2009〜2015年シーズン F1マシン空力トピックス text by tw
メルセデス:リヤウイングはベルギーGPで使用した物ではないが、スプーン型で、
モンツァ用低ドラッグ/低ダウンフォース仕様の専用タイプを使用した。
ウイリアムズ:リヤウイングのフラップの最大高を、規定一杯よりも低くマウントした。
翼端板は従来通り、規定一杯の高さの高さまであるので、この組み合わせは翼端渦を低減できる。
リヤオーバーハングにある物体は全てモーメントとなり、リヤのダウンフォースとなる為、
同じ形状のリアウイングであれば、高く、後方にある程ダウンフォースを増すが、
今回のウイリアムズは翼端渦の低減による空力効率向上の方を重視していた。
ザウバー:メルセデスとは逆に、中央が寝ており、両端が立ったリヤウイングを使用したが、これも翼端渦を低減する方法だ。
今回のザウバーの場合、ウイング下面の流れを斜め外側へ排出し、
ウイング外側からウイング後部へ入り込もうとする翼端流を阻害する。
マクラーレン:トップグループに比べ、コーナーでコンマ数秒、ストレートで3秒程遅いというコメントが出た。
モンツァサーキットは4本の長いストレートがあるが、ホンダのパワーユニットは回生発電で貯め込めるエネルギー量が少ない様で、
ストレート後半では電気によるパワーアシストが切れてしまっていたと見られている。
つまり他チームはストレートエンドまでプラス160馬力のモーターアシストがある一方、
ホンダのパワーユニットはストレート途中からIC(エンジン)だけの出力しかなかった。
メルセデス:中央部が大きいスプーン型の3Dリヤウイングを投入した。
これはウイング両端の角度を寝かせ、L/Dを追求する上で有害な翼端渦を軽減できるアイディアで、
こういった3Dウイングを最初に実戦投入したのは、2003年のマクラーレンであったと筆者は記憶している。
直線のウイングよりも、翼端板部分の内外の、局所的な圧力差が大きくならない為に誘導抵抗を軽減できたと説明できる。
リヤウイングのステーは1本となり、それと合わせてウイング全体のたわみ量を規制する補強材も中央部の1本のみとなった。
これにより摩擦抵抗が軽減している筈だ。
低めのダウンフォース仕様だが、フラップの両端はカットしていない。
モンキーシートも気流跳ね上げの弱い1枚翼だ。
フェラーリ:ディフューザー上面後部の両端に、意図的な細かい渦流を発生させる板を装着した。
こういった改良は、風洞の可視実験での評価が正確に行える様になった産物かもしれない。
フロントウイングも詳細が変更され、カスケード上のベーンは外側へ更に急な角度がつけられた。
フォースインディア:ようやく2015年仕様のマシンとなった様だ。
新しいノーズ上面には2つの穴が開けられ、文字通り鼻の穴となっている。
この気流はまずノーズ上面から下面へ流れ、その流量の一部は下面からノーズホールが開くモノコック上へと進む。
鼻の穴の役割は、規制されたハイノーズの代用と考えられる。目的は気流を下へ多く供給する事だからだ。
尚、ノーズの穴の下にはスプーンの様な下皿を備え、真上から見た時に路面は見えない。
これは鼻の穴を通った気流が下方へ向かう角度をコントロールする意図もあるのだろう。
マクラーレン:ノーズホール仕様のノーズコーンを使用している。
これはフォースインディアの鼻の穴ではなく、ノーズ下からモノコック上へ通風させる物の様だ。
メルセデス:もしかしたら以前から着いていたかもしれないが、
モノコックサイドの、ミラーの下の位置に、間隙式のミドルボーダーフラップを装着している。
これはフラップ下面の圧力を増し、車体底面が空気を吸い込み易くしている。
ただしボディワーク規定の制限からフラップ幅は短い。
フラップ端で起きる渦を、サイドポッドのアンダーカットの流れに利用しているかもしれない。
ウイリアムズ:前戦のカナダGPあたりから、ミラーの下に水平のフィンを装着している。
フラットボトム規定を満たす為に、少なくともフィンの下へ投影した面積はアンダープレートのボーダーフィンがある筈だ。
ミラー下のフィンよりもアンダープレートのフィンの方が遥かに空力寄与度が高い為、
開発の結果出てきたアンダープレートのフィンが在るから、ついでにその上方にも何か着けようか、というくらいの物かもしれない。
トロロッソ:リヤサスのロワアームが、メルセデスのフロントの様に、前後スパンが短い物となった。
これは前側ロワアームの取り付け位置がパワーユニット後端よりもずっと後退した場所とされ、
前側ロワアームと後側のロワアームが密接する事で、1セットの前後に長いアームとなり、空力に活用している。
アーム剛性は低下しているが、現在のピレリタイヤはスリックの割りにグリップが低いので耐えられるのだろう。
マクラーレン:アロンソに新しいショートノーズを投入した。
幅は広く、左右の高さが高くなり、車体下へ多く空気を取り入れている。
他のいくつかのチーム同様、規定をクリアする為に中央に前進したコブがある。
レッドブル:リヤサス・アッパーアームの、アップライト側取り付け位置が高くされた様だ。
これはサスペンションの性能を変える変更で、トラクションが向上したという。具体的にはリヤのロールセンター高が変わる。
そしてレッドブルチームで良かったのはドライバーの戦略だった。レース終盤にセーフティカーが入った後、
リカルドが先行マシンを抜く事ができなければ順位を返すという条件で、クビアトとリカルドは順位を交換し、アタックが成功しなかったので元の順位へ戻した。
レース結果はクビアトが4位、リカルドが5位と、レッドブルとしては今シーズン最多のポイントを稼いだ。
パワーユニットの出力があまりラップタイムに寄与しないコースという理由もあるだろう。
フェラーリ:空力パッケージがアップデートされたが、メルセデスに追いつける程の効果は得られなかった。
バルセロナは空力性能がラップタイムに寄与する率が高いサーキットで、フェラーリが得ていたデータより期待の持てない結果だった様だ。
サイドディフレクターは間隙型の3枚構成となり、後方へ、より運動エネルギーの高い気流を供給する仕様となった。
サイドポッド両端前部のベーンは、レッドブルの様に箱型に折り返す形となり、上部で細かく気流を制御している。
マクラーレン:サイドポッド上面前端のフィンのRを確認できた。
Rは大きく、後方へかけて明らかに、気流を意図的な乱流を供給している。
クラッシュテストに通過する為にサイドポッド上面には厚みがあるので、
上面へ気流を絞る分、流速が上がりリフトが発生する危険があるので、
そこで故意に気流を乱し、リフトの発生を抑えていると考えられる。
ザウバー:このページのオーストラリアGP後の記事で筆者が予想していたが、
空力が重要なバルセロナであまり良いペースではなく、予選ではマクラーレンに遅れをとった。
決勝リザルトは、メルセデス、フェラーリ、ウィリアムズ、レッドブル、ロータス、トロロッソ、ザウバーの順で、
マクラーレンのバトンには逆転したものの、
フェラーリよりも出力が低い筈のルノーのパワーユニットを使うトロロッソに負けてしまった事を考えると、
絶対的な空力効率はやはり高くないのかもしれない。
メルセデス:リヤウイングのフラップは、中央だけでなく両端も切り欠いている形状を使用している。
これはMaxのダウンフォースを求めるより、翼端渦の低減を重視した形状だ。
フェラーリ:ターボチャージャーの搭載位置が低く、排気管が下からギヤボックスを突き抜けて上面へ現れている。
これは単純に構造物の重心を下げる目的だろう。
今のターボV6規定となった時、筆者はターボの位置を下げ様とギヤボックス前端を低くしようとデザイン作業を行っていたが、
(昨年に開発した)今季のフェラーリはそうはせず、「ギヤボックスを貫通させてしまえ」という発想が創造的だ。
リヤブレーキキャリパーは、アップライト下側にほぼ水平に置かれ、近年ではもう普通のレイアウトだが、
これはロワアーム位置が高く、キャリパー設置の邪魔をしない位置にある事から可能になっている。
ロワアームを高くしている理由は、ディフューザーの気流を邪魔しない為という事が大きいだろう。
トロロッソ:中国のホームストレートで煙を吐いて止まったが、
その煙はインダクションポッドの下側のエアインテークから出ていた。
オンボードの挙動からして、後輪がロックして止まった様子なので、
ギヤボックスからの煙がこの通路を経て出てきたと理解していいだろうか?
トロロッソ:パフォーマンスは、同じルノーのパワーユニットを使うレッドブルを上回っていると見ていいだろう。
リヤウイングステーはどうやら中央の排気管を突き抜けて、垂直な形状をしているかもしれない。
排気管の中に板を設ける手法は過去のマシンにもあり、排気抵抗はあまり増さないのかもしれないが、
物がリヤウイングの支柱なので、排気熱による安全性の問題は大丈夫なのだろうか?
マクラーレン:ノーズホールを投入した。これは然程大きくはない通路なので、
ノーズ下面に沿う空気の流速低下を改善する狙いかもしれない。
メルセデス:車体、パワーユニット共に、仕上がりに文句のつけ様が無かった。
ノーズ先端にはコブが無いコンサバティブな物だが、ダウンフォースは十分の様だ。
ただしノーズ下には空気の筒状の通路の構造がある様で、ここは今後要観察が必要だ。
細かいところでは、新車発表後から冬のテストの間に、FIAからノーズのカメラ取り付け方法に注意がされ、
ガルウイング風ではなく、垂直の板で取り付けられている。これはフェラーリも同様だ。
フェラーリ:車体、パワーユニット共に、昨年に比べ大きく前進した。
フェラーリのパワーユニットユーザーは、ストレート速度が高く、オーバーテイクも見られた。
サイドポッドのコークボトル絞り込み方が、上から観た時に昨年は凹カーブであったのが、今季は凸カーブへ改められた。
コークボトルにつけられたRが凹カーブであると、進行方向へ流れの圧力が上昇し、気流の失速の危険性がある。
ザウバー:車体も非常に良い仕付けで快走していた。昨年苦しんだ重量の問題は解決してありそうだ。
ただしメルボルン市街地サーキットは絶対な空力性能が支配するコースではないと考えられ、
それは今後バルセロナの様なトラックで試されるだろう。
レッドブル:コーナーでパワーオンすると滑り出すと言う話もあったが、出力は大して上がっていない印象もあり、
リヤエンドの掴みが足りないか、パワーユニットのドライバビリティが悪いか、その両方か、の、3つが考えられる。
コーナーの中間から脱出時に、ヴェッテルが独走していた時代と比べてリヤがベタッと張り付いていない印象を受けた。
フォースインディア:冬の発表時と最初のテストでは暫定のマシンだったが、
完全な新車では、モノコック上に幅広のノーズホールが開いている。その空気の取り入れ口は映像では確認できなかった。
マクラーレン:パワーユニットの信頼性から、MGU-Kの出力を抑えて出走した。
ダウンフォースが少ない様に見えるが、これは設計云々ではなく、セットアップ不足が根本的な問題だ。
トロロッソ:レッドブルを模範した、ノーズホール仕様のノーズを使用している。これは筆者がテレビで観たところ前戦の日本GPから投入している様だ。
このノーズホールは、ノーズ高の規定をクリヤする為の先端の構造物正面にエアインテークを開け、そこから入る空気をノーズ上面から抜いている。
BSのテレビ放送で解説された通り、先端の構造物の正圧を低下させる効果があるが、筆者はこの空力デザインの手法に懐疑的だ。
何故ならば、マシンの中に余計な流路を増やす事は、空気抵抗の内の干渉抵抗を増してしまう事と、
ノーズ前方の空気を上方へすくい上げる事は、車体下方へ供給する空気流量を低下させてしまいダウンフォースの発生を損ねるからだ。
クビアトは予選で活躍したが、一概にフロントセクションのアップデートのお陰とは言い切れないと思う。
メルセデス:最高速の高いスパ用の低ダウンフォース仕様のリヤウイングを使用した。
2つのスロットギャップフィンを境目に、フラップ後縁が3つの弓の様にカットされた形状だ。
スロットギャップフィンの箇所を通る空気は流速が低下するので、気流を跳ね上げる力が減少する。
その為、全体的にスムーズにリヤウイングの気流を跳ね上げられる様に、3弓形状とされた様だ。
マクラーレン:少し風変わりなリヤウイングを使用した。これはフラップの“前縁が”ノコギリ状の形状となっているのだ。
これはリヤウイング下面を通過する早い時点から、意図的な小さい渦流を作り出し、フラップ下面の剥離を防止する。
尚、スパの低ダウンフォース仕様として、メインウイング下面の両脇が持ち上げられたデザインを使用した。これにより有害な翼端渦を軽減できる。
フェラーリ:今季のフェラーリはホイールベースが長い。これは空力面でメリットがある事と、ビークルダイナミクス面でグリップ向上が期待できる為だ。
このホイールベースの延長に伴い、オイルタンクとMGU-K(制動時の回生発電機兼パワーアシストモーター)の設置場所を、ギヤボックス前部に移動した。(これは筆者はギャンブルであると思う。)
その目的はおそらくリヤを細く設計し、空力面でアドバンテージを得る為だろう。
しかし大きな弊害は、車体前後重心位置から離れた場所に重いオイルタンクとMGU-Kが設置された為、慣性モーメントが増してしまった事だ。
メルセデスとルノーは、MUG-Kをエンジン横側で、前寄りに設置している。
ケータハム:予定通り、全く新しいノーズコーンを投入した。
以前までのハイノーズではなくなり、規定を単純に満たす簡素な形状となった。
筆者が推測するに、これで使用してきたノーズは、ハイノーズ下面の両脇で有害な渦流を発生していたと思われるが、これが新型では解消されたと思う。
尚、塗装はグリーンとブラッグのカラーリングで工夫され、観た目に格好良くされている。
ウィリアムズ:メルセデス製のパワーユニットを使用している事から、
現在首位を独走しているメルセデスチームの様に、吸気コンプレッサーをエンジン前側に配置する改良が可能で、
それが今回のグランプリから行われ実戦投入された様だ。
これにより従来の手法よりもインタークーラーの冷却要求量をだいぶ軽減でき、車体の空力効率をかなり向上できる。
実際、ウイリアムズのレース結果はメルセデス勢に次ぐ3位と4位となった。
一方でフェラーリとルノーのパワーユニットは、エンジン開発凍結レギュレーションの中で既に
エンジン後ろ側でターボと吸気コンプレッサーを1セット化してあるので、今はこの改造が出来ない。
レッドブル:ノーズ上面の化粧パネル内に隠したカメラの搭載方法がFIAから禁止され、
カメラはメルセデスやフェラーリの様な、付け根がV字のアングルでノーズの左右に装着した。
これによりカメラが露出する分、従来の手法よりも空気抵抗が増すが、
ノーズ上面が左右へ別ける気流の導き方と、気流進路変動の安定化などにカメラは利用できるので、
一概にデメリットだけという事にはなっていないかもしれない。
実際、フットボックス下のディフレクターの形状も若干変更されており、
ノーズ周りの空気の流れ方が変わっている可能性が大きい。
カメラの内包が不要となった事からノーズ上面の段差も解消され、サイドポッドへ向かう気流進路も変わっているだろう。
フェラーリ:リヤウイングの支持方法を新しくした。メインのステーは1本となり、下方の排気管の箇所で二つに別れる、上下逆Yの字型だ。
メインステーはスワンネックに近い構造となり、空力性能で重要となるウイング下面の気流を良質化している。
尚筆者は、昨(2013)年12月11日に本サイトで公開したF1マシン・デザインで既にスワンネック型リヤウイングを掲載してある。
これは今回のフェラーリ同様、モンキーシートの接続にも利用している。
メルセデス:W05用の本来のノーズコーンを投入した。
開幕戦から使用する予定だったがFIAのクラッシュ・テストに3回失格し、今回ようやく正面衝撃テストに合格した。
新ノーズはマシンのバランスをとりやすくするとチームはコメントしている。筆者が推察するにL/Dも良くなるだろう。
このノーズ先端は従来より高く、車体底面へ多くの気流を供給し、ダウンフォースの増加に寄与している。
開幕戦のノーズと同様フロントウィングのステーはやや太いが、これは規定で最小限のノーズ横断面をクリヤする為の厚みだ。
マクラーレン:新しいノーズコーンを実戦投入した。
これはトロロッソの様に、ノーズ先端の左右の部分を高くした物で、車体下方へより多くの気流を供給している。
今季から規定でリヤウイングの下段が禁止されたが、マクラーレンのリヤサスは従来のリヤウイング下段の代わりになる設計なので、
今回のハイノーズ化は車体底面での最大ダウンフォース発生量の増加だけでなく、リヤエンドのダウンフォース獲得にも寄与するだろう。
フェラーリ:新しいフロントウイングとサイドポッド・ベーンを使用した。
まずフロントウイングは前縁上方のカスケードウイングが、外側に丸みをおびた形状となり、
これでフロントウイングの後流を、以前の仕様とは違った流れ方としている。これは車体全体の空力に影響を与える改良だ。
サイドポッド両脇のベーンは昨年のマクラーレンの様に、サイドポッド側面だけでなく前縁上方まで囲う形となった。
これにより前輪の回転で巻き起こされた乱流の整流効果と、サイドポッド上面後半のストール防止効果が期待できる。
実際、カナダGPでのフェラーリのレースペースはなかなか速く、今回のアップデートは成功した様だ。
ロータス:前GPから引き続きダブルDRSのテストが実施された。次のレースまで1ヶ月あるので次戦スパから投入できるかもしれない。
尚、ハンガリーではノーズコーンの下側に丸みをおびた膨らみが設けられた。
これは筆者の空力デザイン(2012年01月15日)と似通っている。
こういったノーズ形状は、90年代にベネトンが用いていた。
フェラーリ: 空力のやや大幅なアップデートを施し、サイド・ディフレクターが非常に特徴的な物となった。
これはディフレクターの両端を複雑で立体的な、ボーテックス・ジェネレーター(渦巻き発生装置)の形状とし、
空力デザイナーが意図的に発生させた複数の渦流を、車体底面と側方へ供給し、そのエリアへ気流に大きな変化を与えている。
これは空力変動の安定性やエアロマップに大きく影響を及ぼす空力開発だ。
ロータス: フリー走行でライコネン車で新空力デバイスをテストした。
これはリヤウイング中央にやや太い1本の支柱を新設し(おそらく気流通路の中空管構造となっている筈だ)、
そしてエンジンカウルの末端をトンネル状の排出口として、結構な量の空気を排出させている。
この排出力を助ける為に、ボディワーク規定で許された中央150mmエリアにトンネル状フラップを設けて低圧化し、空気を吸い出しに寄与している。
海外メディアの[スカイ・スポーツF1]からは、あのデバイスは間違いなく空力性能のメリットの為で、
そしてメルセデスのダブルDRSとは異なり、フロントウイングへは空気を供給してはいないと報じている。
筆者の視点からもこのシステムの仕組みはまだ不明だが、現時点では実験的な開発レベルにある様だ。
レッドブル: サイドポッドからリヤ周りヘかけて大規模な空力アップデートが行われた。
サイドポッドのコークボトル・ラインは下部だけとなっており、サイドポッド上面は幅が広いままの形状とされた。
サイドポッド上面をコークボトルとしない理由は、エンジン吹きかけ排気と一体の空力コンセプトからだ。
今回のボディワーク変更で空力感度の強い部分は、サイドポッド下部のコークボトルとその気流の行方だろう。
サイドポッド側面下部の気流は、このコーク・トンネルで吸い込まれるが、その進路は2つへ別れ、
カウル沿いの気流はリヤ・ディフューザー中央部へ、外側の気流はサイド部分のディフューザーへ向けられる。
他チームから、これは違法なダブル・フロアではないのか?という声もあった様だが、
アドリアン・ニューウェイは今回の空力アイディアを検討するにあたり、レギュレーションを綿密に読み直したと記事で上がっている。
尚、モナコGP後に指摘された後輪手前のフロアには、気流を下方へ向ける穴があらためて開かれている。
マクラーレン:
このレースでルイス・ハミルトンは優勝し、マーティン・ウィートマッシュはレース後のコメントで、
「最後にアケボノ(曙)に敬意を表したい。彼らのブレーキキャリパーは、
F1シーズンで最もブレーキングに挑戦をもたらすサーキットで素晴らしい対応をみせた。」 と話した。
しかし一方でジェンソン・バトンは開幕戦での優勝以来、低迷から抜け出せずにおり、
ドライバー本人も、1.5秒も遅い理由が全く理解できず、完全に謎な状態だとコメントしている。
バトンは過去様々なマシンを上手く走らせてきたので、遅い要因がドライバーのスランプという事はなさそうだが…。
フェラーリ:
ようやく他チームと同じ様なタイプの、マクラーレン式のエンジン排気口とそれに対応した仕様の空力カウルを投入した。
これは排気管エンドの形状と向き自体が規定で制限されている中、ボディワークの空力デザインで排気流を下方へ向け、後輪内側へ「吹きかけている」。
今季の規定下では、昨年までの「吹きつけ」程の流力の達成は技術的におそらく不可能だが、
「吹きかけ」程度の弱い流力でも、空力性能へ寄与するなら得よう、という開発姿勢だ。
アロンソ、マッサ共に好調だったので今回のアップデートは成功だ。
レッドブル:
開幕戦から後輪手前のアンダープレートに開口部があり、他チームから「穴が規定で許されるよりも広い」と指摘があったが、
前戦のモナコGPの後でFIAから正式に使用禁止の通達があり、今回カナダGPから完全に塞いだフロアを使用した。
しかし後輪とディフューザー付近の気流制御は空力的に重要エリアである為、
今後、合法な穴開き仕様のアップデートが施される可能性が高い。
そしてフロアの穴だけでなく、「可動空力パーツである」と指摘されたホイール・ハブも修正した物を使用した。
以前の物は、ホイールを直接取り付ける部分のハブに細径の穴が複数貫通しており、ブレーキダクトからのエアを流していた。
それは回転によりホイール内で巻き起こる乱流を外方へ排出する空力アイディアで、
純粋なブレーキ冷却目的ではないという理由から禁止となった。(テクニカル・レギュレーション 3-15項 違反)
尚フリー走行では、ベッテル車の前後中央・左側に大掛かりな気流センサーを装着してデータを収集していた。
これはエンジンカウル側面からサイドポッド側面までセンサーが広がり、風洞・CFD・実走行の相関を確かめる目的と考えられる。
リヤの上下ウイングは、気流を可視化する為の蛍光緑色の塗料が塗られ、気流進路を確認していた。
ウィリアムズ:
ローダウンフォース仕様で新しい形状のリヤウイングを投入した。
これは前から見てマルボロのマークの様なウイング形状で、ウイング上縁は水平だが、
ウイング下面は両端が下がり(跳ね上げ量が大きく)、中央は高く(跳ね上げ量が少なく)なっている。
この空力処理は、ウイング下面の気流を斜め上・外側へ跳ね上げ、結果的に翼端渦を抑制しようという物と考えられる。
フェラーリ:今回のスペインGPから、新しいリヤウイングを投入した。上段ウイングはマクラーレンを模範した形状で、
ウイング&フラップの端が、翼端板の高圧排出スリットと小さなRを持って連結してある。
そして翼端板・側面には、ガーニー状のフィンが3枚程 装着された。
これは意図的に小さな渦流を発生させ、気流の状態を制御している。
テクニカル・レギュレーションで、リヤウイング翼端板のエリアには幅20mmの自由なデザイン空間が与えられている。
この20mmのエリアに色々なデバイスを着ける事は、筆者も6年に発案している。
レッドブル:後輪のアップライト・カウリング形状をアップデートした。複雑で立体的な構造となっている。
これで、車軸、ディスク、キャリパー、ホイールの内周に、冷却エアを通している。
尚、現在でもブレーキ・キャリパーは下側に置き、重心高を低めている。
ウィリアムズ:リヤブレーキ・ダクトに、小型の縦型ディフレクターを追加した。
これでディフューザ上面の前後に伸びた背の低いフィンと合わせて、後輪側面下部を通る気流を綺麗にしている。
F1誌に、レッドブルのノーズを取り外したモノコック先端の写真が掲載された。 左のスケッチは立ち観で済ませずをえないボンビーな筆者の適当な記憶から。 (同情するなら広告バナーをクリックしてくれー!(ワオーーン!) くれー!(ワオーーン!) くれー…!(ワオーーン…)
今シーズンのレッドブルは、新車登場時からノーズ上面のエア・インテークが注目されているが、 |
また、今季のマクラーレンは、ブレーキ・ディスクの冷却穴を「X」の形としている様だ。
これは通風抵抗が大きい筈だが、これを逆手に取り、
車速が高くなる長いスロットル全開区間でブレーキを過冷却させなくする効果があるかもしれない。
そしてブレーキダクトのインテークにメッシュを張っている事があるが、
これは今季の新しいピレリ・タイヤが路面に落とすマーブル(擦り千切れたラバー)の量が不確定な事から、
それを吸い込んでしまわない様に、安全の為にメッシュで防御しているのかもしれない。
フェラーリ:第17戦インドGPでは、レッドブルの様な「ラジエーターの排熱をギアボックス上側から大砲型に排出する手法」を試したが、
次戦のアブダビGPでは大砲型のボディワークは使用しなかった。
これはアブダビGPの開催時間が夕方から夜の始めなので気温が低い為、冷却要求が低い事が理由かと思われる。
それと、今季のフェラーリの元々のマシン設計が大砲型を前提にしていない為、
冷却を大砲型としても空力効率があまり良くないのかもしれない。
大砲型とするには、サイドポッド内からエンジン系統と、エンジン排気管の形状対応が必要となる。
ルノー:サイドポッド両端手前の縦のベーンの改良が確認できた。
これはベーンの上端を外側へ折り返した形状で、気流進路と小さな渦の(意図的な)発生をコントロールしている。
こういった細部の開発は、CFD(=コンピュータ・フルード・ダイナミクス=数値流体解析)が得意な分野で、効果を確認し易い。
そしてルノーのサスは、ここ数年独特な物だそうで、開発首脳陣の1人のエンジニア(日本人)の語りでは、柔に「いなす」脚との事。
且つ、イナーター(慣性ダンパー)は現在 未使用なのだそうだ。これはマクラーレンとは真逆のアプローチだ。
オイルダンパーはストローク・スピードを、イナーターは入力・出力の周波数変化を制御する。
1995年にティレルが、油圧配管と謎の操作装置による「ハイドロ リンク サス」を実戦投入し、完成に至らなかった様だが、
最近のリヤサス・プルロッドのF1では、ユニットが外から観えないだけに色々と勘ぐってしまい、それはそれで楽しみがある状態なのかも。
図解の参照:フェラーリの特徴的なリヤサス構造 (2008.12.26掲載)
ウイリアムズの特徴的なフロント・サス (2010. 4.19掲載)
レッドブルを筆頭に殆どのマシン: 近年、もう後輪ブレーキダクトのエリアは完全にダウンフォース発生装置として利用されている。
エンジン排気流の吹きつけ加速は、ディフューザーだけでなく、明らかにこのアップライト・フラップと連携させている。
この辺りの完成度で、そのマシンの空力デザイン・レベルにある程の度察しがつきそうだと云っても良いかもしれない。
ただこの空力システムは、後輪のストロークによって気流の状態が変化する訳で、
現状の空力エンジニアが行う仕事の意味や必要性を考えれば、現行の車輌規定は早く見直すべきではないだろうか。
フェラーリ: 今季のマシンでは、リヤサスペンションのロワアームは高めの位置とされている。
こうするメリットは空力面で、ディフューザーになるべくクリーンな気流を通そうという意図で、
勿論エンジン排気流の吹きつけ効果の質も良好とできる。
デメリットは、剛性確保による重量増、重心が高くなる事、上下ウィッシュボーンの取り付け位置自由度が制限される事。
そしてリヤのロールセンターも高くなると思うが、近年のF1ではロールセンターやロール軸はほとんど無視で、
全てをエアロダイナミクスの為に!と云った感じが現状だ。
フォースインディア: リヤエンドは供給を受けている為にリヤサスをプルロッドとせざるをえないのかもしれないが、
ギアボックス・ケーシングの中を観て驚いた。何と、ダンパー等のリヤサス車体側ユニットが、ギアボックス上面の裏面、
つまり上部に配置されているのだ。
リンクは、まずプルロッドがギアボックス側面下部のロッカーを引っ張り、
そのロッカーはギアボックス内部で縦に配置された太い棒を回転させ、
太い棒の上端がセカンドロッカーを作動させ、ダンパーと繋がっている。おそらくダンプでプル・ストロークだと思う。
無意味にかなりの重量増と重心高upだと思うが、どういった事情で各ユニットを下部へ配置できなかったのだろうか。
メルセデス: リヤサスのプルロッドは色からしてカーボン製の様だ。(実は金属製で黒く塗装してあるのならもう見分けつかんが。)
トルコGPあたりから後輪周りの気流制御が行われており、
後輪手前のアンダーパネルに、背の低い、車体内側へカーブさせたベーンを装着している。
ベーンの背が低い理由はおそらく、「フェアリング等の装着を禁止する為に、サイドポッドの端のRは75mmを下回ってはならない」
という規定が適用される高さのギリギリの位置だと思われる。同じ理由が、排気管や、下部シャークルーバーの高さ上限に適用されている筈だ。
ザウバー: スペインGPから空力をアップデートし、ノーズコーン両脇下側のバーティカル・スプリッターは、前後2枚構成となった。
前側のスプリッターはノーズの両端にあり、後ろ側のスプリッターはやや内側から生えている様だ。
こういった細かい調整が行えるのは、空力開発が良い状態で進んでいる状況を推測できる。
もし根本的な変更が投入される場合は、新アイディアが誕生した時か、元が失敗作だったかのどちらかの可能性が高いからだ。
メルセデスMGP W02:サイドポッド上面両端前部に、ミニ・縦ダクトの様な物がある(様だ。たぶん。99%)。
これは昨(2010)年にマクラーレンが登場させたアイディアの応用で、
速度の遅い熱気を排出する事で、サイドポッドの上側と側面の気流を、より明確にエリア分けさせている事が考えられる。
フロントウイングは、メイン・ウィングの左右のそれぞれの中間(←こんな日本語はあるのか?)にスロットを開け、
このエリアを事実上の4枚エレメント化している。
これはフロントウイングの機能だけの理由ではなく、車体底部へ向かう後流と密接な関係があり、
ウイング一つだけを取り上げてそれが有効か否かと云う事ではない。
フォースインディア:前輪のブレーキ・キャリパーを、前側斜め下に配置している。これはフォーミュラカーでは珍しいかもしれない。
ノーズ・コーンは新型が用意された。従来型は下面を一旦下方へ膨らませていたが、新型ではノーマルでスマートな断面形状となった。
重要で大幅な変更部分はノーズ下側で、2009年のウイリアムズや2010年からのマクラーレンの様な、
気流を左右へ分けるセパレーターが設置された事だ。
これはマシン全体の空力コンセプトを大きく変更させるとなる筈なので、
当初の空力コンセプトが失敗であったのか、または事前にオプション(選択肢)としてあった変更なのかは不明。
尚これに伴いカメラの位置が、フロント・サスの前側から、フロントウィング・ステーの両脇へと移動された。
マクラーレン:冬のテストでは周囲から速さを疑問視されていた様だが、
まだシーズン序盤だというのに、レースの作戦次第ではレッドブルに挑戦できる程までにマシンは進化した。
レッドブルがいつまでもKARSの信頼性に手を焼いている様であれば今シーズンも面白くなるかもしれない。
今シーズンのMP4-26は、フットボックス下方のダミープレートに何らかの工夫を施している様で、
スキッドブロック上側でのプレート前部の厚みが目測で40mm程もある様に見える。
スキッドブロックの外側では、ごく普通に薄いプレートとなっており、
詳細が判る写真を観られるまでは、あの厚みがウエイト内包の為なのか空力デバイスなのかは不明。
ルノーを含む4チームの可変リヤウイングの操作方法:
ニック・ハイドフェルドは、今シーズン、ルノーに加入した時に、「KERS操作をキックダウン式に」と提案したと認めた。
これはスロットル・ペダルを全開より更に強く踏み込む事でスイッチをオンにする手法。
彼は以前トラクション・コントロールが搭載されていたシーズンに、キックダウンのアイデアを思いつき、
実際にBMWザウバーでこのシステムを実戦で使用していたとコメントした。
マクラーレン:
今季からサイドポッド上面に、内側と外側で大きな段差というか空間を造り出してきたが、(*これは大昔から筆者の常套手段である)
コクピット側面に、上下にカーブさせた整流板を追加装着した。正面から見るとリヤビューミラーのステーと被さる様な形だ。
これによりリヤウイングへの気流進路を安定させた状態としている。
今年のニューマシン発表でルノーが世間を驚かせた「前方排気」の手法は、冬のテストでは試していた様だが、
開幕の実戦では使用しなかった。排気ガスは、コークボトル側面から、ディフューザーと後輪の隙間へ吹きつけ加速させている。
そして、アルバート・サーキットは公園内にある事から、路面に木の葉が落ちる為、ブレーキ・ダクトに金網を装着した。
しかしこれは空気取り入れ効率の面で不利となるので、他チームはメッシュの装着を行っていない。
フェラーリ:
フロントウイング・ステーを、ウイングを吊るす為に必要な量を越えて、後方へ延長した物を投入した。
これは強度の目的ではなく、空力面の都合からそうしてある。現在の規定ではフロントウイング中央部にフラップを装着できない為、
車体底面への空気の綺麗な流れを阻害しない様に、合法の範囲とできるステーの後方延長を施した訳だ。
ザウバー:
サイドポッド両脇前端から直接生やした、気流進路制御プレートを投入した。
それを観て、筆者はそれを(勝手に)「アッパー・ボーダー・プレート」と名付けた。
このプレートの上から見た翼断面・形状は、外側が高圧型で、内側が低圧型にデザインされている。
このデバイスと縦のベーンとの連携により、より細かく気流進路を制御している。
各マシンのリヤサス・プルロッド:
ここ2年間の最速マシン、レッドブルの影響を受け、多くのチームがリヤサスをプルロッド式とした。
カーボンは引っ張り方向の力に弱い為、ロッドの素材は金属としてある様だ。
金属は熱で膨張するので、筆者が思うに、排気ガス吹きつけ量でロッド長さを変えるテクニックもあったりするかもしれない。
前回の2010/ 7/29の記述で、誤った内容を掲載してしまいましたのでお詫びと共に以下 訂正致します。
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現在発売中の「AUTO SPORT」誌にて、ルノーF1チーム技術部門の重要人物である徳永直紀氏が少し明らかにしてくれたので(多謝)以下要約/加筆する。
まず、ステアリングホイール裏側には、電気信号でクラッチを操作するパドルがあるが、
そのクラッチ・パドルは、左右両方が同じ制御状態でなければならない規定となっている様だ。
以下、スタート・ダッシュの制御について。
決勝レースのフォーメーション・ラップ時に、ドライバーは色々な事をし、車載センサーで路面コンディションをデータを採取する。
そのデータはフォーメーション・ラップ中にピットのコンピューターへ送信され、
そのデータから、担当エンジニアがドライバーへ無線で、クラッチの制御をどの値にするか伝え、ドライバーがダイヤル等でその値へセットする。
(この時、クラッチをリリースする際のエンジン回転数も指定される様だ。)
マシンがグリッドに停車する前にドライバーはギヤをニュートラルに入れ、左右両方のクラッチ・パドルを引く。
この時、左側パドルを引いておく位置は「半クラッチの位置で保持し」、右側パドルは完全にクラッチを切る。
ブレーキを踏んだ状態で待機し、レッドシグナルが点灯したらギヤを1速へ入れる。
そしてスロットルを調整しエンジンを指定の回転数に保ち、ブラックアウトを待つ。
シグナルがブラックアウトしたら、ブレーキ・ペダルを放すと同時に、
左側のクラッチ・パドルを半クラッチの位置で保持したまま、右側のパドルを完全に放し、スタート・ダッシュする。
この時が半クラッチ状態での発進となる。(ここが発進加速度の決定的要素となる。)
そしてある程度車速が上がったら左側の(半クラッチ状態の)パドルも完全に開放し、クラッチは完全に繋がる。
という事で現状では、もしマシンが遅いスタートを切ったとしても、それはドライバーのミスではなく、エンジニアの判断ミスと云う事だそうだ。
ステアリングホイール裏側には、電気信号でクラッチを操作するパドルがあるが、そのクラッチ・パドルで、
左側のパドルを引くと、半クラッチ接続(滑らせる)状態となる様にしてあり、
右側のパドルを引くと、クラッチは完全に開放される。
決勝レースのフォーメーション・ラップ時に、車載センサーで路面コンディションのデータを採取し、
そのデータはフォーメーション・ラップ中にピットのコンピューターへ送信され、
そのデータから、担当エンジニアがドライバーへ無線で、クラッチの制御をどの値にするか伝え、ドライバーがダイヤル等でその値へセットする。
(この時、クラッチをリリースする際のエンジン回転数も指定される様だ。)
マシンがグリッドに着いたら、ドライバーは左右両方のクラッチ・パドルを引いたまま、ブレーキを踏んだ状態で待機し、
レッドシグナルが点灯したら、スロットルを調整しエンジンを指定の回転数に保ち、ブラックアウトまで待機する。
シグナルがブラックアウトしたら、ブレーキ・ペダルを放し、左側のクラッチ・パドルを引いたまま右側のパドルを放しスタート・ダッシュする。
この時が半クラッチ状態での発進となる。(ここが発進加速度の決定的要素となる。)
そしてある程度車速が上がったら左側の半クラッチ・パドルも完全に開放し、クラッチは完全に繋がる。
という事で現状では、もしマシンが遅いスタートを切ったとしても、それはドライバーのミスではなく、エンジニアの判断ミスと云う事だそうだ。
尚且つ、多段ディフューザー内の低圧によって排気流を吸い引し、エンジン出力を向上させる効果もあるかもしれない。
このシステムの構造はこうだ。
まずインダクションポッドの上半分のエア・インテークからリヤウイング・フラップへ気流を供給、
これで中空フラップ内へ空気を充填し、フラップ裏の1.5mm程のスリットから気流を噴き出す。
これによりリヤウイング後ろ側は、噴き出しスリットからの勢いある気流に引っ張られて、
気流の剥離(=失速=ストール)を防ぎ、ダウンフォースを発生する。
そして、モノコック上面左側に設けられたエア・インテークは、車体の中の管の中を通ってリヤウイングへ繋がっている。
ここがポイントとなる。この管は、ドライバーの左腕の肘の辺りに「穴」を開けてある。
よって、ドライバーが左肘で管の穴を防げばリヤウイングへの充填気流供給量は増し、
左肘で管の穴を防がなければ、コクピット内から外へ空気が漏れ、車体の空力的影響はほぼ無い。
つまりドライバーが左腕の肘で管の穴を塞ぐ事により、リヤウイングへの気流供給量が増し、
リヤウイング・フラップから噴き出される空気量は、剥離防止目的の量を超え、ダウンフォースとドラッグが軽減される。
これがFダクトの正体であると云ってほぼ間違い無いであろう。
レッドブル:
エンジン・エキゾースト・エンドの位置が、今回のバーレーンGPで変更された。
これまで排気口は(昨年同様)、サイドポッド上面、リア サス アッパーアームの下側を通る位置にあった。
今回のバージョンでは排気口はサイドポッド側面の下部とされ、排気流はロワアームの下側を通らせている。
これにより排気流はサイド・ディフューザー上面に流れ、ロワウイングの下側を通る事となる。
よって排気管自体の設計も大幅に変更され、エンジン出力特性も変化しているだろう。
エンジンカウル後端のラジエーター熱気排出口も、気温の高いバーレーン用に大砲の様な大サイズの筒とされた。
この熱気(流速が低く、圧力が高い)は、ロワウイング上側を通る為、僅かながらダウンフォースの増加に寄与しただろう。
フェラーリ F10:
巷の噂だが、F10は「エンジンとギヤボックス全体」を約3度〜4度程、「前傾」させて搭載している可能性がある。
そう言われてみれば最底センターディフューザーにはエンジン・スターターを差し込む穴が見当たらない。
もし噂通り前傾させているのならば、ギヤボックス下面とアンダーパネル上面に「空間」が出来、
多層ディフューザーへ更なる多量の気流を送り込む事が出来る。
そうであれば重心が高くなってしまうデメリットがあるが、それ以上に空力性能寄与のメリットが有るのであろう。
サイド・ディフューザー下面の跳ね上げは、規定幅一杯までは使ってはおらず、今後アップデートの余地有りかと思う。
リヤ・クラッシャブル・ストラクチャー(衝撃吸収構造)は、ギヤボックス後端から直線的に後方へ伸びる安全な設計。
リヤウイングの支持法も、上段ウイング下面から下方へ2本のステーでギヤボックス上面へ接続する無難な設計。
これら2つはリスクの少ない方法を選択した訳だが、空力効率面では保守的と云わざるを得ない。
リヤウイング全体は、ロワ・ウイング下面中央の1本の支柱で、リヤ・クラシャブル・ストラクチャーと接続している。
これでリヤウイング(もの凄い強大な空気抵抗とダウンフォースの負荷が加わる!)を支えられているのだから、
現代のF1コンストラクターのカーボン・コンポジット生成技術には脱帽だ!
尚、湾曲したロワ・ウイング中央部の跳ね上げ角度が浅くなっている事から、ロワ・ウイング後部には追加フラップを装着してある。
このフラップの付け根は前側にある極小なステーで、車速が高速域では可変して角度が寝そうで、後に問題になるかもしれない。
ロワ・ウイング下側の翼端板には、昨年筆者が考案した様な「剥離防止スリット」が片方3本づつ開けられている。
いい加減金払え!!(笑)
翼端板付近は境界層(=流体粘性の摩擦による運動エネルギー低下の増加現象)が起きる為、ウイング両端は気流が剥離し易い筈である。
リヤサス・プッシュロッドの車体側取り付け位置の間隔は狭く、空力面では有利だが、
スペース上、ロッカーからダンパーへのレバー比は小さくならざるを得ない筈で、
左右のロッカーに挟まれるピッチ・コントローラーは少ないストロークでも要求される就脚性能を発揮しなければならない。
尚、サイド・ディフューザー両端の上端には、ガーニーが付けられているが、
正直なところ筆者には此れがどういった役割があるのか解らないで居る。
テール・ライト後端には、余計な断面積は存在せず、ウエイクを最小限にし、空気抵抗の増加を防止してある。
「ウエイク」とは、車体後部に出来る空気の塊で、これを引きずりながら走行する事が車体後部の空気抵抗となる。
尚、ダウンフォースを得たいレーシングマシンと、空気抵抗の削減が主な目的の市販乗用車では、車体後部の空力設計概念が異なる。
市販乗用車では、ホンダのインサイト(初代から)やトヨタのプリウス(二代目から)では、
車体上面後端での揚力を丁度 +/-0 となる様に設計する。その理由は、
車体上面後端での揚力をプラス以上としないと、車体後方の低圧域が車体付近の気流までに作用し、
車体全体を後方へ引っ張ってしまい、大きな空気抵抗となってしまうからだ。
比べてレーシングマシンでは、車体後方の低圧域を意図的に車体底面まで作用させ、
車体底面の気流を後方へ引き抜く事で強大なダウンフォースを得ている。
C29のサイドポッド後部コークボトルの絞り込み幅は狭くなっており(400mm程か?)、これは
サイド・ディフューザー上面へ速い気流を供給し、ディフューザー下方の吸い込み効率を上げている。
これは空気に粘性が有る為で、上面の速い気流が下面の(運動エネルギーを失いつつある)気流を引きずり上げる効果がある。
この現象は大昔に、マクラーレンでジョン・バーナード率いる開発チームが立証した。
写真では明らかではないが、周辺の形状からして、多層ディフューザーの流量はかなり多そうだ。
アドリアン・ニューエイも先日のインタビューで、「出口が大きければ、同時に入口も大きい筈だ。」とコメントしている。
これは尤もなコメントであって、何故ならば、もし入口が小さければ、ディフューザー内で気流が途中で剥離してしまう為である。
よって、ステップ・フロア側面には、かなり長く「吸入口」が開けられている事が推測できる。
車体底面からディフューザー後方へと気流を吸い込むエネルギー源は、車体後方の負圧(低圧)である。
これについては上の「ウイリアムズ FW32」の項を参照。
尚、昨年まで、マクラーレン製のギヤボックスを使用するマシンは、エンジン・スターターは、
車体右側へオフセットした位置に穴があったが、今年からは一般的な車体中央部への位置にあらためられた様だ。
そして2010年のレギュ変更として、前輪外側のホイール・カウルの装着が禁止された。
レース中の給油禁止となると、ピットインでの作業は、タイヤの交換と、ラジエーター・エアインテークの掃除に限られる。
拠ってピット作業はタイヤ交換のタイムの勝負となり、(恐らく最速で3秒台に入るかもしれない)
前輪外側の無回転ホイール・カウルを装着している時間は無くなると思われる。
燃料タンクの容量アップに拠り、マシンのパッケージ・レイアウトは相当変更せざるをえなくなる筈である。
サバイバルセルを前方へ移動させるか、ギヤボックスとオイルタンクの前後長を短縮するか等。
拠れにより、マシンのパッケージ・レイアウトはデザイナーの頭をかなり悩ませる事になると思われる。
ブラウンGP: ノーズ上面の両端に、横から見たノーズ上面のカーブに沿う形で、僅かな幅のフィンの装着が確認できた。
これは2009年F1テクニカルレギュレーション「3.7.8」に違反しないのだろうか?
このフィンの空力目的は、ノーズ上面から左右へこぼれる気流のガーニーフラップの役割を果たしている事が考えられる。
リヤディフューザー(画像はこちら)は、中央に逆三角形の排出口を持ち、ここから車体底面の気流を吸い出している様だ。
スプリッターは左右合わせて4枚で、(両端のフェンスは含まず)
内側のスプリッターはリファレンスプレーンの範疇として、外側のスプリッターよりも50mm低くなっている。
ディフューザー両端はとても大きなガーニー壁を装着しており、ここから後輪の後方へ気流を向けている様だ。
レッドブル: リヤサスの後ろ側アッパーアームは、左右のアームが車体側取り付け部分でほぼ繋がっており、
ギアボックス上側に設けられたキールで支持されている。
これによりリヤウイング下段の有効幅を広くできている。
リヤウイング下段は中央部が左右で繋がっており、リヤ衝撃吸収バーの左右から生える形では無い。
ギアボックス後端の低めの位置から生えているリヤ衝撃吸収バーは上昇カーブとなっている。
このデザインによりリヤの空力効率を格段に向上できるが、
衝撃吸収テストをクリヤするにあたってかなり労力が必要であったと思う。
エンジンカウルの垂直フィンは更に後方へ伸び、リヤウイングにまで達している。
BMWザウバー: 前輪アップライト内側に、上下2枚のウイングを装着している事が確認できた。
フットボックス下部のセパレーターは、かなり前方まで伸びている。
トヨタ: フロントウイング翼端板の外側に、1枚、縦のベーンが追加された。これで気流の調整をしている。
リヤサスのユニットは、ロッカー(ベルクランク)が異常に巨大だ。
左右のダンパーは、2004年のウイリアムズと同じ様な設計の様だ。
ウイリアムズ: フロントウイング・ステー後部のノーズ下面には、
T字を上下逆さまにした、ノーズ下面の気流を左右へ分けるスプリッターを装着した。
画像はこちら。
これにより空力的には、事実上、ノーズ先端が低くなった様な形となる。
フェラーリ: ノーズ下側には小型のディフレクターの装着が確認できた。ロワアームの付け根と一体化している。
サイドポッドは全体的に丸みをおびた形状になった。
リヤウイング・ステーと翼端板とを繋ぐ細い直線のロッドの様な物が見える。
リヤウイング上段は、昨年のトヨタの様に、
規定範囲外である中央部にスリットを切ってあるかもしれない。
その為、間隙フラップの形状が左右に直線では無く湾曲した物となっているのかもしれない。
リヤディフューザーは全域に渡って底面を跳ね上げるタイプで、
スキッドブロック底面からの気流も上昇流に合流させている。
ディフューザー上面は、リヤ衝撃吸収バーと一体化とは分離しており、
ラジエーターの熱気は、リヤ衝撃吸収バーの下側にも排出している。
ディフューザー下面のスプリッターは左右合わせて4枚(両端のフェンスは含まず)。
リヤウイング下段の上方は、翼端板にスリットを1本切ってあり、後輪の後部へ高圧流を排出している。
マクラーレン: リヤディフューザーは、中央部が逆三角形の形状で、底面後端より上部は絶壁状となって塞がれている。
これでは気流がかなり剥離してしまうが、全域に渡ってディフューザーを跳ね上げると、
気流が上手く吸い出せない問題を抱えている様だ。
スプリッターは左右合わせて6枚で、(両端のフェンスは含まず)
内側のスプリッターはリファレンスプレーンの範疇として、外側のスプリッターよりも50mm低くなっている。
リヤウイング下段の中央部は、リヤ衝撃吸収バーの上をまたぐ形の、逆V字型となっている。
しかしこのデザインが空力的に有効なのかどうか筆者は懐疑的だ。
マクラーレンのギアボックスは今季もエンジン・スターターの穴は車体中央ではなく、やや右にある。