる。
トレッド変化とはタイヤが横方向へ移動する事なので、トレッド変化する際にはタイヤと路面の間に摩擦の抵抗が有る。
そして、タイヤは車体の空力的なダウンフォースにより強大なグリップを発生しているので、
そのタイヤを横方向へ動かすには、タイヤや車体の各部にそれなりの負荷がかかる事になる。

( バウンド= 車高低下/タイヤ上昇)
(リバウンド= 車高上昇/タイヤ下降)

マクラーレンがツインキール式を初めて導入した2002年当時のMP4-17は、上下アーム角度はほぼ水平である様に見える。
この角度の場合は、バウンド時にはトレッドが狭まりキールはロワアームによって外側へと引っ張られる力がかかる。
この場合、もしバウンド時にキール部が強度不足の場合には、左右のキール間にテンションロッドを設ける必要がある。
(MP4-17発表後のテスト走行で実際に導入されていた。)

一方、MP4-18/19のアームの向きは、車体側からタイヤ側へやや下がる方向なので、バウンド時にはトレッドは広がり、
ロワアームがキールを内側へ押す方向へ力を加える事となる。
この場合はキールの剛性を確保する手段は、テンションロッドでは効果的ではないので、キールの肉厚を増すしかない。

薄いキールで中央にテンションロッドを設ける方式と、厚いキールでテンションロッド無しの方式とでは、
キール部分だけで考えれば前者の方がDragが少ないかもしれないが、車体全体で考えると、
後者の方がテンションロッドが無い事で車体下の気流が有利となり空力効率が優る可能性が有ると思う。

ミシュランタイヤユーザーでフロント・サスアームを車体側からタイヤ側へ下げる設計については、
ツインキールのマシンの場合では、タイヤ側の都合だけではなくこういった理由もあるのかもしれない。

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(このページの最新更新:2003.12.22
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