マクラーレン MP4-25   text by tw  (2010. 1.29)

2010年 1月29日(金)、マクラーレンの2010年用マシン「MP4-25」が発表された。
写真は、GPUpdate.net等を参照。 以下、MP4-25の概観から筆者の私見を記す。


昨(2009)年車に比べ、ノーズコーン先端の高さは高くなった。
これにより更なる車体底面でのダウンフォース発生向上に寄与するだろう。
ノーズコーンの長さは、フロントウイング先端よりも少し前方に飛び出した位置。
標準的な長さで、これは何も問題は無いと思う。

フロントウイングはエレメント数が多い。
本来、間隙フラップ式とする意味は、ウイング下側の気流剥離を防止する為だが、
これだけ多くの間隙フラップが必要なのだろうか? それとも別の目的があるのだろうか?
もし必要以上に間隙スリット数が多いと、無駄に干渉抵抗が大きくなってしまう事が考えられる。
干渉抵抗とは、簡単に述べると、狭い隙間に気流が通過する際に流れ難くなってしまう現象だ。

フロントウイング翼端板は複雑な形状となり、文章では記述し辛い。(写真参照)
昨(2009)年からフロントウイングの最大幅が前輪の最大幅と同じとなった為、
フロントウイング翼端板の役割は、ウイング両端の気流を前輪の外側へ跳ね飛ばす様になった。
MP4-25は、他チームのマシンとは異なるアプローチで前輪に当たる気流の制御を行っている様だ。



フロントサスペンションは昨(2009)年同様、上下アームのハの字の角度が大きい。
これではフロント・ロールセンター高が異常に高くなってしまっている。
最早ビーグルダイナミクスは完全無視して、完全に空力性能を優先するコンセプトだ。

タイロッドは低い位置、ロワアームよりやや上にある。
ロワアームと同じ高さにするよりも空気抵抗は大きくなるが、
タイロッドが車軸に近い高さで操舵する為、操舵系の設計自由度は大きくなる。

プッシュロッドの車体側取り付け位置は高めにある為、
ピッチコントローラー(=サードダンパー)は恐らく立体ロッカーの下側に置かれている事が推察できる。

ブレーキダクトは、今(2010)年のフェラーリとは異なり、高い位置にある。
フェラーリF10はフロントウイング下側の気流をダクトに取り込んでいるのに対し、
MP4-25はフロントウイング上側の気流をダクトに取り込んでいる。



昨(2009)年同様、サイドポッドのラジエーター・エアインテークの開口量はかなり小さい。
これはメルセデス・エンジンの冷却要求量が低い事を意味し、サイドポッドの内部抵抗を少なくしている。
このコンセプトは車輌の空気抵抗の軽減に大きく寄与する。

サイドポッドは昨(2009)年のレッドブルに習い、上面の高さを後部へ向けて非常に大きく落とし込んであるが、
サイドポッド上面前端は気流を一旦かなり上方へ持ち上げる形状となっている。
これではサイドポッド上面に大きな揚力が発生してしまう筈で、筆者はこのデザインに非常に懐疑的だ。
ただしリヤビュー・ミラーはサイドポッド前方に配置してある為、
盛り上げたサイドポッド前端上面で、ミラー後部の乱流を整流し、且つリフトを軽減する効果はあるだろう。

サイドポッド両端前側の縦のベーンは上部しか無く、今後のアップデートで下端まで延長されるかもしれない。



エンジンの排気口はリヤサス・アッパーアームの上側で、丸まれたエンジンカウルの後部にある。
これはかなりタイトなデザインで、プッシュロッドの車体側取り付け位置を低く(=サスの作動性が低下する)
してまでこうした形としてある。

サイドポッド側面後部の下部の絞込みは異常なくらいで、これはエンジンの冷却要求量が低いからこそ達成できるデザインだ。
この狭く絞り込む効果は、車体底面へ横側から進入しようとする(=グランドエフェクト効率を低下させてしまう)気流の軽減、
リヤ・ディフューザーとリヤウイングの効率向上、後輪前部の高圧の軽減などがある。



エンジンカウルのシャークフィンは、昨(2009)年のレッドブルのアイデアをコピーし、
リヤウイング上面まで伸び、結合している。これはコーナリング時に、
エンジンカウル上端を気流が横から乗り越えて発生する渦流を軽減する効果があると思われる。

リヤウイング・ステーは中心に1本で、2本式より干渉抵抗が少ない。

リヤウイング翼端板の高圧排出スリットは細かく6つも切ってある。
これでは干渉抵抗が大きい筈だが、それよりもスリットの効果による翼端渦の軽減の方が空力効率が良いのかもしれない。

尚、MP4-25の空力学部門責任者はジョン・アイリーで、
彼はフェラーリ空力学部門の元責任者であったが、昨(2009年7月頃)にフェラーリから離脱し、マクラーレンに加入した。


(このページのここまでの最新更新日:2010. 1.29金 pm10:51


マクラーレン・メルセデス MP4-25 スペック
シャーシ
タイヤブリヂストン社製
ホイールエンケイ社製
ブレーキキャリパー、マスター・シリンダー、アケボノ社製
ダンパーKoni社製
ステアリングマクラーレン社製パワーアシスト
ボディワークSikkens製品を利用したアクゾノーベルのカウル塗装
無線ケンウッド社製
バッテリーGSユアサ・コーポレーション
トランスミッション
ギアボックスマクラーレン製カーボンファイバー・コンポジット
クラッチカーボン製
ギア数7速前進、1速リバース
ギア選択マクラーレン製シームレス・シフト、手動フライ・バイ・ワイヤ
エンジン
タイプメルセデス ベンツ社製 FO 108X
排気量2.4リットル
重量95kg (FIA規約が定める最低重量)
シリンダー8
最高回転数18,000rpm (FIA規定によるリミッター付き)
バンク角度90度
ピストン径98mm
バルブ数32 (=1気筒あたり4バルブ)
燃料エクソンモービル製、無鉛 (5.75%バイオ燃料)
スパークプラグNGK製
潤滑油モービル1

(このページのここまでの最終更新日:2010. 1.31日


この冬のテスト走行の写真で確認した所、ノーズ下面には、昨(2009)年のウイリアムズ風のセパレーターを装着している。
この形状でノーズ下の気流を左右へ別けている。
これだけ極端な絞り込み具合だと、この部分から後方へ強烈な渦流が発生しそうである。
筆者が想像するに、この渦流はモノコックに沿って、やがて層流へと近づき、
ラジエーター・インテークや、サイド・ディフレクター裏面へと向かわせ様としているのだろう。
この形状によって、結果的に「MP4-25」は、見た目よりもノーズ先端の高さが低い空力状態となる筈である。

極論してしまえば、ノーズ先端の高さは車体底面へのエネルギーの入力であり、
入力が大きい程に、出力(ダウンフォース)は大きく出来る条件が達成される。
車体底面へのエネルギーの入力が安定していれば、少ない空気抵抗で大きなダウンフォースを得る事が出来るが、
入力が少なくても気流変動量が安定していれば、
結果的に出力も安定(=変動量が少ない=ダウンフォース発生量が安定する)と云う事になる。

結論として云うならば、ノーズ先端の低いマシンは、
ダウンフォース最大発生量が少なくても、多少、少いレベルでも常に安定したダウンフォースを維持できると云う事になる。

筆者が観る限り、「MP4-25」には多くの開発の余地が在る。 今(2010)シーズンのマクラーレンの開発進行は要チェックだ。

(このページの最終更新日:2010. 2.10水 Am 6:28
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