ウイリアムズ FW41 text & illustration by tw (2018. 2.16金)
2018年 2月16日、ウイリアムズのニューマシン「FW41」が公開された。
このマシンの最高技術責任者はパディ・ロウ、チーフデザイナーはエド・ウッドだ。
マシンの写真は F1通信 等を参照。以下、車体の概観から筆者の私見を記す。
フロントノーズは昨年と同様のスタンダードな形状で、ノーズ下面から上面へ気流を引き抜くノーズホールがある。
ノーズホールはノーズ下面からその後方へかけて、境界層の成長を軽減する役割があるのだろう。
これは風洞実験設備の境界層軽減スリットと似ている。
フロントウイングは黒色なので形状がよく判らないが、これもスタンダードなデザインに見える。
昨年のメルセデスは、フロントサスのアッパーアームをホイールよりも高くして空力効率を高めており、
筆者は今年何チームがそれに追従するか注目しているが、FW41は従来通りホイール内部への接続位置だ。
その為、上下ウィッシュボーンの、モノコックから降りる「ハの字」の角度が大きい。
これはフロント ロールセンターよりも空力効率を重視した設計だ。
タイロッドは上下アームの中間に置かれ、力学的に無難なのかもしれないが、これはやや空気抵抗となる。
フロント プッシュロッドのモノコック側の接続位置は、モノコック上面よりもやや低いので、ピッチコントローラーをロッカー上側にレイアウトしてあると推測できる。
リヤビューミラーはトレンディな形状で、フロントウイングが跳ね上げた気流を押さえ込んで整流している。
"ハロ"を接続したサイドプロテクター後部は、内側への絞込みが急で、ここで気流が剥離しないのか不思議に思える。
が、最近のF1のサイドプロテクター後部のデザインはこういう傾向にある。
この辺りのサイドポッド上面の流速を低下させ圧力を高めたいという理由から、こういう形となるのかもしれない。
サイドポッド上面先端は気流を上へ絞り上げない、リフトを発生させない形状だ。これは明らかに昨年のフェラーリの影響を受けている。
サイドポッド上面の後方への沈み込みは非常に大きい。これは昨年のレッドブルのコンセプトに近いかもしれない。
今季からシャークフィン面積が規制されたが、その規定内で許されるであろう最大の面積の"カットされたシャークフィン"を備えている。
これはコーナリング時に気流がエンジンカウルの上を乗り越えて有害な渦を発生させるのを少しでも軽減したいからだ。
フィンの前部、つまりロールバー上のカメラの後ろには、幅がごく僅かな、水平の"皿"を備えている。これはシャークフィンのガーニーとして作用しそうだ。
リヤサスペンションのアッパーアームは水平に近く、ディフューザー効率を高める為にロワアームを高くしたい意図が推測される。
リヤウイングのステーはスワンネックで、どうやら昨年のフェラーリの様に2本で支持している様だ。
マシン全体を観ると、昨年からの進化型ではなく、基礎からコンセプトを見直した新型に見えるし、実際そうなのだろう。
ドライバーは、昨年から引き続きランス・ストロール(19歳)と、今年F1デビューとなるセルゲイ・シロトキン(22歳)という、経験の少ない若いペアだが、
このマシンのポテンシャルを十分に引き出せるのか、正しい方向へ開発を進められるのか、心配にならないと云えば嘘になるだろう。
しかし、リザーブドライバーとして契約したロバート・クビサが、シュミレーターで開発に寄与できるのは安心材料だ。
やっつけ仕事だがイラストで説明。黄緑がカナード、黄色がアッパーボーダーウイング、オレンジが縦のベーン、ピンクが"ハロ"だ。
写真で観えない箇所は筆者による想像でデザインした。
上のイラストでは描いていないが、フラットボトム規定を満たす為に、
カナードとアッパーボーダーウイングの下方に投影した形状以上の面積のアンダーボーダープレートがある筈だ。(でなければ出走できない。)
カナードはフロントウイングが跳ね上げた気流の進路を水平へ戻すが、空力寄与率はおそらく見た目ほど高くはない。
それよりも下方のアンダーボーダープレートの形状が重要だろう。
過去にトヨタF1の人物が証言しており、「もしサイドポッド上面にアンパン一つ乗せても見た目ほどの害は無いが、車体底面に髪の毛を1本セロテープで貼り付けたなら空力性能は大ダメージを受ける」と云う事だった。
ただし、カナードとアッパーボーダーウイングは連携して作用している筈なので、筆者は一概にカナードを否定する訳ではない。
上段では、カナードよりアッパーボーダーウイングの迎角の方が効くと筆者は考える。
アッパーボーダーウイング底面が高圧域となり、車体底面へより多くの気流を供給し、グランドエフェクト(地上効果)を高める筈だ。
グランドエフェクトによる空力効果は、最も少ない空気抵抗で最も大きいダウンフォースを生み出す為の最も効果的な手段なのだ。
このアイディアは、従来のただの垂直なシャークフィンよりも更に積極的なアプローチで、高く評価できる新しいアイディアだ。
昨年のシャークフィンは、コーナリング時にエンジンカウルを乗り越える乱れた気流がリヤウイングへ悪影響を及ぼすのを軽減していたが、
今年のY字フィンは、それを乗り越えようとする気流に渦巻きの進路を与え、文字通り大きなガーニーフラップの様な効果を発揮するだろう。
つまり今年は、このページの上で説明した様に、シャークフィンの面積が制限されたが、
その規定の中でもコーナリング時に少しでもリヤウイングへ良質な気流を供給しようという意図が見て取れる。
他チームは既にCFDや風洞でこれを検証していると思うが、効果的なら今年の流行デバイスとなりそうだ。
尚、筆者による上図のレイアウトよりも、「FW41」のインダクションポッド頂点の水平部分の前後方向の長さはとても長い。
これは筆者のCG(3300mm)よりもホイールベースが明らかに長い事を意味している。
そして、ある程度自由になったモノコックの前後位置は、前輪車軸に対して前寄りかもしれないが、果たして?