11. 排気と空力と排熱
排気位置はMP4-18ではサイド・ディフュザー上だった模様だが、MP4-19ではボディ上面のチムニーからの排気となった。
サイド・ディフューザー上からの排気とした方がマシンの空力効率は優るのかもしれないが、
ディフューザーは空力に及ぼす影響が大きい為、エンジン回転数の変化による排気流の変動で、過敏な空力となってしまう事が考えられる。
MP4-18では走行テストの結果、ドライバーはマシンの挙動が予測困難な場合が有るらしい事や、
マシン全体の排熱の問題を抱えていた様なので、その対策としてMP4-19では排気流の変動が空力に及ぼす影響が少なめで、
排熱面でも都合の良いチムニーからの排気となったと思われる。
この他に、上方排気とした方が排気管長の設計自由度が大きく、エンジン性能面でのメリットも考えられる。
そのチムニーは、MP4-17Dの後期型から使われているデザイン。
他チームではもっと両端に離れた場所に有るが、マクラーレンではサイドプロテクターのスリップストリーム内に隠れる様にしてチムニーが位置している。
チムニーのサイズは、サーキットのコンディションごとに対応する為に交換可能となっている。
マシンを真横から観ると、排気口の位置は前寄りなので、カウル内で排気管全体が前寄りに纏められている事が想像できる。
これは、サイドポッドの後方への絞り込みから狭くなるカウル内で、排気管全体を前方へ寄せておく事で、カウル内の通路を広く確保する工夫。
このアイディアは、広角バンクの2003年のルノーで顕著だった。
マクラーレンはカーボン製のギアボックス・ケースを準備中であるらしく、
現在のMP4-19は従来と同じ素材(アルニミウム?)のケーシングを使用していると言われている。
個人的には筆者はここ数年、現代のF1でギヤボックス・ケースの素材はカーボンが最も優れた物になるという意見に賛成している。
製造時間以外の、サスからの応力を受ける剛性、強度、重量、ギヤの伝達効率、
ギヤボックス内部のオイル温度といった性能面で、カーボン・ケースの有利さは非常に大きいと思う。
1998年から99年にかけて、アロウズがカーボン・ケースを実践投入し、実用レベルまで開発を進めたが、
何故他のチームがこれほどまでにカーボン・ケースの投入時期が遅れているのか筆者には不思議に感じている。
写真からはアッパーアームは、前側を下段に、後ろ側を上段としたマルチリンク式に見える。
これはカウルの空力デザイン上の理由と、サスのジオメトリー上の理由からであると思われる。
アッパーアームの耐熱処理されている区間で、排気流の通り道が判る。
後ろ側アッパーアームの車体側取り付け部分は、耐熱強度が心配に見えてしまう。
まだサスの詳細は不明だが、ダンパーは、フェラーリと同じく回転式を採用したのだろうか?
それともギアボックス内に置くタイプだろうか?
前者の方がギアボックス幅を狭める為には有利であると言える。
2003年5月に発表されたMP4-18ではエンジンカウルの末端が垂直フィンとなっており、
その後にウイリアムズやザウバーが、エンジンカウルを尾びれの様に後方へ延長させるデザインを試していた。
この辺りはリヤ・ウイングへ向かう気流に影響を及ぼす。
今回のMP4-19では末端の垂直フィンは無くなり、インダクションポッドから後方へ単にエンジンカウルが長く延ばされた形状となった。
マクラーレンは2000年に、幅30cmのリヤカウルがセンターディフューザーと繋がるデザインとしていた。
つまりこの部分で上下が閉じるので、ギアボックス脇のカウル内の空気は横方へしか行く手が無くなり、
リヤのロワ・ウイング下側へと流れ込む筈である。筆者はこの手法の意味がよく理解できなかった。
2002年のMP4-17では一旦一般的なデザインに戻ったが、
MP4-18/19からは、幅30cmのリヤカウルがセンターディフューザーと繋がり、
そのカウルのクラッシャブルストラクチャー両脇部分には穴が空けられ、
カウル内の気流をロワ・ウイング上面へ排出するデザインとなっている。(ロワウイングとセンターディフューザーは一体化している。)
1997年からマクラーレンは“迷彩塗装”の様なカラーリングとなっており、形状の判別がし辛い。
ロワ・ウイングは、センターディフューザーと一体化した中央部以外は、やや前進した位置に有る。
ジャッキアップ・ポイントは、空力や軽量化の為に、中央の1本のみ。
テールランプの上面後端にはガーニーが付いている。
センターディフューザー側面フェンスの前後長はミドルサイズ。
2004年からのレギュレーションで、上段のリヤ・ウイング枚数は2枚までとなった。
これにより、フォワード・フラップを装着するには、リヤ・ウイングは間隙フラップ構造にはできない。
マクラーレンが2003年の開幕戦から投入した3D形状のリヤ・ウイングは、翼端流を改善する為のアイディアであると筆者は考えている。 (MP4-18のページ参照)
フォワード・フラップが使えなくなった為か、翼端板の切り欠きは小さめ。
2004年から1グランプリ/1エンジンのルールが導入される事もあり、
各チームより約2ヶ月も先んじてテスト走行を開始している意味は大きいと思う。
11月25日のテスト開始後から、スピード、操縦性、セットアップの変更による反応、
信頼性といったマシンの重要事項について特に問題を抱えている風でもなく、
テストを行ったドライバーのコメントも良好の様なので、
現時点では、MP4-19は2004年度チャンピオンシップの挑戦権を手にしているのだと思う。
そして筆者の注目するところは、これは他の全チームについても同じ事だが、
1GP/1エンジンとなったGPウイーク全体の戦略面と、
昨年一年間のレースを踏まえて決められた燃料タンクの容量などである。